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戻れないよ③
しおりを挟む湯浴みをした後、説明を聞いたソフィー様が軽食をつまみながら「なるほどねぇ…」と息を吐いた。
広い寝室の窓際にあるテーブルセットで私も一緒にお茶を共にしている。
事前にシャーリー様から話を聞いていたキーラさんの説明は淀みなかった。キーラさんもソフィー様が持っているという「不思議な力」を知っているそうなのだが、それについてはうまいこと隠して話している。
ついでに私がここにいるのはレナード様に振られて家出してきたからだということもさらりと伝えられてしまった。
「だからゴールディング様がいたということなのね…。アンナさんがいたことにも驚いたけどあの方がいたことにも驚いたわ…アンナさんがあの方に抱きついていたこともね」
「あ、あれは……。あの、ごめんなさい…。ソフィー様もレナード様のこと、す、好きなのに……」
そう自分で言って顔が歪んでしまった。
人の気持ちに口出しすることなどできないし、私にそんな資格あるわけないのに。
そんな浅ましい独占欲が顔に出てしまうことを止められない。
「好き?」
だが私の思いとは裏腹に、ソフィー様が驚いた声をあげた。
「わたし、ゴールディング様のこと別に好きじゃないですけど…」
「えっ!?だって夢だけでも会いたいって…」
「そりゃあ素敵な方だとは思ってますけどまともに話もしたことない方を好きになるほど脳内お花畑女じゃないわ。あの方を良いと思ったのは筋肉がすごいからってだけよ」
「脳内お花畑女…」
どうしよう。どんどんソフィー様の印象が変わっていく。どんどん好きになっていく。
なんだか佇まいがシャーリー様に似ている。さすが親子。
「だからアンナさん、安心なさって?わたしはゴールディング様の体しか見ていませんから。筋肉目当てですから」
「筋肉目当て…」
「でもわからないわ。こんなかわいらしいアンナさんを本当にゴールディング様は振ってしまったの?何様なのかしら。確かに騎士様という素晴らしい職に就いておられるし、顔だってとってもいいわ。体なんて素晴らしすぎて頬擦りしてヨシヨシバブバブしてあげたくなるほどの御方ですけど」
「ヨシヨシバブバブ…」
自分の性癖を隠そうともしておらずもはや清々しい。
「気持ちをあの方にお伝えしたのですか?」
「きちんと伝えは……してないんですけど、でもレナード様が私を好きじゃないっていうのはほんとです」
「それ、ちゃんとご本人から聞いたのですか?“アンナさんを好きじゃない”と」
「それは、違いますけど…」
なんだか私の恋愛相談タイムになってきてしまった。
外でレナード様やシャーリー様が待っているというのに。
いやむしろ尋問されているような気持ちとなってきて、身を縮こませていると「ハア」とこれ見よがしに大きなため息をソフィー様が吐いた。
「アンナさんは本当にスズ先生の御本を熟読玩味なさっているの?」
「じゅ、熟読玩味…」
「―――ねぇアンナさん。恋愛小説におけるヒロインとヒーローの特質ってお分かりですか?」
「え?」
何故急にそんな話を…?
だがここで変に茶々をいれないほうがいいと判断し「わかりません」と訴えると「…本当に鈍感ヒロインだわ」と妖艶に呟いた。
そしてルームワンピースをひらりと揺らしながら勢いよく立ちあがり、勇ましい表情で私を見下ろしながらソフィー様が言った。
「―――ヒロイン達は人の話も聞かなければ自分の話もせずに勝手に思い込んで勝手に落ち込むのよ!!」
た、確かに…!!
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