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だから今、このときだけは ‐レナードside‐②
しおりを挟む「アンナー!いるんだろー?超絶かっこいいお兄様が来たぞー!」
こいつ妹の前でもこんな態度なのか、と思っているとめんどくさそうな声をあげながら女性が中から出てきた。
―――ディランとはあまり似ていないな。
というのが第一印象だった。
赤みがかったシルバーの髪を持つディランとは対照的に青みがかったアイスシルバーの長い髪が適当にまとめられている。
藍色の瞳はディランと同じだがディランはややつり目で、彼女はややたれ気味。だからなのか表情に柔らかさを醸しだしている。
「レナード、どうだ?」
確かに美人だ。というより可愛らしいという表現が正しいだろう。
だがそれだけだった。
体の奥から何かが湧き上がるような衝動的なものはなく、もちろん彼女を拐かしたいと思うこともない。
今まで出会ってきた女性と同じ。
「あ、あぁ。問題ない」
――――彼女はリィタじゃない。
そのことに心の底から安堵した。
友人から妹を引き離すような真似を自分がしでかさなくてよかった。
女性と会うとき、いつもこの恐怖を味わい、この安堵を味わう。
一体いつまでこの恐怖を味わい続ければいいのだろう。
少し前に行われたの令嬢達のお茶会の警備の際も、極力女性を見ないようにしていた。
もしかしたら自分のリィタがいるかもしれない…。
期待などまったくなく、いつ自分が自我を失った獣となってしまうかをただ怯える。―――それならいっそのことリィタと出会ってしまえば……そう思って思考が止まる。
出会いたくない。だけど、いっそのこと出会ってしまいたい。
怖い。
まだ見ぬ、もしかしたら一生会うことはないかもしれない自分のリィタが怖い。
自分のこんな弱い部分が、無意識に眠りを妨げているのだろうか。
そう思って自分の情けなさにまた密かに落ち込んだ。
ディランの突拍子もない発言から始まった同居生活だったが、とても楽しいものだった。
彼女は確かにだらしないというか仕事以外色々無頓着で下手すれば食事もしない。
ヤカグの男は元来リィタに尽くすため、人の世話を焼くことも家事をすることは苦に思わない。だからなのか俺自身も彼女の世話をすることが楽しかった。
特に料理は毎回美味そうに食してくれることに快感にも似た喜びを感じていた。
彼女は初日の夜で魘されていた俺の様子を見たからか、心を砕きあれこれと策を講じてくれた。だが状況は一向に良くならなかった。
眠れないことは確かに困るけれど、以前のような鬱々とした気持ちはこの生活が始まって早々に消えていた。
治療が失敗し、各々の部屋へと戻って真夜中1人ベッドに横になりながら朝日を楽しみに待っていた。
明日の朝食は何を作ろう。昼は、夜は、何を作ろう。何を作ったら彼女は喜んでくれるだろう。―――そう思うことがとても楽しかった。
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