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出会い編
バックハグ
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獣が『乗れ』と言うように頭を屈めてくる。
ハルは黒いモフモフの毛並みをしっかり掴み、ワーウルフの背中に飛び乗り、跨った。
「目線の位置、高っ…!」
「ワフッ!」
獣はハルを振り落とさないよう、ゆっくりと歩く。
巨大な岩の上だ。歩くたびに、ワーウルフの爪が岩に当たってチャカチャカと鳴った。
「わ、おっとと…」
小さな段差を越える時だけハルは体勢を崩したが、すぐにワーウルフの背中の乗り心地に慣れ、いつもよりずっと高く、景色のいい視界を楽しむ。
つい数時間前まで、このジャングルを徒歩で移動していたハルにとって、ワーウルフの背中から見る景色は、同じものであるはずなのに全く違うものに見えた。
身長175センチそこそこの二足歩行のハルは、鬱蒼と茂るシダ植物を手で払い、倒れて朽ちた木を乗り越え…と大層な苦労をしたものだが、この巨大な四つ足の動物にとってはそういった障害物は大した苦では無いらしい。
ユキは獣型のまま、岩をいくつかピョンピョンと移動し、巨岩の頂上へと向かっていく。
「わぁ…」
(すごい景色だ…!)
地上数十メートル地点。
背後にはダイナミックに城が聳え、目下には広い湖が広がっている。
視線を移動すると、美しい月が、空に幽美に浮かんでいた。
(一等星が、ひとつ…ふたつ…)
星を探すのに夢中になっていると、びゅう、と冷たい夜風が襲ってくる。
「へっくしゅん!」
「クゥン…?」
豪快にクシャミをかましたハルは、心配そうに覗き込んでくる獣に照れ笑いを返した。
「ふふ…さすがに寒いや。上着とか持ってくれば良かったな」
獣の大きな頭をモフりながら、独白するように呟くと……
「ワオンッ!」
獣がハルを巻き込みながら、どでーん!と岩の上に寝転んだ。
ハルは体勢を崩し、ボフッ!と獣の前足の間に転がるようにして収まった。
「え、あ、ちょっと…!?」
どうやら、『俺で暖を取れ』ということらしい。
流石に王子様にそこまでしてもらう訳には…とハルは獣の前足の間から逃げようとしたが、すったもんだの末、結局そこで暖めて貰うことになった。
(あったかい…モッフモフだ…!)
ワーウルフの背中の毛は、コシが強くて太い質感だったが、首周りから足にかけては柔らかく繊細な毛で覆われている。
微妙な毛の手触りの違いを楽しみながら、ハルは広がる夜空の星々を楽しむ。
「あ、ほら、あれ!オリオン座!」
「ワフッ」
「なあ、見えるか?あれ天の川だよな?すげえな、明かりの無い場所だとこんなに綺麗に見えるんだ……」
普段ハルがいる東京は、夜空などよりもネオンの方が明るい。人工灯に目が眩んで、星々の微かな囁き声が届かない。
(こんなにたくさんの星を一度に見るのは、生まれて初めてだ…)
ただただ、自然の美しさに感服する。
「ハルは、星が好きなの?」
「うわっ!?!?!?」
突然聞こえてきたユキの声に、ハルは飛び上がるほど驚いた。
「な、お、お前…!」
「今、ちょっと、後ろ見ないで」
「え…!?」
二人とも、岩の上に座っている。
後ろにいるユキが、ハルの身体に両腕を回し、ぎゅう、と抱きしめてくる。
突然のバックハグに、ハルはパニックである。
そして『後ろを見ないで』、とは…?
その答えは、すぐに分かった。
ハルの身体を包み込むようにして伸ばしているユキの足、それが、一糸も纏わぬ状態で。
「ごめん、獣型と人型を行ったり来たりすると、服がね…着たり脱いだりがめんどくさくて…」
「え、え、え…!?あ、あの……」
ユキは、服を着ていなかった。
ハルは、かっと顔が熱くなる。
服を着てようが着ていまいが、そのこと自体には何の頓着も無さそうな口ぶり。
それはそうだろう、獣は、服を着ない。
獣の姿とヒトの姿を自在に行き来するワーウルフにとって、服は『ヒトの時に着るもの』でしかない、付属品である。
だが、それはそれとして…
後ろから抱き締められているハルにとっては、たまったものではない。
誰かに抱き締められるのも、アルファにバックハグされるのも、初めてである。
ドクン、ドクン、
胸が高く鳴り響く。
見るな、と言われても見てしまう。
ほどよく筋肉のついた、すらりとした長い足。太もも。男らしく骨ばった膝。アスリートのようにしなやかに発達したふくらはぎ、くるぶし、足の一本まで。
ごきゅ、とハルは生唾を飲み込む。
緊張のあまり、身体が汗ばんでくる。
…ごり、とハルの尻のあたりに当たってくる、硬いモノは……?
「ねえ、星、たくさんあるね」
「あ、あぁ…!?う、うん…!」
「俺は星なんて、あるなー、光ってるなーって思うだけで終わるけど」
「へ、へぇ…!」
話かけられても上の空である。
何せ、裸のアルファに、後ろから抱き締められているのである。
緊張しない方がおかしいだろう。
「大丈夫?寒い?」
「ッん………!」
ぞくぞく…!!
