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 僕はよく空回からまわりをする。らしい。

 その証拠がこれだ。

「オーアマナ。これは、なんだ。俺の邪魔をしたい、という気持ちは…理解できる。しかし、俺以外に迷惑をかけるようなことはするな」

 僕の幼馴染であるクンシラは今現在、目の前で、大変お怒りになっている。
 しゅ色の髪が、炎をまとう太陽のように見えるほどに。

「クンシラ、ごめん! そんなつもりはなかったんだけど、うっかりミスっただけなんだ! 今度こそ! 今度こそ! 役に立つからさ!!」

 スライディング土下座!をしたいが、さすがにふざけていると思われるので、そこをこらえて、目の前でパンと両手を合わせて、誠心誠意の謝罪を示す。

「はぁ…お前は何もしないでいてくれるのが一番なんだが」

 しかし今の僕が出来る精一杯の謝罪に、クンシラは重い、重いため息を吐き出した。

「いや。でも。今回は失敗しちゃったけど、次回こそ! クンシラのキュ…」

 そして僕の口は大変ゆるい。

「俺のきゅってなんだ?」

 眉間にしわを寄せて、いぶかしげにこちらを見るクンシラ。
 でもすべては言っていないし、中途半端だったことにより、どんな言葉も結びつかない。はずだ。
 つまり、僕の作戦がバレることはない。
 だが、このまま黙っていることはできないので、なんとか頭を振り絞る。

「きゅ、きゅ救援者になってみせるから! 安心してね!!」

 自画自賛になるかも知れないが、その場で思いついたわりには、いい答えであると思う。

「……そこまで俺は落ちぶれていないし、仕事だって順調だ。お前が、邪魔を、しなければな!!」

 心なしか、ピキッと言う音が聞こえたような気がしないわけでもない。
 クンシラは「追い出せ」と、周りにいた部下たちに指示を出した。彼らは生暖かい目をしながら、僕をポイっと風紀室から追い出した。

「んー…なかなかうまくいかないな。まぁ、でも? ”クンシラの恋のキューピットをしよう!作戦”をしていることはバレずに済んだから、よしとしよう!」

 僕は気合を入れ直す。
 そうなのだ。現在、幼馴染であるクンシラの恋を絶賛応援している僕は、花も恥じらうピッチピチの王立クレーター学園、高等部2年、オーアマナ・ウンベラ。
 まるで月花のようだと言われることもあるけれど、たぶん、この白銀の髪のおかげだと思う。実際の中身ぼくを見てしまえば、そんな表現はおこがましい言葉だけど、カッコいいので喜んで受け取ることにしている。

 そしてクンシラは、クレーター学園で風紀委員、いや、先月から委員長に昇格した、すごい男である。
 みんなから頼られる委員長をしているんだけど、あまり愛想がない、というか、すごーく仕事に真面目で、ちょっと、とっつきにくい。
 だが、とても見目が麗しい。
 同じ男の僕だって憧れる、高身長(183cm)に、目鼻立ちの整っていて、頭脳も常に学年3位以内。 
 運動センスも抜群で、どんな武術だって不可能はないんじゃないかってぐらい、なんでもこなす。
 そんでもって、この国で有力貴族5本の指にはいる、ミニアタ家の嫡男!

 こんなスーパーパーフェクトな男。
 すごい通り越して、やばい。ちょっととっつきにくい、ぐらいのネガティブ障害なんのその、である。

 ふつーの学校だったら「きゃー! クンシラ様! クールビューティですー!!」って、なって、そんな障害をもろともしない!はずだが。この場所、学園に少々問題がある。

 ここ、クレーター学園は、の学園だ。

 つまり、有力な人材育成をする、という表向きを掲げつつ、ハイクラスの坊ちゃん貴族たちを集めて一括管理する学校である。
 もちろん、国の関係者の王子やら宰相やら騎士団長やらの息子などからはじまり、国外の有力貴族や王子だって留学にも来ちゃうのだ。
 だからミニアタ家が霞む。ってことはないが、やはり、交友関係は、追々の国内での立ち位置にも関わるから、下心のない付き合いって難しいのである。

