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「アルードより強くないと、アルードを守ってあげられないじゃないですか」
・・・急に、なにを言い出しているんだ!?
脳内では言葉が出ていたが、現実の俺は言葉を失っていた。
そして、ふわりと笑うクリストフに、ダリーはアゴに手を当て神妙な顔をする。
「なるほど。従者を守る主人、というのは聞いたことはございませんでしたが……たしかに今のクリストフ様では”守る”という部分ではいささか不足していることは否めませんね」
その通りです、と言わんばかりににっこりと笑うダリー。
おい。それはそれで不敬じゃないのか。
「では、僕がはじめて”守れる主人”になろう」
「とても素晴らしいお心です」
あははと声を上げて笑う幻聴も聞こえてきそうになるぐらい、キラキラと輝く2人は顔を見合わせて微笑み合っている。
「待て待て待て。俺のことは俺が決める。勝手に話を進めるな!」
よく分からない結論に至った二人の会話には、さすがに我慢できなかった。
声を張り上げて、会話を静止させる。
すると、こちらを見たクリストフは目をパチリと瞬いてから、ふっと口元を緩める。
「どうしたの、アルード。僕にかまってもらえなくて寂しかったの?」
「ちがーうっっ!!」
またしても、予想と違う言葉が返ってくる。
これ、これだ。過去からクリストフはすこし不思議な思考回路をしていたが、今回のクリストフはその不思議さに拍車がかかっている。
おかげで俺は立て続けに大きな声を出す羽目になった。準備なしの急な大声により肺の空気が足らなくなり、ぜぇぜぇと息を切らしてしまう。苛立ちながら、クリストフは睨みつければ。
クリストフはニコニコと笑いながら、どうどうと馬をあやす様に俺の頭を撫でてくる。
「なっ!?」
「本当にお二人は仲良しですね」
「いや、だからっ! おかしいだろっ!!」
そんな俺たちをぬるま湯みたいな目で見て笑うダリー。
クリストフとダリーは意見し合う時もあるが、今のように急に揃いはじめる時がある。似てないようで似ている二人は少々、いや、とてつもなく面倒臭い。
しかも、もう少しで11歳になるというのに、相変わらずクリストフは俺のことを幼子だと思っているのか、大して身長も変わらないのにやたらと頭を撫でたり、抱きついたりしてくる。
むしろ、俺がクリストフにかまわれているのだ。寂しいなんて、一言も発したこともないのに。
前のクリストフは、こんなにやたらと触りたがっていたか? 触れていただろうか?
あぁ、年々と時を重ねるごとに、過去と現在の記憶が混ざり合って、わからなくなっていく。
「よしよし。大丈夫、大丈夫」
混乱の渦に呑まれそうになる瞬間、菫色の瞳が視界に映り込む。
穏やかな声ともに感じる温もりが俺の乱れた心を沈ませるのは確かで。
「はぁ…なにが大丈夫なんだよ」
諦めたとも言えるが、ため息をこぼしつつクリストフに意図を問えば。
「うん? 全部だよ、全部」
「・・・」
思った通りの答えはないけれど、仕方がないと受け入れてしまう俺も俺で、ちょっと変な従者なのかもしれない。
「それでは、お二人とも戯れはそこまでにして、稽古を再開しましょうか?」
パンと音を立て、手を合わせたダリーの声にハッと我に帰る。
「いっいつまで撫でてんだよっ!!」
つい、いつものこと過ぎて流してしまっていたが、他人の前でこの状態。
もうすぐ王立学校に通うという人間が、人前で、幼子のように頭を撫でられているなんて!!
ぐわっとクリストフの手を剥ぎとり距離を取ったものの、恥ずかしくて顔を上げることができない。
「ダリー。空気をもう少し読んでほしかったな。せっかく、アルードが大人しく甘えてくれていたのに」
「それはすみません。ですが、稽古時間が短いと、アルードが不機嫌になってしまうのでお困りになるかと」
「なるほど。たしかにそうだね。アルード、稽古を再開しようか?」
甘えてなんかいないが、気が抜けていたのは事実で、稽古時間が減るのもいやだ。
頭の中でぐるぐると言葉が回る。
否定したいけれど、否定を完全にできない。
「くぅー!!」
消化しきれないものを吐き出すように地面を何度か強く踏み叩いた。
俺の方が、中身は大人のはずなのに、手の上で転がされているような状況。
順調に進められているはずの未来改革だが、ちょっとしたことが、いろいろ違う気がする!
