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24 ダメだあああああ!!!!
しおりを挟む――――コンコン
「奥様。レナード・ゴールディング様がお見えになりました」
「っ!」
「お通ししてちょうだい」
こんなに早く来たということはレナード様はうちにいてくれたのだろうか。安堵のような思いと同時に一気に体が強張った。
逃げないと決めたのに手汗で濡れている拳を見つめるようにあからさまに俯くと、扉が開いた音が微かに聞こえた。
「レナード・ゴールディング様ですね?急にお呼びたてして申し訳ないわ」
「それは構いません。ですがベルテン夫人、自分は何も詳細を聞かされていないのですが…」
「それなのに来てくださってありがとうございます。人づてでなく直接お話したかったの。アンナちゃんの横に座ってくださる?」
「っ、…えぇ」
どんどん近づいてきて私のすぐそばで止まった。
何を言えばいいかわからず俯いたままでいると、頭上から「ハアァァ…」と大きく息を吐く声が聞こえた。
呆れられている……―――
そう思って胸がグシャッと潰れるような思いになった。
子供じみたようなキレ方をして唇を奪って家出した私の事を呆れて、文句を言うために家に残っていたのだろうか。
すぐ隣にレナード様が立っている気配がするのに、お互い動かず声も発しない。
レナード様の顔を見ることが怖かった。
これじゃあ逃げているのと一緒じゃないか。
そう思うのにやはり顔が上がらない。
「てん………っ」
レナード様が声を発し、それをせき止めた。
この気まずい空気をどうすればいいかわからないでいると、パンパンと手を叩く音が聞こえその音がするほうへ僅かに顔を上げた。
「アンナちゃん、ゴールディング様。今はすべきことがあるからまずはこちらに意識を向けてくださいね」
「は、はい…!すみません!」
「ゴールディング様、お話するから座ってくださる?」
「わかりました…」
この空間の主軸を担っているのは間違いなくシャーリー様だ。
それに従うようにレナード様が私の隣に静かに腰掛け、その僅かに沈んだソファの感触だけでドキッとしてしまった。
シャーリー様がソフィー様の事情や私から聞いた話をうまくまとめてレナード様に話をしてくれた。
2人の過眠と不眠を治すべく、レナード様に足を運んでもらったことを伝えると、レナード様が「…大体わかりました」と落ち着いた声で言った。
「それで、その治療とは一体どのようなことなのでしょうか?俺は何をすれば?」
「ここは昔ながらのありきたりなことを試してみようと思うのよ」
「?」
きっと隣り合う私とレナード様は同じような顔をしているのだろう。
そんな私達をニタリとした笑みで見るシャーリー様は、結構な非常事態であるというのに楽しそうだ。
「ゴールディング様」
「はい」
「――――娘にキスをしてくれるかしら?」
「え?キ、キス…?」
そう口にしたのは私だった。
「えぇ。ほら、よくあるでしょ?お姫様を目覚めさせるのは王子様のキスってね♡」
「で、で、でも、ソフィー様に黙って…」
「だって寝てるんだから許可なんてとれないでしょ?でも好きな男性からのキスなら喜ぶだろうからやっちゃって」
「やっちゃってって…」
軽い、軽すぎるぞシャーリー様。
「それにそんな方法で目覚めるでしょうか…?」
「おまじないなんて可愛いことをしてこうなったんだからロマンティックな方法であれば治るかもしれないでしょ?」
いやあなたさっきおまじないは呪いだって言ってたんですけど。可愛くないんですけど。
「じゃあソフィーが寝てる隣の部屋に行きましょうか」
「え?え?」
「ふ、夫人。令嬢の寝室に入るなど…」
「だってこっちの部屋来ないとキスできないでしょ。安心して。あたしもいるし侍女も護衛もいるから。さすがに2人っきりにはさせないわよ」
「そ、そうでなくて…」
なんとか言葉で抵抗しようとするレナード様のことを、シャーリー様が据わった目で見てきた。
「ゴールディング様。あなたは不眠のままでいいとお思いなの?」
「っ、いや、それは…」
「仮にあなたはそれでいいと言っても、ソフィーとあなたの夢が本当につながっているのならあの子に影響が出続けるのよ?このまま眠り続けて満足に食事もできずあの子を衰弱させるつもりで?」
その言葉でレナード様は完全に言葉を噤んでしまった。
私も言葉を挟むことなどできるはずもなく黙ったままでいると、満足気にシャーリー様が微笑んで綺麗な動きで立ち上がった。
「ではついていらっしゃい。2人共」
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