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「うん? アルードって時々、へんなところが気になってじっと観察してるなって」
俺が唸ったところでクリストフの反応が変わることほぼないとわかっていた。それでも目尻を下げて言われた言葉にますます唸り声を上げたくなった。
「はぁ!?」
「あ、へんなところ見てるなって思うけど、僕は良いなって思ってるからね」
「はぁぁ!?」
へんなところ、と言われたのはシャクではあるけど、良いってなんだ。
俺だったら、そんな奴はお断りだ。
「だから心配しないでね」
なんの心配をだ。お前の感性についてか。
クリストフの感性に一抹の不安を感じてはいるが、ある意味心配とも言えるのか。自覚があるならばぜひとも直してほしいし、直せないなら貴族お得意の腹芸で隠しきってほしい。
俺にはクリストフが言う、へんと言う部分のすべてを分かるわけではないが、その一部は前世との違いを感じる部分でもある。
ほんと、未来を変えるのは一筋縄ではいかない。
「はぁ…そうかよ。とりあえず、食うぞ」
「ふふ、そうだね」
食事を食べる前に、手を組み。感謝をする。
礼儀作法は好きではないが、これは勝手に手が動き、自然とやってしまう。
でも、俺は神になんて感謝はしていない。命を与えてくれた生き物たちに感謝をしているだけだ。
「よし。あ、クリストフ、まて」
食べはじめようとクリストフの手を止め、持っていたフォークとナイフで、クリームでソテーされた魚の端を切り取り、食べる。今日の魚はタラか。コクのあるクリームソースとよく合う。うん、うまい。料理人の腕はたしかなようだな。そして、味以外も。この味付けだと誤魔化しやすいが、ゆっくりと咀嚼し、舌でしっかり確認する。よし、問題なしだ。
「クリストフ、いいぞ。あと……っておいっ」
念のためにスープとサラダも、と手を伸ばす前に、俺のじゃないフォークが葉を絡めていく姿が見えた。そのまま、フォークはクリストフの口の中に入っていった。
「ん?」
「なんで、先にサラダ食べてんだよ」
止めたはずなのに、もぐもぐ、ゴクリと、のんびりとした動きでサラダを飲み込んだクリストフ。そして至極不思議そうな表情で俺を見返す。
「なんでって、前菜は先に食べるでしょ?」
「違うだろうが。俺が毒味してから食べろって言ってんだよ」
「えぇ? 僕の魚が食べたかったのかと思った」
「はぁぁ!?」
「ってのは冗談で、そこまで、気にしなくていいよ。僕だって、それなりに分かるつもりだからね」
自分の立場をわかっているのか、そう言いかけた言葉をクリストフの困ったように笑った表情を見て、無理やり飲み込んだ。
これは、俺が勝手に神経質になっているだけで、それをクリストフに求めるのは間違っている。ただの押し付けだし、クリストフ自身だって、襲撃事件を含めて自分の立場は痛いほどわかっていることだ。
「あ、その、わるか……」
「でも、アルードが食いしん坊さんで、主食を2つとも食べたいなら、僕のをあげるよ。それで、アルードが喜んでくれるなら本望だからね」
でも、俺に対するこの扱いはなんだ!?
