ツンデレΩは噛まれたい

齊藤るる

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出会い編

月夜の密会から、城への帰還

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「そ、そろそろ城へ帰るぞ!!送っていけ!!」

「ワォン♡」


結局、傍若無人キャラを押し通すことにしたハルであった。

ノリノリでハルを背中に乗せて、巨岩の上から城を見据え「準備オッケー!?」と言わんばかりにぶんぶん尻尾を振りまわすユキ。


(こいつ…もしかしてチョロい!?)

(ちょっと癖のある天然だけど、なんだか少しずつ慣れてきたかも…!?)



獣の背中に跨ったハルは、振り落とされないように背中の毛をしっかりと掴む。


「い、いいぞ!」


ハルの言葉を合図に、獣はググ、と姿勢を低くすると…


猛スピードで森を駆け出した。


(う…わ…!!!)


四つ足の獣は力強く地を蹴り、ぐんぐん先へ進む。

ぶわりと風が巻き起こり、振り落とされそうな速度なのに不思議と振動は感じない。

風のようなスピードで巨木の幹と幹の間を走り抜け、シダをかき分け、疾走する。


ハルが上を見上げると、梢の隙間から、星月夜がちらちらと瞬いていた。


一切の無駄を削ぎ落とし、戦い、走るために作られたような四肢。

その姿は森の王者であり、守護者であり、闘神であった。


(すげえ…!)


スピードで振り落とされないよう、その波打つ豊かな毛並みにしがみついていると…

森の木々を掻き分け、たどり着いたのは切り立った岩肌。

城へ戻るには、ぐるっと反対側まで回って正門から入るか、この岩肌をよじ登るしかない。

目測で、ざっと三〇メートル。

人間には到底不可能な高さだ。

獣型のユキは地面の匂いをフンフン嗅いで確かめながら、崖に沿って少し進み、ある地点で立ち止まる。

そして…

大きく飛翔し、崖のくぼみ、飛び出した岩から岩へ、身軽に飛び移っていく。

通常、犬科の動物は崖をよじ登ることはできない。しかしワーウルフは、ヒト型の時に物を掴んだり握ったりできる経験から、獣型であっても前足の指を多少動かすことができる。

一見、なんの取っ掛かりも無さそうな切り立った岩肌だが…ユキが飛んだ先には僅かな足場があった。
そして、小さな取っ掛かりに黒く鋭い爪を立てて、崖をよじ登っていく。踏みしめた足元から、パラパラと小石や砂が落ちていった。

その岩場を熟知した足取りは、夜な夜な城から脱走し、人知れずひっそりと城へと戻る、ユキの脱出癖が垣間見えるようだった。


「ッ…!!!」


背中に乗っているハルは、獣の足元など見えない。だから、獣型のユキが大ジャンプするたびに悲鳴を上げそうになったが、なんとか飲み込んだ。


そうやって岩場を登った先は、城の一角にあるテラスだった。


「へ?ここ、どこ?」


てっきり、自分の部屋(ゲストルーム)まで送り届けてくれると思っていたのに…

ハルは戸惑いつつ、ユキの背中からテラスへと降りた。

獣型のユキは「ワフッ」と答えて、窓を前足でカチャカチャと引っ掻いた。

カタン、と窓が開き、ハルは恐る恐る部屋へ入った。
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