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後日談 一生の不安 ‐レナードside‐ 前編
しおりを挟むアンナと過ごす日々は、まさしく“夢のような日々”だ。
「ほら、俺が言った通りだったろ?」
騎士の仕事に戻って早数ヶ月。
以前の生活リズムに加えて、アンナが俺の家に越してきて新たに2人で生活を始めたことにも慣れてきたこの頃。
昼休みにアンナの分も合わせて自分用も作っていた弁当を食堂で食べているとき、したり顔のディランが話しかけてきた。
「なんだ、急に」
「アンナならお前のことなんとかしてくれるって言ったろ。お前の不眠も、お前の意味わかんねぇ不安も、アンナが全部とってくれただろ?さすが俺の勘!」
ディランは俺の正面に腰かけ、食堂で頼んだチキンソテーセットを豪快に食べ始めた。
遅い昼食だからか俺らの周りに人はおらず食堂は閑散としていて、食堂の職員達が固まって遅い昼食を摂っているのが視界の隅で見えた。
ディランは基本的に無神経な男だが、たまに驚くほど周囲をよく見ている。
今この場所で俺にこの話題を振ったのは周囲に人がいないからだろう。これまでも話す機会はあったが人目があったからかアンナの話題に触れることはしなかった。
「まぁまさかお前がそんなに独占欲つえーとは思わなかったけどな」
「ヤカグの男からしたら俺はそんなに強くないほうだ。アンナの外出を受け入れているのがいい例だ」
弁当を食べ終え、デザートとして持ってきたシフォンケーキを口に運ぶとその甘さに僅かに目を眇めた。
アンナのためにと思って昨晩作ったが俺には少々甘すぎる。
だがアンナはこのくらいの甘さが好きだからこれが正解だ。
「でもアンナを1人で出かけさせんのは嫌なんだろ?」
「当たり前だ。至高の可愛さを持つ俺のアンナが1人で外出だなんて、考えただけでも怖気立つ」
「お前…あいつの兄貴の俺に惚気るなよ…」
「惚気てない。ただの事実だ」
「へいへい」
シフォンケーキを放るように口に入れてすぐに飲み込んだが、舌は甘さを感じ取ってしまった。やはり甘すぎる…。
どうすれば俺はアンナと同じ味覚となれるのだろうか。
アンナと舌を同じにして同じ感覚を味わいたい。…あぁ、でもそうするとアンナと舌を絡めるキスができなくなる。アンナの舌の味と熱は俺だけが感じていたい。アンナにだってアンナの味を教えたくない。
アンナのことを、アンナに対しても独占欲が湧いてしまう自分は、やはりおかしいのだろう。
そう思いながら口内を洗い流すようにお茶を飲んだ。
「そんで?どうよ。ラブラブ新生活は。お前仕事早く終わらせる以外前と全然変わんねぇよな。もっと浮かれて花でも舞ってんのかと思ったのに」
「アンナと離れている時間に浮かれるなどありえない。むしろ俺とアンナを離す仕事が憎いほどだ」
「うわぁ…前は仕事人間だった奴の言葉とは思えないな」
「別に元々仕事が特段好きなわけじゃない。嫌いでもないがな」
正直に言って別に働かなくてもこの先十二分に生きていけるほどの金はある。だがこの仕事を続けているのは体が鍛えられるという点が大きい。
俺の体が逞しくなるたびにアンナが内心喜んでいることをちゃんと知っている。俺の体を熱く見つめてくれるあの大きな藍色の瞳が好きだから、俺は体を鍛えるし仕事をする。
仕事をする理由はただそれだけだ。
「まぁとりあえずよかったな。すべてはお義兄様であるこの俺のおかげだからな!」
気付けばディランは大盛だった昼食を既に平らげていた。
だが離席する気はないらしく、このまま俺との話を続けるようだ。
「そうだな。ディランのおかげだよ」
「おぉ!素直!んじゃ、素直な義弟に祝いの品をやる」
そう言って隣の椅子に置いていたなかなかの大きさの紙袋を俺の前に置いた。
その紙袋の存在には正面に座っていたときから気づいていたが、まさか俺にくれるものとは思っておらず気にも留めていなかった。
中を覗いてみたが包み紙に包まれていてわからなかった。
「…なに入ってんだこれ」
「バカだなぁ。んなの開けてからのお楽しみに決まってんだろ。家帰ってアンナがいる前で開けろよな」
「はぁ……まぁとりあえず受け取っておく。ありがとな」
絶対碌なものじゃないとわかってはいるが、アンナの兄からの祝いの品を受け取らないわけにはいかない。
弁当を食べ終えて席を立ちながら紙袋を持ち上げてみると大きさに反して軽いものだった。
すると、ディランは驚いたような顔をして見上げてきた。
「え、何?お前もう仕事戻んの?まだ昼休み残ってんだろ?」
「少しでも早く帰りたいからな」
「ッハハ!ラブラブなこった。だが俺だって負けねぇぞ!いやむしろ俺のほうが勝っている!お前とジャンもなかなかだがやっぱ俺とロザリーのほうが絶対にラブラブだ!!ハッハッハッ!」
先日ディランと奥方の間に無事に女の子が産まれたと聞いた。
晴れて父親となったディランだが特段変わった様子がない。それを良いととるか悪いととるかはわからないが、時折奥方と会っている(もちろん俺の送り迎え付)アンナから聞く話では子育ても夫婦で協力して行っていると聞いている。
同じヤカグ出身のジャンもリィタとの仲は良好らしく、俺もアンナという最愛を持ったことから最近は遠慮なくリィタとの惚気を話してくる。
正直に言うと人のリィタに興味などないが、ジャンには心配と迷惑をかけてしまったために聞き役に徹することにしている。俺が騎士職に復帰し、その後も続けることを決めた際もジャンが1番喜んでくれた。
“不安はすべてアンナが取ってくれた”か…。
ふと、自嘲するように目線を落とした。
「ディランの勘は半分当たって全部外れたな」
「んだよ、急に。俺が何を全部外したってんだよ。―――って、おい!レナード!」
不貞腐れながら言うディランの言葉に返事をすることはせずその場を去った。
与えられている個室の執務室へと戻り、深く椅子に腰かけると無意識に「ハア…」と大きく息を吐いた。
そのため息を見ないようにするためか、くるりと椅子を回して後ろから日差しを入れる窓を見上げ、清々しさを感じる青空を眇めた表情で見つめながらポツリと零した。
「――――…不安など、むしろ増えてしまった……」
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