不眠騎士様、私の胸の中で(エッチな)悦い夢を【R18】

冬見 六花

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 善は急げ④

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ソフィー様の寝室と続き部屋となっている応接間へと案内され、強張る顔を隠すこともできないまま柔らかなソファに座っていた。
はす向かいにある1人掛けソファにはシャーリー様が座っていて優雅にお茶を飲んでいる。

すでに使いの人が行って30分ほどが経っている。
馬車で行ったというから私の家にレナード様がいたとしたらそろそろ戻ってきてもいい頃だ。

さっきから痛いくらいに強く鼓動が鳴っている。
こんなにも強く心臓が動いているというのに指先は冷たく、手のひらにジワリと汗が滲んでいる。


「アンナちゃん」


カップをソーサーに音もなく置いたシャーリー様がひどく落ち着いた様子で私を見据えていた。その表情に思わず背筋が伸びた。

「顔色が悪いわ。そんなにその男性と会うのが怖い?」
「……はい」

素直にそう言った。
だけど顔を合わせることはできず、折角伸ばした背筋を丸めて俯いた。

「じゃあ違うところで待ってる?」
「え?」
「だってアンナちゃんに立ち会ってもらう必要はないもの。件の騎士様と会うのが嫌なら部屋で待っていてもいいし、騎士様がここに居る間に帰ってもいいのよ?帰るなら騎士様にアンナちゃんの家には行かないよう伝えることだってしてあげるわ」
「でも、そんな逃げるみたいな……」
「逃げることは悪いことではないわ。逃げて逃げて逃げた先にしかない幸せだってあるわよ。逃げというより新たな道と言い換えることもできるしね」
「…っ」


シャーリー様から発せられる甘い誘惑のような言葉が頭の中で反芻する。


――――だけどそれをすぐに振り払った。


「いいえ、ここにいます。何もできないけれどここにいさせてください」
「いいのね?」
「…はい。逃げることが悪いことではないかもしれないけど、今逃げたら私はきっと後悔すると思うから……」

借り物のワンピースに皺ができてしまうことを申し訳なく思う余裕など今はなく、膝の上で強く裾を握った。
シャーリー様は私のその様子を見て楽しそうにニヤリと笑った。


「逃げることは悪いことではないけれど、逃げない子はあたし、大好きよ」


今の自分には言葉だけの肯定もありがたい。
強張った笑みをシャーリー様に向けると、緊張しすぎている私を揶揄うような笑みが返ってきた。




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