元悪役令息の恩返し 〜 恋のキューピットをしているはずなんですが、もしかして空回ってます? 〜

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番外編 BLゲームの主人公事情(8)

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 大会当日。

「じゃ、アンティ。頑張ってね!」

 保健テントの前でアマナが激励してくれた。

「おう、アマナが”オレのため”に色々丁寧に教えてくれたからな。上位目指すぜ」

 アマナに見送られながらオレはもらった情報を元に決めた場所に移動を開始する。
 すこし離れた場所に風紀委員の集団が見えたが、いまはこの”鬼ごっこ大会”の上位を目指すことに集中しているので、意識から流す。


『それでは、全学年参加”鬼ごっこ大会”スタートします』


 学園内に響いたアナウンスとともに、鐘の音が鳴り響いた。


「いたっ!」
「捕まえろ!!」

 バタバタと駆け回る音を聞きつつ、潜伏を続ける。
 アマナから聞いた情報は、学園敷地の情報だ。
 オレのいた村がすっぽり入ってしまうじゃないかと思うぐらい広い敷地を持つ学園。
 林などの場所は禁止されているが、それ以外は進入して良い。
 隠れるなら人気ひとけない場所がいいけど、その分、危険がある。事故や怪我、争いが起きた場合、助けがこないし、味方もいない。

 オレの立場からして、この機会に痛めつけようという悪どい人間もいる。

 自分の身を守るために情報は必要。
 上位を目指さないのであれば、すぐにつかまってしまった方がラクだ。

 だけど、アマナと約束もしたし、オレもやりたいことがある。

 アマナから教わった潜伏するのに最適な場所から様子を見る。
 でもずっと安全とは言えない。
 時間が経てば経つほど、探索はされる。
 けれど、体力は温存できる。

 そして見つかった場合の逃げ道の確保も重要だ。
 やみくもに逃げても行き止まりや挟み撃ちになったら捕まる。
 それらの知識は圧倒的にオレは不利な部分を、アマナからもらった情報で強化した。

「見つけたぞ! アンティ・ガーデン!!」

 ガラッと音を立てて開くドア。
 二人組の生徒たちが出口を塞ぐように立っている。

「お、予想より遅かったな」
「はぁ? なに言ってんだ」
「逃げ道はない。大人しく降参しろ」

 それは、お前らだったら。だろ?

「イヤだね」
「や、やるか!?」
「言っとくが手を出すのは禁止だぞ! 罰になるんだからなっ」

 身構える二人組を横目に、オレは窓に向かう。
 勢いよく窓を開けると、ひゅうっと風が吹きこんできた。

「もちろん。じゃ、また会えたらな」

 窓枠に足をかけて、飛ぶ。

「ウソだろっ!?」
「ひぃぃ!!」

 悲鳴に近い声が離れていく。

「よっと」

 枝をつかんで、くるりと身体を回して木の上に乗る。
 自然豊かなこの学園には手入れされた整った樹々が建物を囲むように生えている。
 田舎で育ったオレに、建物から樹々に乗り移ることは難しくない。
 母に怒られたり、遊ぶために抜け出したり、イタズラしたりで体力には自信がある。
 これができるのは、アマナの情報と自然が豊かに管理されている学園だからこそ使える技だ。オレのような育ちをしていない奴らにとっては思いつかない方法だろう。

 目星をつけていた隠れ場所を転々と移動しながら、鬼から逃げる。
 繰り返しているうちに、時間は経っていて、逃げている人数も絞られてきたのか、追いかける人間おにの数も増えてきた。

 ・・・段々、面倒になってきたな。
 そろそろ、捕まっても大丈夫か?
 アマナとの約束もあるし、確実に入っているか確認するか。

 鬼ごっこを集計している本部へと向かう。
 その近くには、アマナがいる保健テントがいるので様子を見たかったという気持ちもあった。


「オーアマナはどうした?」

 保険テントの近くに立つ、ボサボサな髪にヨレヨレの白衣を着た男には見覚えがあった。
 アマナとの会話にもちょくちょく出てくる保健医だ。
 その保健医と生徒とが話している声に耳が吸い寄せられる。

「それが気付いたら姿を見えなくて」
「さっきの現場には一緒に……」

 アマナがいない?

