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③鈍く光るナイフ
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奇妙な興奮に包まれた三人組が、僕の目の前に立ちはだかっていた。
彼らは僕をこの深夜の多目的トイレまで無理やり引きずり込み、今や目をギラギラと光らせて興奮状態にある。
1対3だ。
唯一の出口をふさぐ男。獲物を前に目を血走らせる彼らの姿が、得体の知れない怪物のように見えた。僕は恐怖に突き動かされ、砂で汚れるのも構わずタイルの上を尻で後ずさる。行き着いたのは手洗い台の下。そこに身体を潜り込ませ、壁にぴたりと背中を押し付けた。
床には公園から入り込んだ砂利やチリ紙、死んだ虫、そして陰毛まで散らばっている。手入れの行き届いていないその場所の不潔さに目をつぶりながら、錆びかけた水道管の影に隠れるように身体を丸める。呼吸はひどく浅い。目は彼らから片時も離せない。不安でたまらなくて、何かに触れていないと、この恐怖に押しつぶされてしまいそうだった。
――間違いない。僕はこれからリンチされる。
頭の中がその思いだけでいっぱいになる。どうしよう、どうしよう、怖い、嫌だ、無理だ、助けて――。
ここはどこだ。お父さん、お母さん…!
そして、カレシの顔を思い出した。
ごめんなさい。僕がかっとなって家を飛び出さなければ、こんなことにはならなかったのに……。
ごめんなさい。どうしよう、僕、僕――。
その時、彼らの視線が僕の財布に向けられた。いつの間にかスられていたらしい。
「シケてんな」
リーダー格の男がそう呟きながら中身を物色し、数枚のウォン札を仲間に渡した。残りは自分の財布へとしまい込む。
「見ろよ、こいつ〇〇大学だってよ!あたまいい~!」
僕の大学を特定する男。
そして、別の男が僕の学生証を見て、ニチャリと笑った。
「ふーん、ミサキ、ちゃんって言うんだ」
くそ、くそ、くそ!
知られた!僕の名前が!
カメラを構えた男が学生証をパシャリと撮影する。「はーい、証拠押さえましたー」「証拠ってwwww」男たちは戯れながら犯罪を深めていく。
次の瞬間、スマホのカメラが僕に向けられ…
パシャ、パシャ、パシャ――。
え、なに?なんで!?なんで僕の写真なんか撮るんだ!?!?
恐怖と困惑で身を縮めながら、排水管の裏に必死で尻をねじ込んで隠れようとする。だが、容赦なくシャッター音は続き、逃げ場のない僕を嘲笑するかのように浴びせられる。
「うわ、見ろよやばくないこの写真?」
「やば!!マジウケる~wwww」
スマホ画面を仲間に見せ合い、爆笑する三人組。
笑うな。笑うなよ!
ふざけるな!笑うな!
「おい、そんなに怯えんなって。な?ミサキちゃん」
リーダー格の男がにやつきながら言う。
「大人しく言うこと聞いてくれれば、何もしねえから」
――嘘だ。
多目的トイレ内の天井ライトを反射して、鈍く光るナイフの鋼材。それを見た瞬間、僕は全身からすっと血の気が引いた。音が遠のいていく。キーンとミミの奥が鳴った。耳鳴りだ。
「言うこと聞けば何もしないって?じゃあ、そのナイフはなんだよ!」
叫びたい。でも声が出ない。恐怖で指先が震えてくる。
殺される!?ここで!?僕が!?こいつらに!?
「出てこいって」
男がふいに手招きして、僕は心臓が止まりかける。
いやだ、いやだ、いやだ!やだやだやだやだ!
絶対に刺される!いやだ、怖い、怖い!助けて!
視界がぼやけてくる。目の前の光景がじわりと歪む。男たちの顔が鬼のように見えて、輪郭が溶け出していく。視線が定まらない。手洗い台と水道管の下で、僕は縮こまるだけだった。
「出てこいよ」
突然、男がひょいとかがみ込んできた。黄色く充血していて、死んだ魚のようにギョロついた鈍い眼光が、僕を捉えていた。
うわ―――――!
恐怖で、ひゅっと息を呑んだ。全身が小刻みに震えてくる。少しでも男から離れたくて、後退しようとするが、生憎後ろは配管と壁でどん詰まりだ。ガムテープ越しに「あう、あう」と情けない声が漏れ、配管の間にめり込むように尻を捩じ込れた。
にぶく光るナイフがゆっくりと、僕の鼻先に近づいてくる。
――あ、だめだ、ごめんなさい…ーー
ゆるして、痛いことしないで!お願い、お願い、見逃して!殺さないで!
