56 / 122
もっと足掻けよ ‐レナードside‐②
しおりを挟む「言っとくけどジャンがチクったわけじゃねぇぞ。俺がそうだろうなって思っただけだから」
「…なんで」
「だってお前ずっと言ってただろ。リィタに会っても俺は一緒にならないって。そんでジャンがさっき慌ててお前が仕事辞めるとかこの街出ていくとか騒いでたから。こんなん誰だって予想つくだろ」
「…」
「どうせ俺はヤカグの男だから~とか、俺はアンナを幸せにできない~とか、んなくだらねぇこと考えてんだろ。アンナが俺のダチんとこいるってだけでそんなぶちぎれてんのによ」
「…っ、お前はヤカグの男を知らないから、そんな悠長なことが言えるんだ」
「知ってるわけねぇだろ。俺ヤカグ人じゃねぇもん」
ディランのまっすぐすぎる言葉をいつもは清々しいと思っているのに、今は神経を逆撫でされているようでとても不快だった。
「お前がいなくなった後のアンナのこと、想像してみろよ。お前のことなんて綺麗さっぱり忘れて男作って結婚するアンナを。お前結婚するってことは何するか知ってんのか?男にあいつの体触られ…」
「――――やめてくれっ!!!」
「こんなことで腹立ててんならお前はとっくに手遅れなんだよ」
「っ」
自分でもわかっていることを、いざこうして強く指摘されるとどうしてこんなにも苛立ってしまうのだろう。
そしてどうしてこんなにも情けなさに拍車がかかるのだろう。
彼女を探しに行きたいと思う気持ちは変わらないけれど、会ったところで何を話せばいいのかわからないのも事実だ。
その不甲斐なさが皮肉にも外に飛び出さない理性を保ってくれている。
「お前さ、ちょっとアンナを甘く見てんじゃねぇの?」
「……は?」
「アンナは誰かに幸せにしてもらいたいなんか思ってねぇよ。むしろ逆だ。だからお前がアンナの幸不幸を勝手に決めんなよ。図々しい奴だな」
「…っ、その図々しい奴をここに住まわせたのはディランだろ!俺は……、俺は一目見たときにはわからなかった!お前がここに連れてきた日、あのまま帰っていれば、別れていれば……一緒に住まなければ、彼女のことをリィタだなんて思わなかった……!ヤカグの血を感じないまま生きていけたんだ!」
「じゃあお前はアンナと出会いたくなかったって言うのかよ」
「ちがっ………そういうことじゃ……」
彼女と、出会いたかったし、出会いたくなかった。
リィタとは出会いたくなかった。
でも、彼女に出会いたくなかったなんて絶対に思わない。
でも、ずっと怖かった。
彼女の笑顔を見つめる幸福を味わってすぐ、この笑顔をいつか自分が壊したらと思って怖くなった。
幸福と恐怖が入り混じる毎日だった。
ずっとこうしていられたら、
彼女も俺をずっと好きでいてくれたら、
そんな都合が良すぎる考えが頭をよぎると、すぐに母の言葉が聞こえてくる。
『悍ましい執着心を内に持つお前を愛する者なんて、この世に1人だっていやしない』―――…と。
「め、めんどくせぇ~………」
0
お気に入りに追加
1,177
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる