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「私たちのような者にもお優しい…」
「まさか、ダリーさんに見ていただけるなんて…」
まったく新入生には、王立騎士団から派遣ということが輝いて見えるらしい。
それが名が通るほどの有名人となれば、子供には一層、まぶしく感じるのは当然かもしれない。ダリーが初回授業の目的を説明している間も、生徒同士で交わされるさざめきは消えることはなかった。
「それでは、模擬試合する相手を選んでください」
これは見極めの一つ。自分の力を客観的に見れているのか、相手の力量を計れているのか、など武芸の基礎的な要素と本人の才覚と統合して見極めをされる。
ただし、その意図が生徒に説明されることはない。
それらもすべて、当人自身の力を測る材料のひとつとなる。
「誰かお探しなんですか?」
「あぁ」
体格が同じくらいの人間、顔見知りなど、生徒たちそれぞれが相手を考え選んでいる。
実技場内の様子を観察しながら、目的の人物を探しているとダリーが不思議そうに声をかけてきた。
「おやおや、アルードはてっきり、クリストフ様と組むとばかり思っていました」
俺は前世の記憶もあって、この初回授業をひそかに楽しみにしていた。だからこそ対戦相手の目星もついている。それにクリストフを選ばなかったのには理由がある。
「…クリストフは加減するから嫌だ」
「なるほど。良いんですか、クリストフ様?」
「アルード、この授業すごく楽しみにしてたし、僕では力不足だからね」
「別に。クリストフの剣術がないワケじゃねぇよ。クセもわかってるから、面白くないだけだ」
そう。剣術だけで言えば、俺たちに優劣はほぼない。
もっと単純な理由だ。
せっかく体を動かせる時に、知らない相手とやりたい。
入学前の半年間、老師との訓練に集中していた。その前まではクリストフとずっと過ごしてきたから、クセも、そして、本気と言っても本気になりきれない身内の甘さから出る加減。つまらない。
だから、相手は変えたいという理由。
そして見極めによっては今後、組ませてもらえないかもしれない人物。
今日はその人物と対戦する千載一遇の好機でもある。
「では、どなたを探していたんですか?」
正直、新入生の剣術力なんて”木の実の背比べ”で、大して変わらない。
俺もダリーと同じ考え方だった。数日前までは。
なんの因果か、現在はアイツと関わることができる。
「ジークだ」
「ジークですか……確かに、彼の技量ならば引き際もわきまえているでしょうね」
「だろ?」
「私には、ほか誰が適しているのかは正直、今の段階ではわかりようもありませんし……まぁ、仕方がありませんね」
監視役を務めている立場のダリーの許可はもぎ取った。
あとは本人に声をかけるのみ。
「ギガネは外さなくても問題ない?」
クリストフは心配し過ぎなところがある。こそこそとダリーに確認をしているのを目の端に入ったが、いまは気にしないことにした。
「組み試合をさせますが、基本的な形式にそったものです。怪我を起きるようなものじゃないです。それに相手はジークなので、早々事故も起きることもないでしょう」
「それなら、まぁ…」
「クリストフ様は相変わらず、アルードのことを大切にされていますね」
周囲に目を配れば対戦経験が少ない生徒は誰を相手にすべきなのか、頭を悩ませている。そんな生徒たちを横目に、目的の人物へ焦点をしぼる。視界にとらえたら、あとは声をかけるのみ。
「ジーク! 俺の相手をしてくれないか?」
「えっ。私、ですか……しかし……」
ジークは俺の誘いに戸惑う。当然だ。生真面目な性格上、俺の視力障害のことが気にならないわけがない。
かと言って、断るのも気が引けるのだろう。体面もある。ジークが答えを迷っているのはわかった。
あと一押しだと分かっても、その決め手になるような言葉が浮かばない。
「ジーク、僕からもお願いだ。アルードは何日も前から楽しみにしていて、剣術の相手で任せることができるのは君しかいないんだ」
クリストフの言葉には否定したいところもあるが、最後の”任せることができるのは君しかいない”という言葉は、ジークの心に見事に命中した。硬く結んでいた唇は開かれた。
「そこまで熱い想いが…。わかりました、このジーク、アルードの申し出をお受けいたします」
新入生で一番技量があると思われる騎士団長の息子ジークと、視力に問題がある従者の俺という組み合わせに、好奇の目が集中したが、俺には、どうでも良かった。
これからはじまる模擬試合のことを想像するだけでも、胸が高鳴る。
実力があるのはわかっている。
期待しているのは、その中で生まれる、予想が出来ない剣捌きや戦術、考え方への出会いだ。
「それでは・・・はじめっ」
開始直後から金属が激しくぶつかる音が、実技場に響く。