 そして、僕はと言うと。一応、宝石商と説明できるだろう。
 正しく説明するならば宝石をメインにした商家で、ミニアタ家には劣るが、そこそこ有名だと思う。
 父親が宝石とか高級な貴金属をとりあつかうジュエリーショップを王都で店を開いているので、我が家を御用達な人が生徒の中にもちらほらいる。
 母親は舞台女優やっていて、その界隈ではかなり有名らしい。舞台に引っ張りだこで、あまり家にいることは少ない。
 ま、そんな感じで、両親共々、華やかな世界にいて、そこそこ知名度あるって感じ。トータルすればこの学校では、中ぐらいの層あたりである。

 そんな僕とクンシラは、幅広くコネクションがある父親の繋がりで、幼馴染やってまーす!って感じだ。

 思考がズレてしまったけど僕の話は置いといて、そんな、面倒な学校だし、恋愛どころじゃない。が、年頃の男子。欲求不満は溜まるし、恋愛したくなるよね。でも大丈夫、恋愛に性別なんて関係ないよ!と言うだ。

 あぁ、そうそう。僕はである。

 この西洋風とも言いがたい、日本の学校みたいな委員会が存在する、ちぐはぐなこの世界は【恋咲く花冠はなかんむり】というインディーズのBLゲームである。
 古き良き”BLの学園物”と”異世界ファンタジー物”をミックスしたら最高じゃね?と言う、インディーズならではの”製作者の好き”がつまったゲームだ。

 王道主人公と言われる身分違いな転校生(頭がもじゃもじゃ)がやってきて、有力貴族たちと次々恋に落ちていく恋愛シュミレーションゲーム、いわゆる乙女ゲーム。

 僕はその、攻略対象者と仲良くなる王道主人公に対して「身分が違う」「礼儀がなっていない」とやっかみ含めて、陰湿な邪魔をする”悪役令息”キャラだ。
 至極真っ当な指摘もするが、攻略対象に幼馴染のクンシラがいるので原作キャラの僕は心穏やかではないわけで。最終的には悪どいことに手を出してしまい嫌われののちに断罪、破滅してしまうのである。

 ま、前世の記憶をもった僕は、もうそんなことはしないけれどね!
 なので、現在の僕は”元”悪役令息。
 破滅回避もするし、主人公の恋路も応援しちゃいます!の仲良しスタイルである。
 
 そしてついにやってきたシナリオ通りの、ゲームの舞台である王立クレーター学園での生活。
 いつどこで、物語がはじまるのか、とドキドキしていた。
 正直、前世の記憶を思い出してしまったので、ちょいちょいストーリー展開が違っているし、そもそもゲーム内には出てこなかった幼少からスタートしたのだから不確定要素だらけで、いつ自分が悪役令息な展開に引っ張られるのか不安が残っていたのだ。

 だが、ついに、どこか近寄りがたく感じてしまう幼馴染であり、攻略対象のクンシラに春(イベント)が発生しましたよぉぉぉ!!

 その相手はもちろん。

「なぁ、アマナ。何、一人でブツブツしてんだ? 早く部屋に戻って、ご飯食おうぜ!」

 頭にのしかかる季節外れの転校生こと王道主人公のアンティ・ガーデン。
 何やら家の都合やらなんやらで遅れて5月にやって来た転校生。
 はい、設定通り! ようこそ、王道転校生!!

 そして距離感の詰め方、えぐい。
 僕のことを、会ったその日から独自に作り出した愛称「アマナ」と呼ぶ。

 最初はダサダサな瓶底メガネに、もじゃもじゃ黒髮をしていたんだが、その物珍しさから、生徒会の奴らに絡まれまくって、1週間。ブチっと切れて「オレは、こんなんじゃねー!」とか?叫んで、変装アイテムを取り外し、現在の金髪キラキラ美形主人公な風貌になった。
 はい、王道なストーリー展開!