僕は善良なソウル市民です!生まれてから今まで、悪いことなんてひとつもしていません!なんでもします!なんでも言うことを聞きますから――!
お願いだから、怖いことだけは、しないで……。
彼らは僕をこの深夜の多目的トイレまで無理やり引きずり込み、今や目をギラギラと光らせて興奮状態にある。
1対3だ。
唯一の出口をふさぐ男。獲物を前に目を血走らせる彼らの姿が、得体の知れない怪物のように見えた。僕は恐怖に突き動かされ、砂で汚れるのも構わずタイルの上を尻で後ずさる。行き着いたのは手洗い台の下。そこに身体を潜り込ませ、壁にぴたりと背中を押し付けた。
床には公園から入り込んだ砂利やチリ紙、死んだ虫、そして陰毛まで散らばっている。手入れの行き届いていないその場所の不潔さに目をつぶりながら、錆びかけた水道管の影に隠れるように身体を丸める。呼吸はひどく浅い。目は彼らから片時も離せない。不安でたまらなくて、何かに触れていないと、この恐怖に押しつぶされてしまいそうだった。
――間違いない。僕はこれからリンチされる。
頭の中がその思いだけでいっぱいになる。どうしよう、どうしよう、怖い、嫌だ、無理だ、助けて――。
ここはどこだ。お父さん、お母さん…!
そして、カレシの顔を思い出した。
ごめんなさい。僕がかっとなって家を飛び出さなければ、こんなことにはならなかったのに……。
ごめんなさい。どうしよう、僕、僕――。
その時、彼らの視線が僕の財布に向けられた。いつの間にかスられていたらしい。
「シケてんな」
リーダー格の男がそう呟きながら中身を物色し、数枚のウォン札を仲間に渡した。残りは自分の財布へとしまい込む。
「見ろよ、こいつ〇〇大学だってよ!あたまいい~!」
僕の大学を特定する男。
そして、別の男が僕の学生証を見て、ニチャリと笑った。
「ふーん、ミサキ、ちゃんって言うんだ」
くそ、くそ、くそ!
知られた!僕の名前が!
カメラを構えた男が学生証をパシャリと撮影する。「はーい、証拠押さえましたー」「証拠ってwwww」男たちは戯れながら犯罪を深めていく。
次の瞬間、スマホのカメラが僕に向けられ…
パシャ、パシャ、パシャ――。
え、なに?なんで!?なんで僕の写真なんか撮るんだ!?!?
恐怖と困惑で身を縮めながら、排水管の裏に必死で尻をねじ込んで隠れようとする。だが、容赦なくシャッター音は続き、逃げ場のない僕を嘲笑するかのように浴びせられる。
「うわ、見ろよやばくないこの写真?」
「やば!!マジウケる~wwww」
スマホ画面を仲間に見せ合い、爆笑する三人組。
笑うな。笑うなよ!
ふざけるな!笑うな!
「おい、そんなに怯えんなって。な?ミサキちゃん」
リーダー格の男がにやつきながら言う。
「大人しく言うこと聞いてくれれば、何もしねえから」
――嘘だ。
多目的トイレ内の天井ライトを反射して、鈍く光るナイフの鋼材。それを見た瞬間、僕は全身からすっと血の気が引いた。音が遠のいていく。キーンとミミの奥が鳴った。耳鳴りだ。
「言うこと聞けば何もしないって?じゃあ、そのナイフはなんだよ!」
叫びたい。でも声が出ない。恐怖で指先が震えてくる。
殺される!?ここで!?僕が!?こいつらに!?
「出てこいって」
男がふいに手招きして、僕は心臓が止まりかける。
いやだ、いやだ、いやだ!やだやだやだやだ!
絶対に刺される!いやだ、怖い、怖い!助けて!
視界がぼやけてくる。目の前の光景がじわりと歪む。男たちの顔が鬼のように見えて、輪郭が溶け出していく。視線が定まらない。手洗い台と水道管の下で、僕は縮こまるだけだった。
「出てこいよ」
突然、男がひょいとかがみ込んできた。黄色く充血していて、死んだ魚のようにギョロついた鈍い眼光が、僕を捉えていた。
うわ―――――!
恐怖で、ひゅっと息を呑んだ。全身が小刻みに震えてくる。少しでも男から離れたくて、後退しようとするが、生憎後ろは配管と壁でどん詰まりだ。ガムテープ越しに「あう、あう」と情けない声が漏れ、配管の間にめり込むように尻を捩じ込れた。
にぶく光るナイフがゆっくりと、僕の鼻先に近づいてくる。
――あ、だめだ、ごめんなさい…ーー
ゆるして、痛いことしないで!お願い、お願い、見逃して!殺さないで!
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