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嫉妬で頭がイカレそうだ②
しおりを挟む「アンナ…?」
ビクッと肩が上擦った。
声はひどく甘いのに底冷えするナニかが声にこれでもかと込められている。
「アンナ、正直に答えてほしい」
「えっと、…ですね」
「先日、アンナは、俺に、キスをしたな…?」
「は、はい…」
「あのキスが、初めてでは、…ない、とでも?」
「………っ、は、はい」
「まさか、舌を絡めるような、キスを、した経験が?」
「っぁ、えと…それは……」
レナード様から発せられるただならぬ気配に恐れ慄いて口がうまく回らない。
「交際経験がないと、出会った頃に言っていたと記憶しているが……あれは嘘だったのか…?」
「う、嘘じゃない!」
ブンブンと首がもげるほど振った。
だがレナード様の表情は一切変わらず虚無が色濃く表れている。
「では交際していない男と………っクソ!」
「――――っんぎゃ!!」
レナード様の体を跨いでいた体勢のまま抱きあげられたため突如視界が変わり、無意識に目の前にある逞しい首にしがみついた。
浮遊感に戸惑う私をよそに、レナード様はズンズンと寝室の扉を粗雑に開けた。
「レ、レナード、様…?」
「そいつと、慣れてしまうほど、キスをしたのか?」
「えと、は、話を…」
「いや!言わなくていい!……言わないでくれ…!嫉妬で頭がイカレそうだ…!」
いや嫉妬も何もあなた様なんですが。
とにもかくにもレナード様の精神が今正常ではないことはわかる。もう打ち明けることが恥ずかしいなんて悠長なこと言ってられない!早急に説明をしなければ!
そう思っていると、いつも2人で一緒に眠っているベッドに一緒に倒れ込んだ。
背中に伝わった柔らかなベッドの衝撃に目を瞑ると、しがみついていたレナード様の体がゆっくりと離れていくことがわかり、恐る恐る目を開けた。
「……ッ!」
ヒュッと息を呑み込んだ。
先程私を熱く見つめていたライムグリーンの瞳が空っぽだったのだ。
虚空で、虚無で、がらんどうで、真っ黒だった。
「あ、あの…違くて…」
「何も言わないでくれ…。アンナを責めているわけではないんだ……」
いやこれどう考えても責められてるんだけど。
「でも、この思いをこのまま鎮めることなど、なかったことにするなど、絶対にできない。もっと早く、あなたと出会っていれば………。あぁ、アンナ、俺のアンナ……俺は一体どうすればいい…」
「は、話を…聞いてくれれば、よろしいかと……」
「話?アンナが他の男と……あぁ、口にするのも悍ましい……その話を俺に聞けと?」
虚無の瞳で私を見つめたまま、ゆっくりと頬を撫で、私の髪を一房掬い口付ける。
その光景はひどく艶めかしくこのまま見惚れていたいとさえ思うほど美しいのに、胸が浮くような恐怖で無意識に胸元に両手を置いた。
するとその手をレナード様が掴んだ。
「俺が、怖い?」
「え…?」
「震えてる」
「そ、れは」
「これがヤカグの男の嫉妬だ。憶えていてくれ。アンナ、あなたに狂う男の見苦しい嫉妬を」
「見苦しくなんかない、です…!でもまぁ…確かにちょっと怖いですけど…」
正直にそう言うと、何故だかレナード様は嗤った。
「不思議だ…。アンナに嫌われることも、怖がられることも、あんなに恐れていたというのに、俺に怯えるアンナさえも愛おしい…」
「た、確かにちょっとビビってます、けど…だ、だってそれはレナード様が話を聞いてくれないから!」
「アンナと他の男の情事を俺に聞かせるつもりか……?」
「――――他の男じゃなくてレナード様だからっ!!」
ベッドの上で組み敷かれている状態でレナード様の腕を振り払うようなことなど脆弱な私にできるはずもなく、声を上げることしかできない。
するとようやくレナード様の動きが止まり、驚きからか目に宿る虚無も消えていた。
「…え?」
「キ、キスの、相手……、レナード様なんです……だから、その……嫉妬とか、しなくて、いいです……」
「俺?俺が、いつ?」
「一緒に、寝てるとき……」
「憶えがない…」
「でしょうね…。ぐっすり寝てましたから…」
「寝ていたのに、俺は、アンナを?」
「はい…」
「舌を絡めるほどのキスを?」
「っ、……はい」
「もしや…毎晩…?」
「は、はい…」
レナード様が呆然としている。
いや、まぁ当然か。結局話してしまったが、これ以上誤解を与えるのは絶対によろしくない。それに怖い。
とにもかくにもこれで誤解が解けた。やはり会話というのは大事だな。
とにかく安心して欲しい。私はレナード様しか経験がないのだ。
だけどこうして嫉妬してくれるのはレナード様には悪いが些か嬉しい。まぁレナード様が怖いと思ったのも確かだけど。
「………」
「?」
おや?様子がおかしい。
レナード様に安堵した様子が見られない。
いやむしろ先程と同様に瞳に虚空が広がり始めた。
「アンナ……」
「っ、は、はい!」
「寝ている自分を殺すのは、どうすればいいと思う…?」
「何言ってんだあんたは」
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