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「あ、お久しぶりです。お二方ふたかた

 はじめて入った実技場には、見知った男がいた。

「ダリー! なんでここに!?」
「おやおや。感動の再会だと言うのに、アルードは相変わらずには手厳しいですね」
「なっ!」

 わざとらしく肩をすくめるダリーに、昔のように声を荒げかけた時、クリストフが両肩に手を置き、俺を引き留める。

「アルード、落ち着いて。ダリーもアルードをからかわないで」

 俺の肩を撫でながら、ダリーを静かに注意をする。
 だけど、どこか責めるような圧があることに気付き顔を上げたものの、この角度からはクリストフの表情はよく見えなかったから確認することはできなかった。

「申し訳ありません。面白くて、つい」

 そうこうしている内に、スッと姿勢を正したダリーは綺麗に礼をとった。
 だが、最後は緩やかな笑みを浮かべるのだから締まりがない。

「はぁ。で、どうしているんだ?」

 クリストフとダリーのやりとりになんだかんだ気が抜け、俺は落ち着きを取り戻した。というより、気力を削がれた。息を吐きながら、ダリーに最初の質問を改めて投げつける。

「あぁ、そうでした。実は…ってほどでもないんですが、実戦経験のない教員の代わりに、臨時講師として派遣されました。彼らには”見極め”は難しいですからね」
「そうか。実技にもあったな……」

 魔法と同じく、剣術にも適性が関わってくる。
 学校として、適材適所。素質のある能力を伸ばすことを、一番としているからだ。
 決して、苦手を克服することを評価しないワケでもないし、本人の進みたい道をさえぎることもしない。
「伸びるなら、とことん伸ばそう」
 という、現学長であるダンブルの教育方針が強いらしい。

 過去ぜんかいは気にしていなかったが、現在いま、こうして向き合うとクセのある学長の考え方は悪いもんではないと思った。

「と言うのは、建前たてまえでして」

 ひとり納得していると、不意にダリーが言葉を切り込んできた。

「ん?」
「本当は坊ちゃん達の様子見ようすみを、上司命令は絶対なので」

 ダリーの視線がしめす先は、ジークとグレン。
 騎士団に所属するダリーの上司というのは、騎士団長になる。
 でも、ジークは騎士団長が心配するような息子ではないことは誰もが知っていることだろう。むしろ、息子より心配な存在がいるのだ。そう、グレンだ。あの、我が道をいく俺様性格はトラブルを引き起こす。しかも、本人に悪気がないから、余計タチが悪い。
 つまり、ダリーの仕事は、『2人の様子を見るのは大前提ではあるが、が息子でも押さえきれない状況になった時の緊急対応要員』と言うことになる。
 たしかにグレンならば、この実技で暴走しかねないと危惧する騎士団長の気持ちがわかる。相手が力量関係なく「本気でかかって来い」と言いそうである。

「大変だな、ダリー」
「えぇ。期待の若手なんて持てはやされても、雑事は回ってくるんです」

 しおらしく自分の頬に手を当てたダリー。
 台詞せりふと相まって売れない役者の芝居のように見えてくる。

「なに言ってるんだ。笑えない冗談にもほどが……」

 さすがにそのままさらりと流すわけにもいかず、お情けのツッコミを入れかけた瞬間だった。
 信じられない言葉が入ってきた。

「あれ? あそこにいるの……ダリー!? 若手注目株一番の!?!?」
「えっうそ。本物!? 王立学校の権力ちからすげぇ!!」

 遠巻きに様子を見ている生徒たちの興奮した声。
 しかも内容が内容である。ダリーの言葉を肯定するように重ねている。

「は?」
「そうだよね。昔とは言え、うちみたいな辺境に2週に1回でも指導に来てくれていたとか、感謝してもしきれないよ」

 驚いて動きを止めた俺と違って、同じ内容を聞いていたであろうクリストフに驚くどころか、ほかの生徒同様にダリーの言葉を肯定している。

「……クリストフ、知ってたのか?」
「ん? 知ってたというか、自然と入ったっていうか。やっぱり、王立騎士団は憧れだからね。この学園に通ってる生徒は大方おおかた知っているんじゃないかな」

 驚きを隠せない俺を見たクリストフは、クスクスと声をこぼす。

「さて、アルード。私のこと惚れ直してもいいんですよ?」

 俺の反応に気をよくしたらしいダリーは、一段と無駄にキラキラと空気を輝かせてきた。

「一度たりとも惚れてないし、そんぐらいのことで惚れ直したりもしない!!」

 俺は、その辺にいる貴族のガキどもと違って、王立騎士団に憧れはもっていない。
 そもそも、そんなことで手のひらを返すような、軽い男ではない。

「さすが、クリストフ様一筋ひとすじ。ブレませんね」
「えぇ。本当にアルードは一途なんです」

 二人は肩を寄せて、したり顔でうなずいている。
 興奮してよく聞こえなかった会話の内容を知りたいとは思わないが、二人の表情にはなんだか納得ができない。
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