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 それは獰猛どうもうけもののようだった。

 落ち着いて考えてみると、そう表現できる。

 僕は現在、風紀室にある仮眠室にいる。
 しかも、風呂上がりである。

「あ、下着ない」

 一度着て脱いだ下着や服を着るのは現代日本で生きた記憶がある僕としては、気が進まない。
 かと言って、このままの状態でいるわけにもいかないので、腰にタオルを巻いて扉を開ける。

「ねぇ、クンシラ。下着どうしたらいい? てか、貸してくれない?」

 開ける直前までざわつきが聞こえていたはずの風紀室は、扉を開けたいまは無音になっていた。
 少ならからず人がいるはずなのに、時間が止まったかのようにみんな動きを止めている。ゲーム的には魔法とでも言えそうだけど、残念ながら僕にはそんな高等な魔法は持っていないので、単純に動きを止めているのだ。
 たしかに、上半身裸の男子が出てきたらビックリするだろうけど、ここいる人たちは全員、僕が風紀室ここにいることも、理由も知っているはずなんだけど。部屋の中はシンとした静寂に包まれている、謎。

「?」

 不思議に思っていると、いち早く動きはじめたクンシラはカツカツと靴音を立て、勢いよく歩いてくると、僕を仮眠室に押し戻したのであった。

「お前は、なんで、そんなに無防備なんだ!」

 叱られた。

「いや、だって、確かに、な、められたり、されたけど・・・助けてくれたし? なんか? 大丈夫っていうか?」

 そうなのである。
 絶体絶命の大ピンチ! まさか、自分がそう言う対象になるとは思っていなかった。身体を舐められたり、なんかよくわかんないが、首や胸など……あんまり思い出したくない記憶ではある。
 でも、こうして思い返すことはできるのは、目の前にいるクンシラという幼馴染の安心感なのかもしれない。

「それに、クンシラがいるしね?」
「・・・」

 安心させるようクンシラに向かって笑う。
 すると、クンシラは息をのんだ。なにかを耐えるように。

 わかっている。きっと、僕に言いたいの説教を飲み込んだのだろう。
 僕は、前世の記憶もあって、貴族社会のアレコレをスルーして、ついつい揉め事に首を突っ込んでしまうことがあって、幼い頃からトラブルを起こしている。
 その度に、クンシラはこんこんせつせつと小言という静かなる説教を僕にしていた。

 僕も僕だけど、まったく、本当にアイツら。
 思春期のイライラもあっただろうし、飢えていたのもあったんだろうなぁと理解できなくはない。
 でも平凡な僕に手を出すとか、もはやあわれみさえも感じてしまう。

 あの時。あれよあれよと驚いているうちに騒がれると困るからと、口には布を入れられて、チュー・・・キスは幸いなかった。
 だけど、スラックスに手をかけられた時は、もうダメかも。と思った瞬間。


 人間がぶっ飛んだ。物理的に。


 それをしたのはクンシラで、僕の目には心なしか燃え盛る炎をまとっているように見えた。ファンタジー世界だから、あり得ない話ではないけれど。たぶん、そういう魔法的なやつではない。
 それから、あっと言う間に、僕を押さえ込んでいたヤツらは悲鳴をあげる間もなく、床に沈んでいった。

「はぁ・・・」

 風紀委員として完璧な仕事をしたクンシラは現在、苦悶くもんの表情を浮かべている。
 鬼ごっこで大変な時に申し訳ない。やっぱり、疲れているんだな。

「アマナっ!!」

 クンシラに声にどう声をかければいいのか迷っていると、バンと勢いよく扉が開いた。かと思えば、ぶつかるようにぎゅうぅと抱きしめられる。
 この学園で、僕のことをこの愛称で呼ぶのはただ1人。アンティだ。手には、僕の着替え一式が握られているのが見えた。
 さすが主人公である。普段は鈍感すぎるキャラだけど、こういうイベントっぽ時にはかゆいところに手が届いてくれる。いろんな意味で待っていたよ!

「あ、ありがとう。てか、苦しいんだけど?」
「ごめんごめん。ほんと大丈夫か? 気持ち悪くない??」

 そうそう。アンティも今回、現場に駆けつけてくれていた。

 階段落ちをした複数の負傷者の診療終了後。
 戻ってきていない僕に気づいた、リンドー先生。
 現場に戻ると、保健用具の入ったバックだけが取り残されている。

 不審に思ったリンドー先生は、風紀委員に連絡、捜索願いを出したことが事件発覚につながったらしい。
 そして、アンティも、僕がいないと少々騒ぎになっていることを聞きつけたらしく、その場に居合わせていた。

 その時、鬼ごっこ大会は終盤で、やはり…と言うべきか、終了を待たずアンティは捕まってしまった。
 しかし、上位入賞には食い込んだらしく、さすが主人公としか言えない。僕の助言があったとは言え、愛の力はすごいな。

 あの現場では、獣のように暴れるクンシラを横目に、呆然ぼうぜんとしている僕を介抱しくれたのがアンティである。

 と、まぁまぁ。こんな異質な学校に通っているし。そんな噂も耳にしたことはあったが「まさか自分が」だ。
 それでも都市伝説のような噂であった暴行事件も、実際の被害としては、舐められて、お、襲われかけ、た。けれども、不幸中の幸いと言うべきか、突っ込まれなかったし、ただ全身舐められ、揉まれた。
 ・・・大型犬に襲われたと思えば。うん。”犬に噛まれた”ってこういうことなんだな、と身をもって知りました。

 こんな感じで、意外と精神的なダメージも少なく、すみました、まる。
 あー。よかった!!
 でも、こんなことを原作の僕は、主人公アンティにやろうとしていたなんて・・・。
 恐ろしい子! 原作の僕!!

 だけど・・・今回のことはさすがに反省した。
 みんな、すごく心配してくれるんだ。
 僕以上に。なので、今後は気をつけます。たぶん。善処します。うん。

「あ、クンシラ、アンティ。助けてくれてありがとうな!」

 何はともあれ、感謝の気持ちはキチンと言葉で伝えなきゃな!
 これはファンタジーであろうと、現代であろうと、大事なことである。

「「っ・・・」」

 あと、リンドー先生にも伝えなきゃなぁ。

 ちなみに、鬼ごっこ大会の表彰式は、翌日となっている。
 それだけ生徒たちは本気で逃げているので、みんな走り回って疲れているし、怪我しているヤツいるし、って感じで、理由を聞くと、確かに。と納得せずにはいられない。

「ふわぁ~…」

 とにかく今日は・・・疲れた。早く、ベットで眠りたい。
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