子ども扱い、というには甘すぎる空気に……何故だか顔に熱が集まりはじめる。
「なっなに言ってんだ!?」
「うんうん。アルードは元気にしているのが一番だよね」
「だから、なにをどう、納得してるんだよっ」
「え? ほら、食べよう。本当に冷たくなっちゃうよ」
目をパチリと瞬き、首を傾げる。
クリストフの、曇りひとつない純真な表情に言葉がノドに詰まる。
「あっ!? うぅ……くそっ!」
確実に湯気の量が減ったスープを見て、仕方なく自分のトレイと向き合って、器に手を伸ばす。ほど温かい玉ねぎベースのスープが体の中に染み渡る。
誤魔化されたような部分もあるが、俺が入学前の半年で異国の武道を学んだように、クリストフも言葉通り、自分なりの考えがあって、いろいろ学んでいたことを知っている。
信じていないわけじゃない。
それでも、やっぱり、守りたいと思ってしまうんだ。
たとえ、エゴだとしても。
「美味しいね、アルード」
ふわりと春風のような穏やかに笑いかけるクリストフ。
ただそれだけで、俺の堅くなってしまった胸はほぐれてしまうのだから。
「……俺は、もう少し胡椒がほしい」
「アルードの舌は難しいね」
「うるせぇ」
俺が唸ったところでクリストフの反応が変わることほぼないとわかっていた。それでも目尻を下げて言われた言葉にますます唸り声を上げたくなった。
「はぁ!?」
「あ、へんなところ見てるなって思うけど、僕は良いなって思ってるからね」
「はぁぁ!?」
へんなところ、と言われたのはシャクではあるけど、良いってなんだ。
俺だったら、そんな奴はお断りだ。
「だから心配しないでね」
なんの心配をだ。お前の感性についてか。
クリストフの感性に一抹の不安を感じてはいるが、ある意味心配とも言えるのか。自覚があるならばぜひとも直してほしいし、直せないなら貴族お得意の腹芸で隠しきってほしい。
俺にはクリストフが言う、へんと言う部分のすべてを分かるわけではないが、その一部は前世との違いを感じる部分でもある。
ほんと、未来を変えるのは一筋縄ではいかない。
「はぁ…そうかよ。とりあえず、食うぞ」
「ふふ、そうだね」
食事を食べる前に、手を組み。感謝をする。
礼儀作法は好きではないが、これは勝手に手が動き、自然とやってしまう。
でも、俺は神になんて感謝はしていない。命を与えてくれた生き物たちに感謝をしているだけだ。
「よし。あ、クリストフ、まて」
食べはじめようとクリストフの手を止め、持っていたフォークとナイフで、クリームでソテーされた魚の端を切り取り、食べる。今日の魚はタラか。コクのあるクリームソースとよく合う。うん、うまい。料理人の腕はたしかなようだな。そして、味以外も。この味付けだと誤魔化しやすいが、ゆっくりと咀嚼し、舌でしっかり確認する。よし、問題なしだ。
「クリストフ、いいぞ。あと……っておいっ」
念のためにスープとサラダも、と手を伸ばす前に、俺のじゃないフォークが葉を絡めていく姿が見えた。そのまま、フォークはクリストフの口の中に入っていった。
「ん?」
「なんで、先にサラダ食べてんだよ」
止めたはずなのに、もぐもぐ、ゴクリと、のんびりとした動きでサラダを飲み込んだクリストフ。そして至極不思議そうな表情で俺を見返す。
「なんでって、前菜は先に食べるでしょ?」
「違うだろうが。俺が毒味してから食べろって言ってんだよ」
「えぇ? 僕の魚が食べたかったのかと思った」
「はぁぁ!?」
「ってのは冗談で、そこまで、気にしなくていいよ。僕だって、それなりに分かるつもりだからね」
自分の立場をわかっているのか、そう言いかけた言葉をクリストフの困ったように笑った表情を見て、無理やり飲み込んだ。
これは、俺が勝手に神経質になっているだけで、それをクリストフに求めるのは間違っている。ただの押し付けだし、クリストフ自身だって、襲撃事件を含めて自分の立場は痛いほどわかっていることだ。
「あ、その、わるか……」
「でも、アルードが食いしん坊さんで、主食を2つとも食べたいなら、僕のをあげるよ。それで、アルードが喜んでくれるなら本望だからね」
でも、俺に対するこの扱いはなんだ!?
子ども扱い、というには甘すぎる空気に……何故だか顔に熱が集まりはじめる。
「なっなに言ってんだ!?」
「うんうん。アルードは元気にしているのが一番だよね」
「だから、なにをどう、納得してるんだよっ」
「え? ほら、食べよう。本当に冷たくなっちゃうよ」
目をパチリと瞬き、首を傾げる。
クリストフの、曇りひとつない純真な表情に言葉がノドに詰まる。
「あっ!? うぅ……くそっ!」
確実に湯気の量が減ったスープを見て、仕方なく自分のトレイと向き合って、器に手を伸ばす。ほど温かい玉ねぎベースのスープが体の中に染み渡る。
誤魔化されたような部分もあるが、俺が入学前の半年で異国の武道を学んだように、クリストフも言葉通り、自分なりの考えがあって、いろいろ学んでいたことを知っている。
信じていないわけじゃない。
それでも、やっぱり、守りたいと思ってしまうんだ。
たとえ、エゴだとしても。
「美味しいね、アルード」
ふわりと春風のような穏やかに笑いかけるクリストフ。
ただそれだけで、俺の堅くなってしまった胸はほぐれてしまうのだから。
「……俺は、もう少し胡椒がほしい」
「アルードの舌は難しいね」
「うるせぇ」
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