竜の恩返し。の裏返し【R18】

冬見 六花

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「レイ……ド……?」
「おかしいなぁ。うまくいっていると思っていたのに」


 いつもの飄々とした口調であるはずなのに、レイドの薄青の目は瞳孔が縦に細く伸び、冷たい怒りを思わせるものだった。
 そこには計り知れない何かが濃縮されているように思えた。

「もう大丈夫だと思ったけどやっぱり根深いんだなぁ。かわいそうに。次・にいくのはちょっと躊躇うけどあと1回くらいなら平気かな。まあこれもすべてリセのためだし」
「な、なにを、言ってるの……?」
「なにって、僕から逃げてこんなところにいるんでしょう?」
「え、違うよ……?」
「嘘言わなくていいよ。正直に言って」
「う、嘘なんて言ってないよ」
「あれ?」

 レイドはひどく驚いたように、瞳孔が縦に伸びている目を見開きながら呟いた。

「私はただシーツが飛んでっちゃったから、追いかけてて、気づいたらこんなところまで……」
「ほ、ほんとに? 僕から逃げたんじゃないの……?」
「レイドが私から逃げるならまだしも、私がレイドから逃げるだなんてありえないと思うけど……ヒャアッ!」

 長く逞しい腕と、銀鱗が眩しい太い尾と、風から守ってくれる翼によって、閉じ込められるように強く抱き寄せられた。
 まるで私の存在を確かめるように、何度も何度も抱き直し、頬を擦り寄らせてくる。

「なんだ……。なんだそっか……。あはっ、あははははっ! やっぱりうまくいってるんだ! よかったぁ」
「えっ、あ、あの、レイド?」
「ああぁぁぁ、抵抗しないでいてくれる。嬉しい……」

 抵抗などするはずがない。
 好きな人から抱きしめられているのだ。この状況に戸惑いこそしているが、嫌がることなどありえない。
 その思いを伝えるべく、レイドの背中に恐る恐る回すと、息を吸い込みながら喜んだレイドが更に強く私を抱きしめてきた。

「ちょっ……待って、苦しい……」
「あっ、ごめんね! リセが俺を抱きしめてくれるだなんて嬉しくて、つい」

 少し顔を離したレイドは、その言葉の通り頬を紅潮させひどく嬉しそうに笑んでいた。
 恐ろしいと思うような竜人姿であるというのに、その笑みが可愛くてなんだかむずがゆい思いになってしまう。そしてそんな私をレイドはさらに蕩けた表情で見つめてくる。

 普段見ない竜人姿のレイドが至近距離で熱く見つめてくることがこそばゆくて、目線を下に向けるとレイドが感嘆するように「可愛いなぁ……」と呟いた。
 それがさらにこそばゆい気持ちになってしまうが、決して悪い気持ちはしなかった。

「レ、レイドはどうしてここに……?」
「あ、待って。もう雨が降りそう。話は帰ってからにしよう。しっかり僕に抱きしめられててね?」
「えっ……うわあぁっ!」

 シーツに包まっているのにさらに深く包みなおされたかと思うと、ものすごく強い風を感じて目を開けることなどできなかった。だがその時間は一瞬にして終わり、パタンと優しくドアが閉まった音が聞こえたと同時に風は止んだ。

「はい、着いた」
「えっ」

 恐る恐る目を開けると、すでに見慣れた我が家の中にいた。
 外に出しっぱなしになってしまっていた洗濯物が入った籠は、今の一瞬で回収してくれたのかレイドの尻尾が巻き付いてあった。

「すごい。瞬間移動みたい……」
「あははっ! 人間からしたらそうかもね。実際に瞬間移動ができる竜人もいるんだけどね。キッチン借りていい? 温かい飲み物用意してあげるから、座って待っててよ」
「ありがとう。あ、そしたら着替えてくる。土で汚れちゃったし」
「うん、わかった。ゆっくりでいいよ」

 少し逃げるように奥の部屋へと入り、大きく息を吐きながらもたれるようにドアへ背中を預けた。
 なんだかよくわからないけれど、心臓が強く速く鼓動を打っている。
 初めて見るレイドの竜人姿になのか、先程の刺すような冷たい目線になのか、その後の嬉しそうな微笑みになのか。
 とりあえず早く戻ろうと、急いで着替えてから髪を整えた後、入念に全身をチェックした。


 そのとき、強い雨音が急に聞こえてきた。
 何故だか胸をざわつかせるようなその音につられ、無意識に部屋の窓に目線を向けた。


 そこにはこの辺りで時折見る、色鮮やかな青い蝶が庇の下で雨宿りでもしているようにとまっていた。







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