34 / 40
【2】
13、
しおりを挟む
◆
◆
◆
「あ、お久しぶりです。お二方」
はじめて入った実技場には、見知った男がいた。
「ダリー! なんでここに!?」
「おやおや。感動の再会だと言うのに、アルードは相変わらずクリストフ様以外には手厳しいですね」
「なっ!」
わざとらしく肩をすくめるダリーに、昔のように声を荒げかけた時、クリストフが両肩に手を置き、俺を引き留める。
「アルード、落ち着いて。ダリーもアルードをからかわないで」
俺の肩を撫でながら、ダリーを静かに注意をする。
だけど、どこか責めるような圧があることに気付き顔を上げたものの、この角度からはクリストフの表情はよく見えなかったから確認することはできなかった。
「申し訳ありません。面白くて、つい」
そうこうしている内に、スッと姿勢を正したダリーは綺麗に礼をとった。
だが、最後は緩やかな笑みを浮かべるのだから締まりがない。
「はぁ。で、どうしているんだ?」
クリストフとダリーのやりとりになんだかんだ気が抜け、俺は落ち着きを取り戻した。というより、気力を削がれた。息を吐きながら、ダリーに最初の質問を改めて投げつける。
「あぁ、そうでした。実は…ってほどでもないんですが、実戦経験のない教員の代わりに、臨時講師として派遣されました。彼らには”見極め”は難しいですからね」
「そうか。実技にもあったな……」
魔法と同じく、剣術にも適性が関わってくる。
学校として、適材適所。素質のある能力を伸ばすことを、一番としているからだ。
決して、苦手を克服することを評価しないワケでもないし、本人の進みたい道を遮ることもしない。
「伸びるなら、とことん伸ばそう」
という、現学長であるダンブルの教育方針が強いらしい。
過去は気にしていなかったが、現在、こうして向き合うとクセのある学長の考え方は悪いもんではないと思った。
「と言うのは、建前でして」
ひとり納得していると、不意にダリーが言葉を切り込んできた。
「ん?」
「本当は坊ちゃん達の様子見を、上司命令は絶対なので」
ダリーの視線が指し示す先は、ジークとグレン。
騎士団に所属するダリーの上司というのは、騎士団長になる。
でも、ジークは騎士団長が心配するような息子ではないことは誰もが知っていることだろう。むしろ、息子より心配な存在がいるのだ。そう、グレンだ。あの、我が道をいく俺様性格はトラブルを引き起こす。しかも、本人に悪気がないから、余計タチが悪い。
つまり、ダリーの仕事は、『2人の様子を見るのは大前提ではあるが、護衛対象が息子でも押さえきれない状況になった時の緊急対応要員』と言うことになる。
たしかにグレンならば、この実技で暴走しかねないと危惧する騎士団長の気持ちがわかる。相手が力量関係なく「本気でかかって来い」と言いそうである。
「大変だな、ダリー」
「えぇ。期待の若手なんて持て囃されても、雑事は回ってくるんです」
しおらしく自分の頬に手を当てたダリー。
台詞と相まって売れない役者の芝居のように見えてくる。
「なに言ってるんだ。笑えない冗談にもほどが……」
さすがにそのままさらりと流すわけにもいかず、お情けのツッコミを入れかけた瞬間だった。
信じられない言葉が入ってきた。
「あれ? あそこにいるの……ダリー!? 若手注目株一番の!?!?」
「えっうそ。本物!? 王立学校の権力すげぇ!!」
遠巻きに様子を見ている生徒たちの興奮した声。
しかも内容が内容である。ダリーの言葉を肯定するように重ねている。
「は?」
「そうだよね。昔とは言え、うちみたいな辺境に2週に1回でも指導に来てくれていたとか、感謝してもしきれないよ」
驚いて動きを止めた俺と違って、同じ内容を聞いていたであろうクリストフに驚くどころか、ほかの生徒同様にダリーの言葉を肯定している。
「……クリストフ、知ってたのか?」
「ん? 知ってたというか、自然と入ったっていうか。やっぱり、王立騎士団は憧れだからね。この学園に通ってる生徒は大方知っているんじゃないかな」
驚きを隠せない俺を見たクリストフは、クスクスと声をこぼす。
「さて、アルード。私のこと惚れ直してもいいんですよ?」
俺の反応に気をよくしたらしいダリーは、一段と無駄にキラキラと空気を輝かせてきた。
「一度たりとも惚れてないし、そんぐらいのことで惚れ直したりもしない!!」
俺は、その辺にいる貴族のガキどもと違って、王立騎士団に憧れはもっていない。
