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 1番好きなものは③

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「あなたに話が…」
「―――レナード様の」

先に話をさせてなるものかと言葉を被せると、レナード様は不意をつかれたように驚いた顔を見せた。

「好きなものってなんですか?」
「…え?好きなもの?」
「はい。なんでもいいです。好きな食べ物とか好きな色とか好きな遊びとか、なんでもいいから教えてほしいです」

急な質問に鮮やかなライムグリーンの瞳が見事に戸惑っているのがわかる。だが、すぐに自分の言いたいことを一度飲み込んで私の質問に答えることにしたらしく、顎に手を当て考えるポーズをした。
考えるレナード様の顔には、この2日間眠れていなかったことがわかるほどのクマが確かにあるが、もう初めて会った頃のようなものではない。
体も眠れるようになってからは鍛え直しているから、初めから逞しかったがさらに体に厚みを持つようになっている。

―――私が、文字通り体を張って、彼を今のようにしたんだ。

そんな自負と浅ましくて図々しい自尊心を仄暗く感じた。



レナード様の話なんて見当がついている。
大方、ここを出て行くというような話なのだろう。

そんな話、絶対に先にさせてなんかやらない。



「好きなもの、というより好きなことになってしまうが料理は好きだな」
「レナード様が作るもの全部美味しいし見た目も綺麗ですもんね」
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

そう言って柔らかく笑んだ表情を見て、なんだか私も笑みが零れた。
私が今から言う言葉を聞いてもその笑みをしてくれるだろうかと思うと、ほんの僅かに胸が痛んだが止める気はない。

「あなたが好きなものはなんなんだ?」

案の定、優しいレナード様は話を続けてくれた。

「なんだと思いますか?」
「そうだな…。好きなものか……あ、好きな食べ物ならわかるかもしれない。少々烏滸がましいかもしれないが今日食べたバターライスのオムライスじゃないか?」
「当たりです。レナード様が作ったバターライスのオムライスが食べ物の中でダントツ1番好きです!――――でも、それは食べ物の中で、ってことで全部を合わせて1番好きなものじゃないです」
「じゃああなたの1番好きなものはなんなんだ?」
「レナード様です」


間髪入れずに答えた。
まっすぐに目を見て。見開かれたライムグリーンの瞳を、まっすぐに。


私にきちんと告白されて、もっともっと困ればいい。




「私、レナード様のことが世界で1番、大好きです」




散々翻弄されてきて、そしてそのことを覚えていないばかりか、私を好きになってくれないレナード様に少しだけでも“私”を残してやろうと足掻くことにした。






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