「どこからいなくなったんだ。チッ、風紀委員に連絡しろ」
「はい」
「お前たちも、二人組移動を徹底するんだ」

 保健医は指示を出しながらガリガリと頭を荒くかいた。
 なにが起きてるんだ。

「きみ、そこでなにをしているの?」

 ぽんと肩に手を置かれる。反射的に振り返る。
 気を取られていたとは言え、まったく気配に気づけなかったなんて。

「あれっ!? アンティ・ガーデン!?!?」

 見たことあるような、ないような。
 黒に近い髪を持ちメガネをかけた目の前の男は、なんというか地味。
 でも、腕に巻かれているのは風紀委員の腕章か。

「そういうあんたは……風紀委員?」
「そうだよ! なんの権力を持たない、ただの風紀委員、ウメタロウです!」

 にっこりと人の良い笑顔を浮かべた男、ウメタロウは嬉しそうに自虐じみたよくわからない自己紹介をしてきた。

「…どうも」
「あぁ、でもどうしよう。きみまだ捕まっていないよね。声かけちゃってごめんよ。たしかこういう場合は30秒だけ逃げる猶予が与えら……」
「いい。それより探したい人がいる」
「よかった、うんって、え、なに?」

<風紀委員、全員に通達。オーアマナ・アンベラが行方不明。総員捜索しろ>

 ウメタロウが付けていた通信魔道具から漏れ聞こえた音。
 それだけで十分だった。

「えっ!? あ、えっと、僕はいまから超重要案件があるから、きみは鬼ごっこの続行を」
「しない」
「しないぃぃ!?」
「オレ、その超重要案件にくわわりたいんだよね」

 にっこりと笑えば、ウメタロウは「うえぇ…」とわかりやすく嫌がる声を出す。

「アマナと同室だから、きっと誰よりも役立つと思うよ」

 まずい薬を食べたような表情を浮かべたウメタロウは最後には「緊急特例だからね」と、かなり念押しして、オレが参加することを了承してくれた。

「最後にアマナを見た場所はどこって言ってたの」
「えっと、たしかに生徒同士のトラブルがあった場所はーー」

 そう指差された場所には心当たりがあった。

『大会中はいないかもしれないけど、念のために、ここと、ここは素行が悪い人がよくたむろっているから気をつけて』

 アマナはどこか抜けている。
 誰かのためなら尚更、危険をかえりみない人間だ。

「その場所、たしか人目につきにくい物置が近くにあったよな」
「え、うん。でも。見回りの時には」
「行くぞ」
「ちょ、ほ、報告をしないと、って、ボクの話を聞いて!?!?」

 風紀委員とは思えない情けない声を出しているウメタロウは無視して走る。
 そうして到着した場所には、獰猛な獣のように人間を吹っ飛ばしているクンシラがいて、その様子を呆然と見ているアマナがいた。

 頭に血がのぼり過ぎだろうが。

「アマナ」
「・・・アンティ?」

 オレの呼びかけにゆっくりと顔を上げたアマナ。
 服が乱れ、顔色が悪い。弱ったその姿に、ぐっと喉が詰まりかける。

「っ…大丈夫か?」
「あ、う、うん。なんとかね」

 ゆるく笑みを浮かべたアマナ。
 心配させまいとしての行動だと分かった。
 だからオレは静かに上着を貸すことにした。

 それから一通り暴れ回って現場を鎮圧したクンシラは集まってきた風紀委員たちに指示をすると、アマナを壊れ物を扱うみたいに恐る恐る手を伸ばして、風紀室へと向かった。

 まったく、手がかかるやつだ。
 お前のためじゃない。アマナのためだ。

「アマナっ!!」

 着替えもなしに、事情聴取や保護だとかで風紀室に連れて行ったクンシラ。
 フツーに考えたらあいつらに触られた服だとか、触れたくも見たくもないことに気づかないのか。
 そんなバカな風紀委員長様の代わりに、オレはアマナの着替えを持ってきた。

「わっ」

 だから、これぐらい……ご褒美でもらっていいだろう?
 ぎゅうぅと腕いっぱいに抱きしめ、アマナの温もりを感じる。

「あ、ありがとう。てか、苦しいんだけど?」

 アマナの戸惑った声にハッとする。

「ごめんごめん。ほんと大丈夫か? 気持ち悪くない??」
「? お風呂に入ってスッキリしてるよ?」

 相変わらず、すこしズレたアマナに気が抜けてしまった。

「そっか。なら、よかった!」

 そうアマナに笑いかけた瞬間、ビリリと肌に電撃のようなものが走った。
 顔をあげるとクンシラのするどい視線とぶつかる。

「・・・」

 おいおい。クンシラ。
 これぐらいで殺気立てるなよ。ほんと、お前って・・・


「あ、クンシラ、アンティ。助けてくれてありがとうな!」


 クンシラと睨み合っていると、アマナは屈託ない笑顔でそう言った。
 その笑顔は月明かりのように優しく、とても綺麗で。
 呼吸することを忘れてしまうほどだった。




「異世界転生最大のピンチだったけど。何はともあれ、感謝の気持ちはキチンと言葉で伝えなきゃね!」
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Webコンテツ大賞、投票&閲覧ありがとうございました!
2023.12.1 kei

現在、番外編をのんびり不定期更新中
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