「まさか、ダリーさんに見ていただけるなんて…」
まったく新入生には、王立騎士団から派遣ということが輝いて見えるらしい。
それが名が通るほどの有名人となれば、子供には一層、まぶしく感じるのは当然かもしれない。ダリーが初回授業の目的を説明している間も、生徒同士で交わされるさざめきは消えることはなかった。
「それでは、模擬試合する相手を選んでください」
これは見極めの一つ。自分の力を客観的に見れているのか、相手の力量を計れているのか、など武芸の基礎的な要素と本人の才覚と統合して見極めをされる。
ただし、その意図が生徒に説明されることはない。
それらもすべて、当人自身の力を測る材料のひとつとなる。
「誰かお探しなんですか?」
「あぁ」
体格が同じくらいの人間、顔見知りなど、生徒たちそれぞれが相手を考え選んでいる。
実技場内の様子を観察しながら、目的の人物を探しているとダリーが不思議そうに声をかけてきた。
「おやおや、アルードはてっきり、クリストフ様と組むとばかり思っていました」
俺は前世の記憶もあって、この初回授業をひそかに楽しみにしていた。だからこそ対戦相手の目星もついている。それにクリストフを選ばなかったのには理由がある。
「…クリストフは加減するから嫌だ」
「なるほど。良いんですか、クリストフ様?」
「アルード、この授業すごく楽しみにしてたし、僕では力不足だからね」
「別に。クリストフの剣術がないワケじゃねぇよ。クセもわかってるから、面白くないだけだ」
そう。剣術だけで言えば、俺たちに優劣はほぼない。
もっと単純な理由だ。
せっかく体を動かせる時に、知らない相手とやりたい。
入学前の半年間、老師との訓練に集中していた。その前まではクリストフとずっと過ごしてきたから、クセも、そして、本気と言っても本気になりきれない身内の甘さから出る加減。つまらない。
だから、相手は変えたいという理由。
そして見極めによっては今後、組ませてもらえないかもしれない人物。
今日はその人物と対戦する千載一遇の好機でもある。
「では、どなたを探していたんですか?」
正直、新入生の剣術力なんて”木の実の背比べ”で、大して変わらない。
俺もダリーと同じ考え方だった。数日前までは。
なんの因果か、現在はアイツと関わることができる。
「ジークだ」
「ジークですか……確かに、彼の技量ならば引き際もわきまえているでしょうね」
「だろ?」
「私には、ほか誰が適しているのかは正直、今の段階ではわかりようもありませんし……まぁ、仕方がありませんね」
監視役を務めている立場のダリーの許可はもぎ取った。
あとは本人に声をかけるのみ。
「ギガネは外さなくても問題ない?」
クリストフは心配し過ぎなところがある。こそこそとダリーに確認をしているのを目の端に入ったが、いまは気にしないことにした。
「組み試合をさせますが、基本的な形式にそったものです。怪我を起きるようなものじゃないです。それに相手はジークなので、早々事故も起きることもないでしょう」
「それなら、まぁ…」
「クリストフ様は相変わらず、アルードのことを大切にされていますね」
周囲に目を配れば対戦経験が少ない生徒は誰を相手にすべきなのか、頭を悩ませている。そんな生徒たちを横目に、目的の人物へ焦点をしぼる。視界にとらえたら、あとは声をかけるのみ。
「ジーク! 俺の相手をしてくれないか?」
「えっ。私、ですか……しかし……」
ジークは俺の誘いに戸惑う。当然だ。生真面目な性格上、俺の視力障害のことが気にならないわけがない。
かと言って、断るのも気が引けるのだろう。体面もある。ジークが答えを迷っているのはわかった。
あと一押しだと分かっても、その決め手になるような言葉が浮かばない。
「ジーク、僕からもお願いだ。アルードは何日も前から楽しみにしていて、剣術の相手で任せることができるのは君しかいないんだ」
クリストフの言葉には否定したいところもあるが、最後の”任せることができるのは君しかいない”という言葉は、ジークの心に見事に命中した。硬く結んでいた唇は開かれた。
「そこまで熱い想いが…。わかりました、このジーク、アルードの申し出をお受けいたします」
新入生で一番技量があると思われる騎士団長の息子ジークと、視力に問題がある従者の俺という組み合わせに、好奇の目が集中したが、俺には、どうでも良かった。
これからはじまる模擬試合のことを想像するだけでも、胸が高鳴る。
実力があるのはわかっている。
期待しているのは、その中で生まれる、予想が出来ない剣捌きや戦術、考え方への出会いだ。
「それでは・・・はじめっ」
開始直後から金属が激しくぶつかる音が、実技場に響く。
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