 そしてメガネともじゃもじゃヘアで隠れてた瞳は空色で、プラス金髪。完璧に王子様、ですよね?ってな見た目です。わかりやすいキャラ設定。
 でもこの学園は美形ばっかりだし、この国の王子は王子でキャラクターが存在するので、見た目を裏切って王子ではない。でも、異国の王族の関係者なので、ある意味、王子とも言えるけど、設定盛りすぎでは?とは思うところでもある。
 だだ、悪い奴ではない。善良な人間キャラではある。さすが主人公。

「お、アマナ。意識、現実に戻ってきた? 買い物、早くすませようぜ。しっかし、お前、妄想はじめると長いよなぁ」

 いつの間にやら、僕は学園内にあるスーパーの前に来てた。
 前世の記憶を思い出している僕は、西洋ファタジーな食事は堅苦しく、このゲームの学園物設定にあった料理スペースを活用して自炊している。西洋料理も嫌いじゃないが、シンプルな和風ごはんが”前世もち”は落ち着くのだ。

「・・・ごはん作らないよ」

 僕の壮大なる”恋のキューピット作戦”にとって重要な振り返りを妄想と言うので、料理をたてに取る。
 アンティはゲーム内では存在しない、僕が作る家庭料理レベルの和風ごはんを大層気に入っていて、主人公補整もあるのか、あれよあれよと2人分作るようになっていた。

「ご機嫌斜めるなよ、アマナ。撫で撫でしてやるからな!」

 王子様がごとくの太陽みたいな美形スマイルが目の前に。驚いて心臓がドキリと跳ねる。
 パーソナルスペースちか。距離感バグってない?
 前世では平凡な生活をしていた僕からすれば、美形だらけの世界と言うのは頭で理解しても、心臓に悪いし、いまだに慣れそうにない。

「べ、別に、機嫌悪くないし! そんなんで機嫌なおるとか思わないでよね!」
「アマナは可愛いなー」

 最初はもじゃもじゃメガネな見た目での物珍しさもあったと思う。
 だけど、いわゆる上流関係ではない、明快な物言いをする、こう言うやり取りの下心のなさが、クンシラの心を射止めたようだった。
 はい! シナリオ通りです!

 ちなみに僕とアンティは、寮で同室である。
 転校してきた当初は、変装と貴族社会にはない破天荒ぶりに学園内は色んな点で大嵐だったが、アンティがブチっと切れてキラキラになってから、は少しずつ落ち着つを取り戻していった。
 そんなある日、様子を見にきたクンシラが僕たちの部屋にきた時、アンティのことを凝視した。

 あのー、すみません。僕、いるんですけどー?

 って思うぐらい、二人で見つめ合っていた。
 そして、僕はピーンときた。
 空回りしている。で、有名な僕だけど、そんな僕でもピーンときたのだ。

 これは「恋に落ちた」という、かの有名なシチュエーションだと。

 しかし、クールな大真面目なクンシラは、恋愛下手なようだ。
 たしかにキャラとしては攻略側なので、攻略のは苦手なのかもしれない。
 せっかく、僕と言う口実にできる幼馴染という存在がいるのだから、利用すればいいものの。
 そして、王道主人公たるアンティもアンティで、鈍感だし、下心がなさすぎて、クンシラのことをぞんざいに扱うわ、僕と遊んでばっかり。なのに。ひとたび目が合うと、二人は長い長い時間、無言で見つめ合うのだ。

 そこで、僕はひらめいた。

 そんな不器用な二人のために一肌脱ごうじゃないかっ!
 ここで僕がやらねば、誰がやる!?
 ゲームの世界を知っている僕しかできないことだろう!!

 そう、奮闘している。だけど、いかんせん色んな作戦を実行しているんだが、空振りに終わっているし、たまにミスって、今回みたいに、色んな人を巻き込んで仕事を増やしてしまうことがある。

 恋のキューピッドって、ゲームや漫画で簡単そうに見えてたけど、そうじゃないんだなって、最近よく感じるようになった。
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