そもそも、そんなことで手のひらを返すような、軽い男ではない。
「さすが、クリストフ様一筋。ブレませんね」
「えぇ。本当にアルードは一途なんです」
二人は肩を寄せて、したり顔でうなずいている。
興奮してよく聞こえなかった会話の内容を知りたいとは思わないが、二人の表情にはなんだか納得ができない。
◆
◆
「あ、お久しぶりです。お二方」
はじめて入った実技場には、見知った男がいた。
「ダリー! なんでここに!?」
「おやおや。感動の再会だと言うのに、アルードは相変わらずクリストフ様以外には手厳しいですね」
「なっ!」
わざとらしく肩をすくめるダリーに、昔のように声を荒げかけた時、クリストフが両肩に手を置き、俺を引き留める。
「アルード、落ち着いて。ダリーもアルードをからかわないで」
俺の肩を撫でながら、ダリーを静かに注意をする。
だけど、どこか責めるような圧があることに気付き顔を上げたものの、この角度からはクリストフの表情はよく見えなかったから確認することはできなかった。
「申し訳ありません。面白くて、つい」
そうこうしている内に、スッと姿勢を正したダリーは綺麗に礼をとった。
だが、最後は緩やかな笑みを浮かべるのだから締まりがない。
「はぁ。で、どうしているんだ?」
クリストフとダリーのやりとりになんだかんだ気が抜け、俺は落ち着きを取り戻した。というより、気力を削がれた。息を吐きながら、ダリーに最初の質問を改めて投げつける。
「あぁ、そうでした。実は…ってほどでもないんですが、実戦経験のない教員の代わりに、臨時講師として派遣されました。彼らには”見極め”は難しいですからね」
「そうか。実技にもあったな……」
魔法と同じく、剣術にも適性が関わってくる。
学校として、適材適所。素質のある能力を伸ばすことを、一番としているからだ。
決して、苦手を克服することを評価しないワケでもないし、本人の進みたい道を遮ることもしない。
「伸びるなら、とことん伸ばそう」
という、現学長であるダンブルの教育方針が強いらしい。
過去は気にしていなかったが、現在、こうして向き合うとクセのある学長の考え方は悪いもんではないと思った。
「と言うのは、建前でして」
ひとり納得していると、不意にダリーが言葉を切り込んできた。
「ん?」
「本当は坊ちゃん達の様子見を、上司命令は絶対なので」
ダリーの視線が指し示す先は、ジークとグレン。
騎士団に所属するダリーの上司というのは、騎士団長になる。
でも、ジークは騎士団長が心配するような息子ではないことは誰もが知っていることだろう。むしろ、息子より心配な存在がいるのだ。そう、グレンだ。あの、我が道をいく俺様性格はトラブルを引き起こす。しかも、本人に悪気がないから、余計タチが悪い。
つまり、ダリーの仕事は、『2人の様子を見るのは大前提ではあるが、護衛対象が息子でも押さえきれない状況になった時の緊急対応要員』と言うことになる。
たしかにグレンならば、この実技で暴走しかねないと危惧する騎士団長の気持ちがわかる。相手が力量関係なく「本気でかかって来い」と言いそうである。
「大変だな、ダリー」
「えぇ。期待の若手なんて持て囃されても、雑事は回ってくるんです」
しおらしく自分の頬に手を当てたダリー。
台詞と相まって売れない役者の芝居のように見えてくる。
「なに言ってるんだ。笑えない冗談にもほどが……」
さすがにそのままさらりと流すわけにもいかず、お情けのツッコミを入れかけた瞬間だった。
信じられない言葉が入ってきた。
「あれ? あそこにいるの……ダリー!? 若手注目株一番の!?!?」
「えっうそ。本物!? 王立学校の権力すげぇ!!」
遠巻きに様子を見ている生徒たちの興奮した声。
しかも内容が内容である。ダリーの言葉を肯定するように重ねている。
「は?」
「そうだよね。昔とは言え、うちみたいな辺境に2週に1回でも指導に来てくれていたとか、感謝してもしきれないよ」
驚いて動きを止めた俺と違って、同じ内容を聞いていたであろうクリストフに驚くどころか、ほかの生徒同様にダリーの言葉を肯定している。
「……クリストフ、知ってたのか?」
「ん? 知ってたというか、自然と入ったっていうか。やっぱり、王立騎士団は憧れだからね。この学園に通ってる生徒は大方知っているんじゃないかな」
驚きを隠せない俺を見たクリストフは、クスクスと声をこぼす。
「さて、アルード。私のこと惚れ直してもいいんですよ?」
