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一章:精神病×難病×家庭教師
友人は大切に 05
しおりを挟むふざける七海に苦笑を返せば、問い掛けた。
七海は黙って聞いていたが、その顔に感情はなかった。
「家庭教師のこと? やっぱり妬けるなあ」
冗談なのか、はたまた本気なのか、七海の顔からは読み取れなかった。
パンを千切り、口に放り込むと、彼はもぐもぐと咀嚼した。
「ツウリは、恋をしたんだな、その家庭教師のセンセイに」
ごくり、と飲み込めば、人差し指を立てて彼は宣った。
俺は暢気に食べていたウインナーを詰まらせてしまう。
「なっ、ななな、恋!? おま、そ、な、男、だし。椎名さん、男だし。俺も、男だ」
「そら、お前が女だったら、俺は今頃襲ってんぞ」
噎せ返り、慌てて水筒に手を伸ばす。
蓋を開けて水分を喉に流した。
落ち着いた頃に、言葉を返すも、動揺を隠せない俺を、七海はけたけたと笑い飛ばした。
冗談にしても笑えない内容だ。
俺は眉を潜めた。
「ふざけんな。襲われてたまるか」
「とか言っても、ツウリ。お前、その体で抵抗、出来んのか? 少し考えた方が良いぞ。世の中には、男もイケる野郎がそれなりに存在してんだ。女じゃないからって安心すんなよ」
ふん、とソッポを向くも、ふざけていた筈の七海が真剣な声色で告げた。
どういう意味だ、と七海を凝視した。
七海は笑っていない。
怖いぐらいに真顔だ。
「抵抗、するのが難しいんだ。あんま無防備でいんなよって、優しい七海君からの忠告。じゃないと、色々奪われちゃうよ。こんな風に、さ」
にいっ、と悪戯に七海の口端が上がった。
距離が縮まっていくのを、ぼんやりと眺めていた。
頬に柔らかな感触を感じる。
七海の唇が押し当てられていた。
「っっ!? なっ、何すんだよ!」
ばっ、と身を逸らし、片手で頬を押さえる。
信じられない想いで七海を見詰めた。
顔が熱くなるのが解った。
七海は、あははと悪気ない様子で笑い、前のめりになっている上体を元の位置に戻している。
七海の手が、またパンを千切った。
小さくなったパンは、七海の口内に吸い込まれて消える。
「いいじゃん、頬ちゅーぐらい。こうやって簡単に奪えるんだから、気を付けなさいよ。部屋で二人っきりなんでしょ。恋は盲目って言うからね。流されたらダメだよ?」
ごくん、と喉仏が上下するのが見えた。
七海は片目を瞑り、ぐっと親指を立ててみせた。
不思議な奴だ。
怒るのも馬鹿らしくなり、俺は苦笑いを浮かべた。
「まだ恋って決まった訳じゃないだろ」
「ツウリって、恋愛したことあんの?」
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