ぎゅ、と抱き締められ、耳元で囁かれる、
その甘さに、本能が反応してしまう。
ハルは黒いモフモフの毛並みをしっかり掴み、ワーウルフの背中に飛び乗り、跨った。
「目線の位置、高っ…!」
「ワフッ!」
獣はハルを振り落とさないよう、ゆっくりと歩く。
巨大な岩の上だ。歩くたびに、ワーウルフの爪が岩に当たってチャカチャカと鳴った。
「わ、おっとと…」
小さな段差を越える時だけハルは体勢を崩したが、すぐにワーウルフの背中の乗り心地に慣れ、いつもよりずっと高く、景色のいい視界を楽しむ。
つい数時間前まで、このジャングルを徒歩で移動していたハルにとって、ワーウルフの背中から見る景色は、同じものであるはずなのに全く違うものに見えた。
身長175センチそこそこの二足歩行のハルは、鬱蒼と茂るシダ植物を手で払い、倒れて朽ちた木を乗り越え…と大層な苦労をしたものだが、この巨大な四つ足の動物にとってはそういった障害物は大した苦では無いらしい。
ユキは獣型のまま、岩をいくつかピョンピョンと移動し、巨岩の頂上へと向かっていく。
「わぁ…」
(すごい景色だ…!)
地上数十メートル地点。
背後にはダイナミックに城が聳え、目下には広い湖が広がっている。
視線を移動すると、美しい月が、空に幽美に浮かんでいた。
(一等星が、ひとつ…ふたつ…)
星を探すのに夢中になっていると、びゅう、と冷たい夜風が襲ってくる。
「へっくしゅん!」
「クゥン…?」
豪快にクシャミをかましたハルは、心配そうに覗き込んでくる獣に照れ笑いを返した。
「ふふ…さすがに寒いや。上着とか持ってくれば良かったな」
獣の大きな頭をモフりながら、独白するように呟くと……
「ワオンッ!」
獣がハルを巻き込みながら、どでーん!と岩の上に寝転んだ。
ハルは体勢を崩し、ボフッ!と獣の前足の間に転がるようにして収まった。
「え、あ、ちょっと…!?」
どうやら、『俺で暖を取れ』ということらしい。
流石に王子様にそこまでしてもらう訳には…とハルは獣の前足の間から逃げようとしたが、すったもんだの末、結局そこで暖めて貰うことになった。
(あったかい…モッフモフだ…!)
ワーウルフの背中の毛は、コシが強くて太い質感だったが、首周りから足にかけては柔らかく繊細な毛で覆われている。
微妙な毛の手触りの違いを楽しみながら、ハルは広がる夜空の星々を楽しむ。
「あ、ほら、あれ!オリオン座!」
「ワフッ」
「なあ、見えるか?あれ天の川だよな?すげえな、明かりの無い場所だとこんなに綺麗に見えるんだ……」
普段ハルがいる東京は、夜空などよりもネオンの方が明るい。人工灯に目が眩んで、星々の微かな囁き声が届かない。
(こんなにたくさんの星を一度に見るのは、生まれて初めてだ…)
ただただ、自然の美しさに感服する。
「ハルは、星が好きなの?」
「うわっ!?!?!?」
突然聞こえてきたユキの声に、ハルは飛び上がるほど驚いた。
「な、お、お前…!」
「今、ちょっと、後ろ見ないで」
「え…!?」
二人とも、岩の上に座っている。
後ろにいるユキが、ハルの身体に両腕を回し、ぎゅう、と抱きしめてくる。
突然のバックハグに、ハルはパニックである。
そして『後ろを見ないで』、とは…?
その答えは、すぐに分かった。
ハルの身体を包み込むようにして伸ばしているユキの足、それが、一糸も纏わぬ状態で。
「ごめん、獣型と人型を行ったり来たりすると、服がね…着たり脱いだりがめんどくさくて…」
「え、え、え…!?あ、あの……」
ユキは、服を着ていなかった。
ハルは、かっと顔が熱くなる。
服を着てようが着ていまいが、そのこと自体には何の頓着も無さそうな口ぶり。
それはそうだろう、獣は、服を着ない。
獣の姿とヒトの姿を自在に行き来するワーウルフにとって、服は『ヒトの時に着るもの』でしかない、付属品である。
だが、それはそれとして…
後ろから抱き締められているハルにとっては、たまったものではない。
誰かに抱き締められるのも、アルファにバックハグされるのも、初めてである。
ドクン、ドクン、
胸が高く鳴り響く。
見るな、と言われても見てしまう。
ほどよく筋肉のついた、すらりとした長い足。太もも。男らしく骨ばった膝。アスリートのようにしなやかに発達したふくらはぎ、くるぶし、足の一本まで。
ごきゅ、とハルは生唾を飲み込む。
緊張のあまり、身体が汗ばんでくる。
…ごり、とハルの尻のあたりに当たってくる、硬いモノは……?
「ねえ、星、たくさんあるね」
「あ、あぁ…!?う、うん…!」
「俺は星なんて、あるなー、光ってるなーって思うだけで終わるけど」
「へ、へぇ…!」
話かけられても上の空である。
何せ、裸のアルファに、後ろから抱き締められているのである。
緊張しない方がおかしいだろう。
「大丈夫?寒い?」
「ッん………!」
ぞくぞく…!!
ぎゅ、と抱き締められ、耳元で囁かれる、
その甘さに、本能が反応してしまう。
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