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もっと足掻けよ ‐レナードside‐②
しおりを挟む「言っとくけどジャンがチクったわけじゃねぇぞ。俺がそうだろうなって思っただけだから」
「…なんで」
「だってお前ずっと言ってただろ。リィタに会っても俺は一緒にならないって。そんでジャンがさっき慌ててお前が仕事辞めるとかこの街出ていくとか騒いでたから。こんなん誰だって予想つくだろ」
「…」
「どうせ俺はヤカグの男だから~とか、俺はアンナを幸せにできない~とか、んなくだらねぇこと考えてんだろ。アンナが俺のダチんとこいるってだけでそんなぶちぎれてんのによ」
「…っ、お前はヤカグの男を知らないから、そんな悠長なことが言えるんだ」
「知ってるわけねぇだろ。俺ヤカグ人じゃねぇもん」
ディランのまっすぐすぎる言葉をいつもは清々しいと思っているのに、今は神経を逆撫でされているようでとても不快だった。
「お前がいなくなった後のアンナのこと、想像してみろよ。お前のことなんて綺麗さっぱり忘れて男作って結婚するアンナを。お前結婚するってことは何するか知ってんのか?男にあいつの体触られ…」
「――――やめてくれっ!!!」
「こんなことで腹立ててんならお前はとっくに手遅れなんだよ」
「っ」
自分でもわかっていることを、いざこうして強く指摘されるとどうしてこんなにも苛立ってしまうのだろう。
そしてどうしてこんなにも情けなさに拍車がかかるのだろう。
彼女を探しに行きたいと思う気持ちは変わらないけれど、会ったところで何を話せばいいのかわからないのも事実だ。
その不甲斐なさが皮肉にも外に飛び出さない理性を保ってくれている。
「お前さ、ちょっとアンナを甘く見てんじゃねぇの?」
「……は?」
「アンナは誰かに幸せにしてもらいたいなんか思ってねぇよ。むしろ逆だ。だからお前がアンナの幸不幸を勝手に決めんなよ。図々しい奴だな」
「…っ、その図々しい奴をここに住まわせたのはディランだろ!俺は……、俺は一目見たときにはわからなかった!お前がここに連れてきた日、あのまま帰っていれば、別れていれば……一緒に住まなければ、彼女のことをリィタだなんて思わなかった……!ヤカグの血を感じないまま生きていけたんだ!」
「じゃあお前はアンナと出会いたくなかったって言うのかよ」
「ちがっ………そういうことじゃ……」
彼女と、出会いたかったし、出会いたくなかった。
リィタとは出会いたくなかった。
でも、彼女に出会いたくなかったなんて絶対に思わない。
でも、ずっと怖かった。
彼女の笑顔を見つめる幸福を味わってすぐ、この笑顔をいつか自分が壊したらと思って怖くなった。
幸福と恐怖が入り混じる毎日だった。
ずっとこうしていられたら、
彼女も俺をずっと好きでいてくれたら、
そんな都合が良すぎる考えが頭をよぎると、すぐに母の言葉が聞こえてくる。
『悍ましい執着心を内に持つお前を愛する者なんて、この世に1人だっていやしない』―――…と。
「め、めんどくせぇ~………」
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