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逃げないとダメなんだよ ‐レナードside‐②
しおりを挟むある日。
普段は工房に籠っている彼女から、今日は外出するから昼はいらないと言われた。
可愛いの権化である彼女が1人で外を歩くだなんてあまりに危険なのに送り迎えをかたくなに断られ、結局弁当だけを了承してくれた。
仕方ない。送っていくのは後ろからこっそりと行うことにしよう。迎えも食材の買い物帰りとでも言って合流すればいい。
彼女が出かけてすぐに後を尾けると、華奢な彼女が人込みの中を慣れていない様子で歩くことに何度も手を差しのべたくなった。どうにかその思いを抑えつけながら無事に目的地に着いたのを見届け散歩をしてから家に帰ることにした。
久々に来た中心街をなんとなしに歩いていると巡回中の騎士が目に留まった。
あと少しで自分も仕事に復帰する。
体の鈍りはあるが今の体調であれば問題なく業務はできるだろう。だがそう長くは持たないだろうと他人事のように思った。
彼女と離れたら俺はまた不眠となり、そして転がるように狂っていく。
リィタを失ったら例外なくヤカグの男は狂ってしまう。大方そうなる前に自死を選ぶけれど。
時を空けずにリィタのことを考え、今はどこにいるのか、何故自分の隣にいないのかと考え続け、正常な判断ができなくなり何にも手につかなくなる。
そしてそのまま衰弱して死ぬか、発狂しながら自傷して死ぬか。そのどちらかだ。
不眠はいい。
だが狂う前に仕事を辞めなくては。
復帰をしたらすぐに引き継ぎを済ませよう。休職しているから引継ぎ自体いらないかもしれない。それならすぐに騎士を辞めて遠く離れた人がいない場所へ行こう。そうして誰にも知られず、静かに狂って静かに死のう。
彼女がリィタだと気づき、この期限付きの生活を続けると決めたときから自分の未来を覚悟した。
それでもいいと瞬時に思った。
自分が狂って死んだとしても、それでも彼女とほんのわずかな時間を過ごしたいとそう思った。
彼女は何も知らなくていい。
俺のことを忘れて、これからも幸せに暮らせばいい。
あの可愛い笑みのまま、ずっと幸せに生きていけばいい。
そんな彼女の隣には、きっと誰かが……――――
「―――っ゛」
胸を抉りたくなるような苛立ちを感じて、逃げるようにその場を去った。
家に帰った途端、店側の呼び鈴が鳴った。
店の手伝いとして来客対応をしているため扉を開けるとそこにいたのは同じヤカグ出身のジャンだった。
「ジャン、何故ここに?」
「ディランからお前がここに住んでるって教わったんだ。ほら、言ったでしょ?復帰する際に必要な書類を持っていくって。ビックリしたよ。ディランの妹さんと住んでるなんてさ。もしかして公園で一緒にいた人?」
「あぁ…」
「そっかそっか。とりあえず書類これな。僕に話があるって言ってたけど今は平気?別の日にする?」
「いや、今でいい」
彼女を迎えに行くまで時間がある。
玄関先で話すのもどうかと思ったが、家主の彼女の許可なしに客を招くことに気が引けた。
なにより彼女と2人で暮らすこの家に男を入れたくない気持ちが働いた。それをジャンは察したらしく外で話そうと提案してくれたため、庭に面した広場へ移動した。
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