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戻れないよ④
しおりを挟む「それを第三者として見るもどかしさったらないわ!それが楽しくもあるけど焦らされすぎるとイライラしてしまうの!スズ先生はその辺の塩梅がとてもうまくていらっしゃるわ!」
「確かに!ジレジレするけどそこまで引っ張りませんよね!」
「今はスズ先生の話ではなくてアンナさんの話をしているのよ!話をそらさないで!」
「えええぇぇ」
スズ先生の話をしだしたのソフィー様なのに!
「きっと相手はこう思っているんだろう。きっと相手はあの人が好きなんだろう。自分が傍にいたらきっと相手を不幸にしてしまう。だから自分は身を引こう。―――しゃらくせぇわ!!まず気持ちを言えよ!何勝手に振られたって思ってんの!どう考えたって相手はお前のこと好きでしょうが!!―――ってわたし思うんです」
「ぉ、おぉ…」
「つまり、相手にハッキリ言われたわけでもないのに尻込みするなと言いたいのです」
「でも一緒にいたらつらいっていうのはハッキリ言われましたよ…?本人にも確認したし…」
「可愛すぎてつらいってことかもしれないでしょ」
「えええぇぇぇぇ」
「ソフィー、そのくらいになさい」
張り上げた声ではないのにその場を制するような声が背後から聞こえた。
声の主はもちろんシャーリー様だ。
「体はどう?怠さや眠気は?」
「腹立つくらいありませんわ。あるのはあいつへの殺意とアンナさんへの苛立ちくらいです」
「うん、元気そうでよかったわ」
苛立たせてすみません…。
というかほんとにソフィー様は寝起きと思えないほどに元気だな。いや良いことなんだけど。
「まぁ積もる話や犬のしつけの話は夕食のときにでもしましょう。それよりもアンナちゃん」
「は、はい!」
「ゴールディング様は帰られたわ」
「え」
正直言ってレナード様は何しにここに来たんだ状態だったと思うのだが、目的がなくなったのだから長居する必要は確かにない。
でも帰ったというのは、どこに……。
私の家にいてくれたということは、またあの家に帰ってくれたのだろうか。
「アンナちゃんはどうする?このままずっとうちに置くことはできないわよ」
「もちろん、ずっとお世話になるつもりはありません!……と言っても既に数日お世話してもらったんですけど。でも、仕事もあるしちゃんと帰ります…」
あの家に。
たった1ヶ月でレナード様との思い出しかなくなったあの家に、私は帰る。
レナード様の思い出がつまった、レナード様がいなくなってしまう、レナード様がいない、あの家に……――――
「ぶつけてきなさい」
淑やかにそう言ったのはシャーリー様だった。
「ゴールディング様に頭の中のグチャグチャも、なんならアンナちゃんのその豊満な胸も、ついでに唇だってぶつければいいのよ」
「…え?」
「嫌だったんでしょ?ソフィーとゴールディング様がキスをすることが」
「っ、…はい」
あのとき駄犬さんが動いてくれたし、その後の行動も衝撃的だったからいろいろ呆気に取られていたけれどレナード様に抱きついてその動きを制したときのことを思い出す。
筋肉に覆われていて硬くて、いい匂いがして、すごく温かかった。
…もしかしたら、あれがレナード様との最後の触れ合いとなってしまうかもしれない。
そう思うとまた胸が本当に痛くなった。
「とても、嫌でした…。ソフィー様がとかじゃありません。誰であろうと嫌です…!レナード様を……誰にも、とられたくありません!」
――――……私はもう、知ってしまった。
眠れずに真っ黒なクマを持っているのにそれを治せない私を気遣う優しさを。
屈強な体に妙に似合う茶色いエプロン姿で言われる「おはよう」を。
味も香りも最高だけど下手なペンギンの絵が描かれたカフェラテを。
作ってくれた食事にありつく私を見つめるライムグリーンの瞳の輝きを。
ソファに並んで座って互いに雑誌と新聞を読んでいるときに感じる安心感を。
私の髪を梳いてくれるときに感じるあの手の大きさと優しさと温かさを。
誰かと一緒に眠る、あの泣いてしまいそうな幸福の熱を、私はもう知ってしまったのだ。
レナード様…。
私はもう戻れないんだよ。
レナード様が私を好きじゃないことの悲しさと切なさを知っても尚、私は何にも知らなかったときに戻りたいとさえ思えないほどに。
あなたと出会う前の、あなたを知らない私にはもう戻れないよ…。
「……アンナさん」
私を呼びかけたソフィー様の声に、慰めや鼓舞といった感情はまったくなかった。
あるのは強い女性の、強い声。
私を見つめるレモン色の瞳は、その声と同じように強いものだった。
「わたしも、あまり人に言えるほど恋愛経験はありませんが今のアンナさんにこれ以上適したアドバイスはないかと思いますのでご助言させていただきますわ」
「は、はい…」
「要はつまり、アンナさんは……」
「わ、私は……!?」
「――――ヤンデレになればいいのです!」
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