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④打撃

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どうしようもない力関係。捕食する側と捕食される側。暴行犯とその被害者。強者と弱者――。

耳の中で、自分の息がひゅうひゅうと鳴っている。貧血と耳鳴りがひどい。全力で逃げてきたせいで脇腹はズキズキ痛む。この震えきって萎えた手足で、ここから逃げ出せるのか?

ナイフをかわしながら、1人目を体当たりでひっくり返す。2人目を殴る。3人目を蹴り飛ばして、カギを開け、多目的トイレの横開きドアをスライドさせ――やるべきことが多すぎる!

いや、無理だ。手も拘束されているし、どこかで絶対捕まる。何かの拍子に刺されるに決まってる。

次の瞬間、手洗い台の下から荒っぽく引きずり出された。今度はその冷たい表面に頭を押し付けられる。鼻先には相変わらずナイフが突きつけられていた。蛇口の自動センサーが反応して、水が勢いよく流れ出る。その音にぎょっとして気を取られているうちに、カチャカチャとベルトを外される音がした。

服を脱がそうとしている――!

「やめろ!」叫びながら必死に暴れるが、手を拘束されている僕は、まるで芋虫のようにもがくだけだ。

「うるせえな」
男が低く呟く。仲間とは笑い合い、息を合わせてコミュニケーションを取っているのに、獲物――つまり僕にはほとんど言葉をかけない。その冷たさが、恐ろしくてたまらなかった。

再び蹴りを入れようとするたび、顔の近くに突きつけられるナイフに怯えて動きが止まる。このまま――僕は何も知らされないまま――やられるんだ。

スキニーパンツがひき下ろされようとする。けれど、その男の手が途中で止まった。

「……まじか」

男は一瞬絶句し、やがて小声で笑いながら言った。「やべえ、アタリじゃん」

アタリ……?
どういうこと?

頭が真っ白になりかけたその時、思い出してしまった。今夜こそカレシと初めてを迎えるんだと意気込んで、下着に選んだもののことを。

ジョックストラップ――別名「0バックパンツ」。通称「ケツ割れ」。
腰回りのゴム部分には、白いブランドメーカーのロゴ。シンプルな黒い生地でまとめられたそれは、数日前にネット通販で購入したばかりの新品だった。

ばかじゃないか、僕。
なんで、こんなもの履いてきたんだよ。

――こんな下着、誰が見たって、こいつは変態だ、ゲイだ、ってバレるに決まってるじゃないか。

「うははは!まじか!」一人が声を上げて笑う。
「だから俺、言ったじゃん。こいつ絶対ホモだって」

「え、なんで分かったの?エスパー?」
「いや、顔に書いてあるし」
「まじか」
「やっぱおまえ天才だわ」

軽口を叩き合うそいつらの笑い声が耳に刺さる。

僕の顔で?ゲイだと分かったのか?
繁華街で途方に暮れていた僕を見て、ターゲットを僕に絞ったというのか?
そうだとすれば、これは相当な屈辱だった。

「じゃあさ~、〇〇大生の賢いミサキちゃんなら分かるよね?」
リーダー格の男がにやにやと笑みを浮かべながら言った。「俺たちが、ナニしてほしいのか」

その言葉と同時に、むき出しの尻をねっとりと撫でる男の手。冷たく湿ったその感触が肌に触れた瞬間、全身が総毛立った。

そのときやっと気づいた――こいつらの目的を。
殺されるんじゃないんだ、と一瞬ほっとした自分が信じられなかった。

同時に、胸の奥からどっと嫌悪感が湧き上がる。こいつらの相手をしなきゃいけないのか?それとも、ヤられた後に結局殺られるのか――?

ミサキという、男とも女とも取れる僕の名前を、わざわざ「ちゃん」付けするのが腹立たしかった。

答えはわからない。だけど、怖い。どうしようもなく怖い。
震えながら、痙攣するようにかくかくと頷いていた。

「スカしたツラして、こんな気合入ったパンツ履いてさ~。まさかナンパ待ち~?はは、傑作!」

違う。違うし!

反論なんてできるはずもない。笑うそいつが、バン!と尻を強く叩く。その一撃に、反射で身体が跳ね上がった。

「それともパパ活?お金くれる、やさし~いお父さんを待ってたのかにゃ?イケナイんだよ~、そういうのはさぁ」

ひりつく尻が荒々しく揉みしだかれる。じっとりと湿った手が気持ち悪くてたまらない。

さらに、男の手が丘を左右に割り開く。
穴の縁に冷たい空気が触れる感覚に、身体が硬直する。引きつれるような嫌悪感が込み上げてくる。

尻を見られてる…!
羞恥と怒りで頭が真っ白になる。

(嫌だ!僕から離れろ…!)

か細い声が喉から漏れる。けれど、それはガムテープに塞がれる。

男の指がじりじりと迫り、ぐりぐりと執拗に触れられる。慣らしてもいない、濡らしてもいないそこに何かがねじ込まれる予感がして――背筋が凍る。

無意識に尻を振り、逃れようとするけれど、無駄だった。


「じゃあ、もちろんナカはきれいにしてあるんだろうなぁ?」
一人が嫌らしい声で言った。

「突っ込んだら、逆にうんこ出てきたりしてな」
「最悪~、きったねぇ!」

くだらない冗談を言って笑い合うそいつらが憎たらしくてたまらなかった。

「いいケツしてんなぁ、おい」

バシン、と一発。尻に平手打ちを喰らった。

「おお、固ってえ!」
「いい尻!」

次々と飛んでくる平手打ちに、痛みと屈辱が積み重なる。

(あっ!痛っ!)

僕が言葉にならない悲鳴を漏らすたび、男たちはそれを面白がってさらに叩いてくる。

じんじんと尻が熱を持つ。叩かれる振動が身体の奥まで響いて、体が『変な反応』をし始めていた。

「悦んでんじゃねえよ、ホモ野郎!」

男たちが嘲笑しながら吐き捨てた言葉に、全身が震える。

ふざけるなよ、クソ野郎!

叫びたくとも、ガムテープで塞がれた口の奥で悲鳴を殺すしかない。

僕の尻へ打撃が加えられるたびに、前立腺や、精嚢が揺さぶられていた。セックス慣れした僕の性感帯は、尻に食らうビンタがまるでプレイの一種であるように錯覚して、反応し初めていた。
そのことに、ナメクジ程度の知能のこいつらが気付いたとは思えなかったから、悦んでるんじゃねえよホモ野郎というのは、単なる罵倒の一環なのだろうが…僕のメンタルには、結構来た。

肘を掴まれ、強引に引き上げられる。中途半端に下げられたスキニーパンツが足元に絡みつき、よろけながらも引きずられるまま従うしかなかった。

主犯格の男が、にやにやと笑いながら僕の前に立ち塞がる。
「そこ、座れ」

嫌々ながらも、促された通りに陶器の上へ腰を下ろす。尻を乗せるには薄すぎる冷たい感触と、その汚さに鳥肌が立つ。感覚が鈍るほど腫れた尻に、硬く冷たい感触は地獄そのものだった。

「舐めろ」

低い命令とともに、突き出されたのはゆるく期待ちした陰茎――毛深く、汚らしいものだった。

蒸れた匂いと、赤黒い色味に吐き気が込み上げる。顔を背けると、次の瞬間――

「パァン!」

鋭い痛みが頬を襲った。

無言のままビンタが続く。二度、三度――そして再び顔の前に突きつけられる赤黒いそれ。

これ以上抵抗すれば、さらなる暴力が待っている。

どうしようもない。観念するしかなかった。
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