・・・急に、なにを言い出しているんだ!?
脳内では言葉が出ていたが、現実の俺は言葉を失っていた。
そして、ふわりと笑うクリストフに、ダリーはアゴに手を当て神妙な顔をする。
「なるほど。従者を守る主人、というのは聞いたことはございませんでしたが……たしかに今のクリストフ様では”守る”という部分ではいささか不足していることは否めませんね」
その通りです、と言わんばかりににっこりと笑うダリー。
おい。それはそれで不敬じゃないのか。
「では、僕がはじめて”守れる主人”になろう」
「とても素晴らしいお心です」
あははと声を上げて笑う幻聴も聞こえてきそうになるぐらい、キラキラと輝く2人は顔を見合わせて微笑み合っている。
「待て待て待て。俺のことは俺が決める。勝手に話を進めるな!」
よく分からない結論に至った二人の会話には、さすがに我慢できなかった。
声を張り上げて、会話を静止させる。
すると、こちらを見たクリストフは目をパチリと瞬いてから、ふっと口元を緩める。
「どうしたの、アルード。僕にかまってもらえなくて寂しかったの?」
「ちがーうっっ!!」
またしても、予想と違う言葉が返ってくる。
これ、これだ。過去からクリストフはすこし不思議な思考回路をしていたが、今回のクリストフはその不思議さに拍車がかかっている。
おかげで俺は立て続けに大きな声を出す羽目になった。準備なしの急な大声により肺の空気が足らなくなり、ぜぇぜぇと息を切らしてしまう。苛立ちながら、クリストフは睨みつければ。
クリストフはニコニコと笑いながら、どうどうと馬をあやす様に俺の頭を撫でてくる。
「なっ!?」
「本当にお二人は仲良しですね」
「いや、だからっ! おかしいだろっ!!」
そんな俺たちをぬるま湯みたいな目で見て笑うダリー。
クリストフとダリーは意見し合う時もあるが、今のように急に揃いはじめる時がある。似てないようで似ている二人は少々、いや、とてつもなく面倒臭い。
しかも、もう少しで11歳になるというのに、相変わらずクリストフは俺のことを幼子だと思っているのか、大して身長も変わらないのにやたらと頭を撫でたり、抱きついたりしてくる。
むしろ、俺がクリストフにかまわれているのだ。寂しいなんて、一言も発したこともないのに。
前のクリストフは、こんなにやたらと触りたがっていたか? 触れていただろうか?
あぁ、年々と時を重ねるごとに、過去と現在の記憶が混ざり合って、わからなくなっていく。
「よしよし。大丈夫、大丈夫」
混乱の渦に呑まれそうになる瞬間、菫色の瞳が視界に映り込む。
穏やかな声ともに感じる温もりが俺の乱れた心を沈ませるのは確かで。
「はぁ…なにが大丈夫なんだよ」
諦めたとも言えるが、ため息をこぼしつつクリストフに意図を問えば。
「うん? 全部だよ、全部」
「・・・」
思った通りの答えはないけれど、仕方がないと受け入れてしまう俺も俺で、ちょっと変な従者なのかもしれない。
「それでは、お二人とも戯れはそこまでにして、稽古を再開しましょうか?」
パンと音を立て、手を合わせたダリーの声にハッと我に帰る。
「いっいつまで撫でてんだよっ!!」
つい、いつものこと過ぎて流してしまっていたが、他人の前でこの状態。
もうすぐ王立学校に通うという人間が、人前で、幼子のように頭を撫でられているなんて!!
ぐわっとクリストフの手を剥ぎとり距離を取ったものの、恥ずかしくて顔を上げることができない。
「ダリー。空気をもう少し読んでほしかったな。せっかく、アルードが大人しく甘えてくれていたのに」
「それはすみません。ですが、稽古時間が短いと、アルードが不機嫌になってしまうのでお困りになるかと」
「なるほど。たしかにそうだね。アルード、稽古を再開しようか?」
甘えてなんかいないが、気が抜けていたのは事実で、稽古時間が減るのもいやだ。
頭の中でぐるぐると言葉が回る。
否定したいけれど、否定を完全にできない。
「くぅー!!」
消化しきれないものを吐き出すように地面を何度か強く踏み叩いた。
俺の方が、中身は大人のはずなのに、手の上で転がされているような状況。
順調に進められているはずの未来改革だが、ちょっとしたことが、いろいろ違う気がする!
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Webコンテツ大賞、投票&閲覧ありがとうございました!
2023.12.1 kei
2023.12.1 kei
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