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22 観察癖

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この店に来ているのは護衛さんではなく侍女さんのほうだったという衝撃はアルコールと共にぼやけていき、私たちはアルコールの力もあって急速に親しくなった。

なんでも、ソフィー様の専属侍女であるキーラさんはソフィー様のことであまりにも憂えてしまって「これはもう酒の力でどうにかするしかない」と思ったらしい。
だが御屋敷の近くで泥酔するほど酔ってしまえばソフィー様に傷がついてしまう。そのため少し離れたこの場所に来ているのだそう。



「私はね、ただ美味しいお酒が飲みたいとか、楽しく酔いたいとか、そんな甘ったるい考えで飲んでるんじゃないんですよ。――――ただアルコールを摂取したい!それだけなんです!!!」
「わかる~」

ゲイバーの隅のカウンターで女が2人ショットグラスを片手に熱く語っているというのは異様とも言えよう。
だが気付けば日付を跨いでいるほど深い時間となっていた。
そんな私達のことを嫌そうな目で見てきたヴィクターが水が入ったグラスを乱暴に差し出してきた。

「おい酔っ払い共。もうさっさと帰れ」
「あっはは!ジェフさんったらひどいな~」
「帰れ」
「私家出中だもん…」
「帰れ」
「アンナさん家出ならうち来ます?」

キーラさんからの急な提案に実はさほど酔っていない頭が更に冴えた。
びっくりした顔を隠さずキーラさんに見せると楽しそうにケラケラと笑っている。どうやらキーラさんは結構酔っているらしい。

「いいんですか!?」
「いいですよいいですよ。アンナさんならお嬢様のお友達ってことで客室を用意しますよ。そうだ!そうしましょう!お友達が来たらお嬢様も喜ぶ!お嬢様が喜んだら私も喜ぶ!みんな幸せだぁー!やったぁー!」







……――――ってなことが一昨晩あって現在に至っている。



もちろん家に帰っておらず、レナード様にも会っていない。
友達の家にいるということは伝えたほうがいいかと思い、その旨を手紙に書いて使いの人に頼んで家のポストに投函してもらったから安否確認はしている。それを読んでくれているかは不明だけど…。



『彼女と一緒にいることが……どうしようもなく、つらいんだ…』


レナード様が漏らした言葉がずっと頭の中で響いている。その度にじくじくと、胸を炙るような痛みを感じてしまう。
それをごまかすように辺りに咲き誇る花に視線を移したが、大して効果はなかった。

「お嬢様もご一緒にティータイムを過ごせたらよかったのですが…」

ヴィクターの店で会ったときとは別人のように淑やかに紅茶を淹れてくれたキーラさんが落ち込んだように呟いた。

「ソフィー様はまだ…?」
「えぇ。まったくお目覚めにならないんです」

突如として転がりこんできた私のことなど眼中にないほど、お屋敷に住む人達は消沈してしまっている。
というのも私がここに来た日からソフィー様がほとんどずっと眠り続けてしまっているのだ。

今までも多すぎなくらい眠ってはいたのだが、とはいえ起きている時間もあったらしい。だが私と会っているときに眠ってしまって以降は時折微睡んでいるように起きて、すぐに眠ってしまうそうだ。
その少しの時間に果汁やゼリーなどを流し込むように口に入れているが、このまま眠り続けているのはとても危険だ。
この短い期間で多くの医師がお屋敷を訪れたが、皆打つ手がなく帰っていってしまった。

そんな中悠長にお茶を飲んでいていいのかという疑問が浮かぶのだが、こちらが落ち込んでようが騒いでようがソフィー様にとっては関係のないことだから好きに過ごしなさいとソフィー様のお母様がキーラさんに言い渡したらしい。

そのため私はこうして傍から見たら悠々と、だけど居心地悪くティータイムを過ごしている。





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