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後日談 一生の不安 ‐レナードside‐③
しおりを挟む×…? ×が見える……
え、×?
×ってことは、嫌ってことか…?
え?嫌なのか?
アンナは、俺とのキスが嫌なのか……?
「……っ」
数秒前に感じていた喜悦は消え失せ、絶望が全身を巣食っていく。
意図せず声が震え、指先からどんどん熱がひいていく感覚がする。
意地悪、しすぎただろうか…
でもそうするとアンナがあまりに可愛いから…
俺の言動に翻弄されるアンナが可愛すぎるから…
どうすれば……
一体これからどうすればいい…。
まずはアンナに優しくしないと。
優しく優しく甘やかして……そうだ、それよりも最初にアンナを閉じ込めないと。
柔らかくて居心地のいい牢屋を用意して、肌を傷つけない首輪と手錠と足枷を用意しなくては……
あぁ、そうだ。アンナに俺とのキスをまた好きになってもらわなければ。媚薬を用意しないと。あの下着屋に良い媚薬が置いてあると職場で聞いたことがあるから今すぐ買ってきて……あぁ、でももう店は閉まっているはず。
ならば今はアンナを愛し潰しながら朝を待って、すぐに薬を……
「レナード様…? っ!?」
枕を俺に押し付けていたアンナが顔を覗かせると、俺の様子があまりにおかしいためか慌てながら俺の手を握ってくれた。
「ち、違いますよ!嫌とかじゃないですからね!こうしてたんです!よく見て!!」
「…え?」
もはや見たくないが改めてアンナが持つ枕を見ると、アンナが枕を傾けながら持っているために「×」が「+」となっているのが沈んで暗くなってきていた視界で見えた。
「これは……?」
「い、いっぱいしたいって……意味、です…」
「いっぱい……?」
「で、でも、ちょっとした悪戯心もありました…。ぱっと見「×」だからビックリするかなって……」
「じゃあ…俺とのキス……嫌じゃ……ない…?」
「嫌なわけないです…。も、もっと……ずっと、してたい、です……」
その言葉に、冷え切っていた体に一気に熱が戻っていった。
例えようのない怒りに似た思いに駆られ、アンナの手から枕を奪って視界から消すように後ろへポイと投げた。
「――――っ」
「ひどいな、アンナは…」
俺は今、一体どんな顔をしているのだろう。
アンナが恐れからなのか怯えているような表情をしている。…あぁ、可愛い。
そして自分でもわかるほど重く低い声が出てしまったことに驚いて怯えるアンナも可愛い。
「ご、ごめんなさい……」
ゆっくりとアンナの体を倒すと、いとも容易く体がベッドに沈んだ。
――――この光景は、いつ見ても高揚する。
アンナが俺に押し倒され、潤んだ瞳で俺を見つめる、この光景。
俺から決して逃げられない
俺に囚われて離れられない
俺だけのものと思えるこの光景
今日はアンナの瞳に少しの恐怖が混ざっている。
あぁ、でもこんな顔のアンナもすごくいい。
アンナに嫌われたくなどないけれど、こんな表情もすごくいい。
「アンナが、俺の傍からいなくなりたいと、そう思ったのかと、とても怖かった…」
「ご、ごめんなさい…。そんなこと、思うはずないです…」
とにかくアンナに触れたくて、華奢な手を取り唇で肌膚の滑らかさを感じていく。
少し冷たい指を食み、アンナを見下ろしたまま指先に舌を這わすと、アンナの味がした。
心臓がいまだに大きく鼓動を打っているのがわかる。
怖かった。
本当に怖かった。
つい今しがたあの恐怖を、今後一生、絶対に味わいたくなどない。
「あぁ、まだ怖い…、怖くて怖くてたまらない……」
「ご、めんなさ……、ど、どうしたら、いいですか…?」
「アンナに触れて、アンナの熱を感じて、アンナを貪って、アンナを食い尽くさないとおさまらなそうだ」
「つ、つまり、エッチしたら……怖くなくなりますか…?」
「どうかな。それに勘違いしないでほしい。俺は単にセックスがしたいのではなくて、アンナを愛して愛して愛したいだけだ」
「っ……あ、朝まで?」
怯えるアンナが俺に尋ねた。
その表情を見て、ふと笑みを零した。
「朝まで?たったそれだけじゃ、この恐怖は消えないな」
「え、じゃ、じゃあ…い、いつまでシたら……」
「アンナ。1日というのはな、24時間あるんだよ」
「死んじゃいますよぉ…」
「安心してくれ。すぐに後を追いかけるよ」
「なんでちょっと殺す気なんですか…。でも、意地悪してごめんなさい……」
藍色の瞳がさらに水膜を張り、それは容易く破られて眦から零れていった。
「お、お願い……嫌いに、ならないで…?」
水面を張る藍色の瞳が、先程と違う恐怖に染まっていく。
俺に怯える恐怖でなく、俺に嫌われるかもと怯える恐怖。
「嫌いになんてならないし、なれないよ」
「ほ、ほんとに…?」
「あぁ。本当に。でもアンナ、もっと、俺を安心させて?」
「だ、大好き…。好き…。レナード様、大好き……だから、嫌われるの、嫌…。絶対、嫌なの…。レナード様、好きなの、愛してるの、レナード様ぁ…」
「うん。……もっと、言って?」
「レナード様が、安心してくれるなら、私を好きでい続けてくれるなら、私を好きにしていいから……抱き潰していいから……お、お願い…嫌わないで…………ンゥ、ッ!」
涙が混ざったキスは、酔いそうなほどに甘い。
「ンッ、ぅ……ッンゥ、…っは、ぁ…レ、ナッ…さまぁ…」
「ん?もっと?」
「うん……ッン、んぁ……っ」
ひどくねっとりとしたキスが、だんだんとアンナの瞳に安堵と情欲を宿していく。
無意識に互いの熱を求め、気づけば指を絡め合っていた。俺の手を握る小さな白い手は、舌を撫でられるたびに可愛いほどの力がこもり、そのことに愉悦してまた舌を撫でてあげる。
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