俺の反応に気をよくしたらしいダリーは、一段と無駄にキラキラと空気を輝かせてきた。
「一度たりとも惚れてないし、そんぐらいのことで惚れ直したりもしない!!」
俺は、その辺にいる貴族のガキどもと違って、王立騎士団に憧れはもっていない。
そもそも、そんなことで手のひらを返すような、軽い男ではない。
「さすが、クリストフ様一筋。ブレませんね」
「えぇ。本当にアルードは一途なんです」
二人は肩を寄せて、したり顔でうなずいている。
興奮してよく聞こえなかった会話の内容を知りたいとは思わないが、二人の表情にはなんだか納得ができない。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する
めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。
侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。
分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに
主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……?
思い出せない前世の死と
戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、
ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕!
.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
HOTランキング入りしました😭🙌
♡もエールもありがとうございます…!!
※第1話からプチ改稿中
(内容ほとんど変わりませんが、
サブタイトルがついている話は改稿済みになります)
大変お待たせしました!連載再開いたします…!
【完結】祝福をもたらす聖獣と彼の愛する宝もの
透
BL
「おまえは私の宝だから」
そう言って前世、まだ幼い少年にお守りの指輪をくれた男がいた。
少年は家庭に恵まれず学校にも馴染めず、男の言葉が唯一の拠り所に。
でもその数年後、少年は母の新しい恋人に殺されてしまう。「宝もの」を守れなかったことを後悔しながら。
前世を思い出したヨアンは魔法名門侯爵家の子でありながら魔法が使えず、「紋なし」と呼ばれ誰からも疎まれていた。
名門家だからこそ劣等感が強かった以前と違い、前世を思い出したヨアンは開き直って周りを黙らせることに。勘当されるなら願ったり。そう思っていたのに告げられた進路は「聖獣の世話役」。
名誉に聞こえて実は入れ替わりの激しい危険な役目、実質の死刑宣告だった。
逃げるつもりだったヨアンは、聖獣の正体が前世で「宝」と言ってくれた男だと知る。
「本日からお世話役を…」
「祝福を拒絶した者が?」
男はヨアンを覚えていない。当然だ、前世とは姿が違うし自分は彼の宝を守れなかった。
失望するのはお門違い。今世こそは彼の役に立とう。
☆神の子である聖獣×聖獣の祝福が受け取れない騎士
☆R18はタイトルに※をつけます
【完結】欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される
ゆう
BL
アーデン伯爵家に双子として生まれてきたカインとテイト。
瓜二つの2人だが、テイトはアーデン伯爵家の欠陥品と呼ばれていた。その訳は、テイトには生まれつき右腕がなかったから。
国教で体の障害は前世の行いが悪かった罰だと信じられているため、テイトに対する人々の風当たりは強く、次第にやさぐれていき・・・
もう全てがどうでもいい、そう思って生きていた頃、年下の公爵が現れなぜか溺愛されて・・・?
※設定はふわふわです
※差別的なシーンがあります
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
悪役令息の死ぬ前に
ゆるり
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!
元森
BL
「嘘…俺、平凡受け…?!」
ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?!
隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる