白眼従者の献身と、辺境伯の最愛について

kei

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【1】

5、試験勉強

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「アルードは剣筋けんすじが良いね」
「ありがとうございます」

 ハイマン家に保護されて5年が経った。
 ようやく11歳になろうとしている俺の体は、周囲のおかげで小枝から枝ぐらいにはなっただろう。
 身長は年齢に応じて伸びたように思うが、肉のつき方がまだまだだ。
 まったく、以前ぜんかいのような体になるには先が長そうだ。

 そもそも今回は、以前のように、体”だけ”を鍛えているわけにもいかないのだから仕方がないのだが、どうしても気がはやってしまう。
 そんな時は一度目の最悪な未来を思い返すようにしている。
 最悪の未来を回避すべく重要な転換点の一つ、王立学校への入学。試験は半年後、合格すれば翌春から晴れて、王立学校の生徒となる。

 王立学校は、貴族と選ばれし平民だけが通える特別な場所だ。
 ぶっちゃけ貴族はよほど目も当られないような失態さえなければ、ほぼ合格するのだから不要だとは思うが、儀式に等しく【例外なく全員が試験を受けなければならない】と決まっている。
 その中の試験の一つとして、貴族としてはもちろん、国のために働く人材としても剣の扱いができていないといけないというのがある。
 当たり前と言えば、当たり前なのだが。
 そのために、どんなぼんくらな貴族だとしても剣技の習得には躍起やっきになる。指導を受けたのか、受けていないのか。それは貴族と平民の違いが明白に出る部分でもあるからだ。
 だからこそ無駄に腕自慢のバカ貴族が生まれる弊害もある。

「先生、僕はどうですか?」
「クリストフ様も、すじがよろしいですよ」

 今も昔も文武両道なクリストフの合格は確実ではあるが、従者の俺も通うなら、その試験に合格しなくてはいけない。しかも、貴族付きだからと言って、優遇されるわけもなく、平民と同じ実力勝負になる。
 まぁ、それも建前であるが。
 結局は貴族付きも貴族しゅじんと同じくして、合格点に達していなくても通える裏技はある。

 なぜなら、勉強に興味がなかった過去の俺は裏技それを使って入学していた。

 当時はそのことを知らずに、運が良かったと思っていた。それが後々、面倒なことを起こす原因にもなった。
 そんな未来を知っている俺は、今回、使うつもりはこれっぽっちもない。
 そもそも、今からそんなんでは、目指すべき未来など到底無理だと言っているようなものだから。
 未来改革の最初の一歩。そのために試験勉強と称した、この剣技に参加させてもらっている。過去のクリストフにも何度も「練習してみないか?」と誘われていたが、結局、試合形式でしかやる気が出ず、基礎がめちゃくちゃだった。

「お世辞は要りませんので、改善点があれば、小さなことでも是非ご意見を頂きたいのです!」
「おやおや、完璧主義のお顔が出ておりますよ。剣技に必要なのは……」

 今回2回目になって参加した稽古であったが、発見もあった。
 学校に通っている際も時々あったが、クリストフは意外と完璧主義なこと。特別扱いされて甘く採点されるのは身にならないと、こっそり平民の班にまぎれこもうとしては、その立ち振る舞いからすぐにバレて、貴族の班に入れられていたが。

「剣の基本であるかたは、本当にお綺麗です」

 柔らかい口調で指導するのは王立騎士団に所属している現役騎士ダリー。2週間に1回、特別講師として王都からメテオリティ領にやってくる。
 この”王立騎士団の現役騎士が指導にやってくる”。これは、ダリーが若手の騎士だとは言え、一般的な貴族でもありえない話だ。これはハイマン家が王族の血筋であるからだというのは明白である。
 過去の俺だったら「これだから貴族は…」などと悪態をついていただろうが、最悪の未来を知っている今は「使えるモノはののしられたって使うべきだ」と考えを改めた。

「型は、か」
「はい。失礼を承知で正直なお話をさせていただきますと、アルードとの戦いでは五分五分でしょう。いや、アルードの方が少し上かもしれませんね」

 ダリーは王立騎士団に所属しているので、実力や身の振る舞いは貴族社会において申し分ないのだが、かなり正直な言い回しをする。
 たとえ貴族の子供が「正直に」と言ったところで、正直に言えば不敬だと窮地に追いやられることなんて大いにあるのだから、そことなくぼやかすのが定石じょうせき
 その忖度そんたくのないところが、俺もクリストフも気に入っているのだが、変わり者である事は違いない。
 おかげで、いつものようにクリストフとダリーの無駄に熱い剣技談義がはじまったので傍観を決め込むことにした。

「そうか。それは困るな」
「困る? クリストフ様に困るような点はありませんよ」
 
 過去と現在で、クリストフにすこし変わったことがあった。
 あの誘拐未遂事件以降、過去ではたしなみ程度の熱量に近かったはずの剣技を、今回では熱心にするようになっていた。
 過去を知っているからこその、違いだ。
 貴族なら当たり前、という前提があれば、不思議ではない熱量。だが、試験勉強より早く、父親のダディッグ様に指導を申し出ていたり、ダリーの派遣についてもクリストフの熱心な姿勢によるものもあって、比較的早く話が進んだと聞いた。

 強くなることについて、意識を改めてくれたのは良い変化だ。
 俺が身を張った甲斐があるというもの。

 順調とも言える”未来改革”の手応えに少々気分が上がっていた俺の耳に、とんでもない言葉が飛び込んできた。
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Webコンテツ大賞、投票&閲覧ありがとうございました!
2023.12.1 kei
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