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それはまるで②
しおりを挟む「レナァ、ド…さまっ……」
「ん?」
滑らかに出ると思った声は、ひどく上擦っていた。
目頭が、いや目の周り全体がチリチリと熱い。滲んだものがすぐに膜を張り、雫となって頬に伝った。
それを褐色の太い指が焦れるほどゆっくりと拭う。ライムグリーンの瞳を優し気に細めながら。
「私をっ……選んで、くれる……?」
「あぁ」
「私を、野放しにして、……どこかで私の幸せを願うんじゃなくて、……私をもっと、縛ってくれる…?」
「あぁ」
「もっとレナード様で捕えて、がんじがらめにして、甘やかしてくれるの……?」
「あぁ。あなたがそれを望んでくれるのなら」
「レナード様が、眠れるように安眠抱き枕になるから……、私とずっと、一緒にいてくれる……?」
いつの間にかレナード様の顔がかなり近い。
ダイニングチェアに腰掛けている私の顔に己の顔を近づけ、すでに私の視界は蕩けた笑みのレナード様でいっぱいだ。
「あなたが隣にいないのなら、例え眠れる夜を過ごせたとしても、俺に平穏な眠りは訪れない。あなたが隣にいてくれるのなら、俺は毎夜眠れぬ夜を過ごすことをむしろ楽しみに思うだろう」
「…っ」
「だからあなたを俺から逃げられなくするよう、俺は全力であなたを愛すよ。俺がいないと生きていけなくする方法などいくらでもあるからな」
「そ、そんなの……もうなってるもん……。レナード様のせいで私ダメ人間になってるもん……」
「ダメ人間じゃないよ」
元々私を射抜くように見ていたはずなのに、その目に力と熱が更にこもったように思えた。
そして大きな手がスルリと頬を掠め、うつむきがちなために落ちていた私のアイスシルバーの髪をひどく艶めかしく耳にかけた。
「あなたは甘えることが上手なだけだ。それは誰しもできることではないからもっと誇っていいことだよ」
「っ、…で、でも」
「でもあなたが甘えるのは俺にだけにしてくれ。あなたが甘えるのも、頼るのも、全部全部俺にだけにしてくれ。俺にならどんなことだって甘えてもいいよ」
「ど、どんな……ことも……?」
「あぁ、どんなことも。俺にだけ、甘えて?」
すでに吐息のかかる距離。
そして囁かれる甘く、煮詰めたような声。
この先何が起こるのか、何をされるのか、何を期待しているのか、私は十全にわかっている。
「レナード、さま……」
「ん?」
「わがまま、言っても……いい?」
「あぁ、いいよ。どんなことでも、叶えてあげる」
優しい優しい眼差しと、甘い甘い声が、私を包む。
その多幸感に涙する。
「オムライス、また作って…?」
「あぁ、いいよ」
「眠れるようになっても、そばにいて…?」
「それは俺からも頼みたいな」
「私をずっと、好きでいて……?」
「息をするよりも、簡単なことだな」
―――……私に思いをぶつけてくれるその前に……
「ァ、アンナ……って、……呼んで……?」
それは一度断られた頼みごと。
それでレナード様に振られたと静かに泣いた夜を密かに思い出す。
あのときの、雪のように静かに津々と降り積もった悲しみが今、視界に広がるライムグリーンの瞳の熱で溶けていく。
―――――……そんな錯覚に酔いしれた。
「アンナ」
それは密やかに
「アンナ」
それはまろやかに
「アンナ」
それは甘やかに
「アンナ」
それは艶やかに
「 アンナ 」
それはまるで私の名前の音をした愛のように
愛し気に見つめるそのライムグリーンの瞳から、
甘さを濃縮したその低い声から、
包むように触れる褐色の手から齎される熱から、
―――愛を浴びる。
「レナァ…ド、さまっ……私を、ドロドロに…、甘やかして……?」
窒息してしまいそうなほどの熱があまりに甘美で心地いい。
あまりの心地よさにライムグリーンの瞳を目印に視界がまたジワリと滲んだ。
「目を閉じて、…俺のアンナ」
まつ毛で空気を撫でるようにゆっくりと目を閉じると、フワリと唇に優しい感触が伝わった。
あったかくて、やわらかい。
だけどそれはすぐに離れていってしまった。
唇に名残惜しさを感じつつ、代わりに私をまるで羽交い締めするかのように逞しい腕が体に巻き付き温かい熱に覆われた。
程よく硬い胸元に顔を埋めると、額や頭に次々とキスが降ってくる。
それがとてもこそばゆくて、でも嬉しい。
頬の熱を感じながらも顔を上げてみた途端、――――ビクッと心臓が大きく跳ねた。
ドロリ……なんてものじゃない。
ドロドロをさらに煮詰めて煮詰めて煮詰めに煮詰めた何かを孕んだライムグリーンの瞳が妖光し、それはもうまっすぐに、まっすぐすぎるほどに私を射抜いていたのだ。
「レ、レナ…」
「あぁ…、アンナ、俺のアンナ。甘やかしてあげるよ。ドロッドロの、グッチャグチャの、ベットベトになるほどに、アンナを甘やかしてあげる。一生……ね」
……グッチャグチャのベットベトまでは言ってない……。
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