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29 それはまるで

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「え………っと、今なんと?」
「一番残酷な死に方はなんだと思うかを問うたんだ」
「ぅわぁ…」

絶対に聞き間違いだ、そうに違いないと思ったが私の耳は一言一句間違いなく聞いていたらしい。
そして私を見上げるレナード様の表情は今放った言葉が信じられないほど妖艶で恍惚だ。…何故だ。

確かにこれは脅しだ。まごうことなき脅しだ。
さすがは騎士様。脅しのレベルが違う。今まさに脅し返されている。しかも倍返しどころの騒ぎじゃない。
普通に恐い。

「えっ……と……」
「生温い答えであれば何度でも問う。さぁ、言ってくれ」
「ひえ…」

レナード様の意図などもちろんまったくわからず、コロッと形勢逆転して私が戸惑う番となった。


な、なんでそんな怖いことを聞くのだ。
たった今私から「愛を乞う」とこの人は宣ったはず。私を拒絶しようとしたけれど、でもやっぱり私を受け入れることを決めてくれたと思ったのに。それなのに……

――――ハッ!!もしやこれは『俺から逃げたらこうやってお前を殺してやる』という脅しなのでは!?…ハハッ、上等だ。絶対に逃げないって意思表示をしてやろうじゃないか。だから絶対にこれでは死にたくないって死に方を言ってやる。



「火炙りです!!!」




怯えた表情でいた私が急に元気よく火炙りなどと豪語したというのにレナード様の恍惚な表情は変わらない。……いや、変わらないどころかさらにドロリとしたものとなった。…何故だ。

「火炙り……なるほど、シンプルなものが一番つらいしな。素晴らしい答えだ」
「そ、そ、そうでしょう!火炙りはとってもつらいらしいですからね!」
「あぁ、火炙りであればさぞかしつらく死ねることだろう」
「えぇ!そうでしょうとも!水攻めと一瞬悩みましたがやはりここは火炙りのほうが残酷かと!」

一体私達は何を話しているのだろうか…。
数秒前の甘い雰囲気はどこに行ってしまったんだ。いや、でもレナード様の表情は先程と変わらない、むしろ先程よりも甘やかだ。…何故だ。

とにかく私はレナード様から離れたらそのくらいするつもりだぞ!という意志を言葉と瞳に宿しながら伝えた。
その決意が伝わったのか、レナード様が一層恍惚な表情を浮かべた。

「――――ではあなたが俺の元から離れたら、俺は躊躇いなく己の体に火を放とう」
「んんん?」
「俺を、残酷な方法で殺さないでくれるか?」
「レ、レナード様が火炙りになるの!?私じゃなくて!?」
「何故俺があなたを火で炙るんだ。考えたくもない」
「いや話の流れ的にどう考えても私を殺す発言でしたけど!?」
「ハハッ、俺があなたを害するはずがないよ。……俺の脅しは効いたか?」
「…っ、効いたも何も…」

こちとら離れるつもりなど毛頭ない。
何故互いに離れないよう脅し合っているのだ。

そんな怖いことを話しているのにジワジワと多幸感が体をかけ巡る。
鳩尾の少し上、胸の真ん中をジュクジュクとした何かが生まれ、自分を甘く締め付ける感覚。



嬉しくて、苦しい。
この苦しさが、嬉しい。


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