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しおりを挟む王城にある自室へと駆け込み、破るような勢いでドレスを脱いだ。
最近のドレスはコルセットもなく、少々手こずるが1人でも脱げるようになっていてよかったと、こんなときなのに頭の隅で思いながら簡素なワンピースに着替え、すでに中身を入れてある大型のバッグをクローゼットの奥から引っ張り出した。
いつか、マイカちゃんが来た時すぐにここから出ていけるようにと前もって準備をしていた。
今ならマイカちゃんが来たことで王城もごたついているだろう。王城の人全員に顔が割れている自分が逃げ出すとしたら今しかない。
殿下に何も言わずに出ていくことが心苦しい。
私が出て行くと言ったら、優しい殿下はきっと引き留めてくれる。
だけどそれで王城に残って、殿下とマイカちゃんの2人を見つめる生活なんて耐えらない。
殿下はきっと本当は誰とでも食事ができるはず。
だけど私が殿下との食事を楽しんでいたから、止めようと言い出せなかったのかもしれない。
優しい人だ。本当に優しい。
私から解放され、これからはマイカちゃんやいろんな人と食事をするのだろう。
―――……私の役目は、これでおしまい。
やっぱり、最後に一言だけでも手紙を残しておこう。
これまでたくさん良くしてもらったのだから、一言挨拶だけでも。
「これまで、楽しい時間を本当にありがとうございました。私はこれでお暇させていただきます……」
未練がましさを残さないよう短すぎる内容を書いて机の上に置いた後、今まで過ごした部屋を見渡した。
殿下と食事を共にするため当然家には帰れなかったから、気付けば長い時間を王城で過ごしていた。
殿下との食事は私の部屋と殿下の部屋どちらにもつながっていて、本当に他の人を交えず2人だけで食事をした。
寝室も続き扉となっていたけど一度だって行き来はしなかった。
婚約者であれば婚前交渉は良しとされているけれど、殿下にはマイカちゃんとの未来の可能性があったし、そもそも殿下は高潔な人だからそういった行為に興味を持っている様子は微塵もなかった。
……それかただ単純に私のことは食事を共にする良き友人としてしか見ておらず、異性として、性的対象としては見ていなかったのかもしれない。
一度くらい殿下に求めてほしかったと、そう言ったらはしたないと思われただろうか。
だけど赤恥をかいてでも、言えばよかったと少し思った。
名残り惜しさを感じながらも廊下に続く扉の前に立ち、もう一度部屋を見渡して深々と頭を下げて、出ていこうとノブを掴もうとしたとき、――――ドアが開いた。
「―――…エリシア、どこにいくの」
そこにいたのは、赤い瞳を妖光させながら私を見下ろしているテオファルド殿下だった。
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