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一章:精神病×難病×家庭教師
家庭教師の過去 04
しおりを挟むああ、これが恋なのか。
やっと脳が他の言葉を浮かべたかと思えば、そんな乙女チックなものだった。
ゆっくりと、唇が離れた。
どのぐらいぴったんこだったかなど、恋すらまだの初キス野郎の俺には見当も付かなかったが、それでも名残惜しく感じるのだから、やはり頭が停電しているようだ。
「……な、なんで?」
「ごめん」
「え、なに謝ってんの?」
「うん。許可もなしにキスしちゃったから」
「あ、そっか」
「うん」
まだ頭が停電中のためか、なんとも間抜けな会話になってしまった。
少し離れた椎名さんの顔が、俺を見詰めている。
離れたといっても、それでも至近距離に変わりはない。
額同士があと数ミリで着きそうな微妙な距離感だ。
「なんで、キスしたの?」
「したくなったから? うん、なんか愛しくなって。こういう気持ち、なんて言うのかな?」
「俺に聞かれても、解んないよ」
首を傾げる椎名さんには、困り果ててしまう。
微妙な展開だ。
こういう時、どうしたら良いのだろうか。
「それもそうか。俺、つぅ君のこと好きなんだろうな。こういうのが、恋って言うのか」
染々と呟く椎名さんに、吹き出しそうになって、必死で堪える。
「椎名さんって、恋したことないの?」
「うん。あんま他人に興味なくてさ」
「ふーん。で、俺のこと……その」
「それよりさ、今日は勉強無理そうだし、俺帰るよ」
照れたように笑う椎名さんに、本題を問い詰めようとするも、はぐらかされ、その上、流されてしまった。
なんだこの展開は、と茫然としている俺の頭を、椎名さんの手がぐしゃりと撫でる。
「今度、ちゃんと話そう? つぅ君の体調が良い時に。俺も自覚したばっかだから、心の準備が欲しいし」
俺の好きな椎名さんスマイルで言われてしまえば、頷くしかない。
確かに、俺にも心の準備は必要だ。
いつか心臓が爆発して死んでしまうかもしれない。
そうならない為にも、準備は必要不可欠だ。
俺はとびっきりの笑顔で頷いた。
「じゃあ、ちゃんと休むんだよ」
最後にもう一度、椎名さんの手が頭をくしゃくしゃと撫でて、離れていった。
そのまま部屋から出ていく大きな背中を、布団の中でただ見詰めているのだった。
恋だとか、愛だとか、そういった高尚な気持ちは、俺にはまだ理解出来ないが、この胸の高鳴りは誤魔化せないのだ。
理由ではなく、想いが重要なのだろう。
『好き』に理由なんか要らないのだ。
それよりも『好き』だという気持ちが大事なんだと、そんなことを思った。
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