ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!

冬見 六花

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「エリシア、大丈夫?」


先程記憶を取り戻してからずっとボーっとしていたらしい。自分よりもか弱そうな体の殿下に心配そうに顔を覗き込まれた。

「あ、すみません。大丈夫です」
「ごめんね、僕の見舞いに毎日来てくれているから疲れているでしょ?」
「全然!疲れてなんかいませんよ。私とっても元気です!お見舞いだって私が来たくて来てるんですから」
「本当に?嬉しいな。エリシアが来てくれると僕も元気になれるんだ」


殿下は大変見目麗しい。
ホワイトゴールドの髪は太陽の下を歩くと目を細めてしまうほど眩しく、熟れたトマトのように潤んだ赤い瞳は男女問わず法悦としたため息を漏らさせる魅力を持っている。
不健康に見える青白い肌さえ、その存在の儚さ神秘さを演出しているかのようだ。

彼は別に病気があるわけではない。
ただ『食事をする』という行為を恐れ、食べることがほとんどできないのだ。





それは3ヶ月前のこと。
私と一緒に他国の珍しいお菓子を食べているとき、突如として殿下の体中に蕁麻疹が表れ、嘔吐と喘鳴に苦しみ数日生死をさまよった。
食事に毒は入っておらず、何故殿下がそうなったのか誰もわからなかった。なんとか一命を取り留めたが殿下は食事を摂ることができなくなってしまい、みるみるうちに痩せ細ってしまい現在に至っている。



イセキンの内容を知った今だからわかる。
殿下はクルミアレルギーなのだ。



だがこの世界では“アレルギー”という概念がない。
人によっては毒ともなるものがあるという考えがないのだ。
クルミはこの国では栽培されておらず滅多に食べることはないが、なにが原因だったかわからない殿下にとって「食事」は毎度死と隣り合わせとなる行為。苦手になって当然だろう。
他ルートで殿下が死んでしまうのもアレルギーが起因している。



とにかく、ヒョロガリ超絶美少年の殿下が生き残るには筋肉が必要不可欠だ。
そのために必要なことは殿下に食事を克服してもらい、5年後までに屈強な体を手に入れてもらわなければならない。
ならば今思い出したことを殿下に話してしまおう。
安心して食事をして欲しいし、筋肉をつけるのは他でもない殿下自身なのだから。


「殿下、大事なお話があります」
「なにかな?」
「殿下と私の未来に関する、とても大切なことです」
「エリシアと僕の未来?」




それから、殿下が倒れたのはクルミアレルギーが原因であること、前世の記憶からここは恋愛小説の世界であること、殿下には筋肉をつけてもらってマイカちゃんに選んでもらわなければ殿下も私も死んでしまうことを話した。

殿下は相槌だけ打って途中で口を挟むこともせず黙って話を聞いてくれた。





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