上 下
17 / 33
一章:精神病×難病×家庭教師

家庭教師の過去 04

しおりを挟む


ああ、これが恋なのか。
やっと脳が他の言葉を浮かべたかと思えば、そんな乙女チックなものだった。


 ゆっくりと、唇が離れた。
どのぐらいぴったんこだったかなど、恋すらまだの初キス野郎の俺には見当も付かなかったが、それでも名残惜しく感じるのだから、やはり頭が停電しているようだ。

「……な、なんで?」
「ごめん」
「え、なに謝ってんの?」
「うん。許可もなしにキスしちゃったから」
「あ、そっか」
「うん」

まだ頭が停電中のためか、なんとも間抜けな会話になってしまった。
少し離れた椎名さんの顔が、俺を見詰めている。
離れたといっても、それでも至近距離に変わりはない。
額同士があと数ミリで着きそうな微妙な距離感だ。

「なんで、キスしたの?」
「したくなったから? うん、なんか愛しくなって。こういう気持ち、なんて言うのかな?」
「俺に聞かれても、解んないよ」

首を傾げる椎名さんには、困り果ててしまう。
微妙な展開だ。
こういう時、どうしたら良いのだろうか。

「それもそうか。俺、つぅ君のこと好きなんだろうな。こういうのが、恋って言うのか」

染々と呟く椎名さんに、吹き出しそうになって、必死で堪える。

「椎名さんって、恋したことないの?」
「うん。あんま他人に興味なくてさ」
「ふーん。で、俺のこと……その」
「それよりさ、今日は勉強無理そうだし、俺帰るよ」

照れたように笑う椎名さんに、本題を問い詰めようとするも、はぐらかされ、その上、流されてしまった。
なんだこの展開は、と茫然としている俺の頭を、椎名さんの手がぐしゃりと撫でる。

「今度、ちゃんと話そう? つぅ君の体調が良い時に。俺も自覚したばっかだから、心の準備が欲しいし」

俺の好きな椎名さんスマイルで言われてしまえば、頷くしかない。
確かに、俺にも心の準備は必要だ。
いつか心臓が爆発して死んでしまうかもしれない。
そうならない為にも、準備は必要不可欠だ。
俺はとびっきりの笑顔で頷いた。

「じゃあ、ちゃんと休むんだよ」

最後にもう一度、椎名さんの手が頭をくしゃくしゃと撫でて、離れていった。
そのまま部屋から出ていく大きな背中を、布団の中でただ見詰めているのだった。




 恋だとか、愛だとか、そういった高尚な気持ちは、俺にはまだ理解出来ないが、この胸の高鳴りは誤魔化せないのだ。
理由ではなく、想いが重要なのだろう。
『好き』に理由なんか要らないのだ。
それよりも『好き』だという気持ちが大事なんだと、そんなことを思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖也と千尋の深い事情

フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。 取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

処理中です...