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17 だから今、このときだけは ‐レナードside‐
しおりを挟む自分の唯一の武器である頑強さを活かせる騎士となるため故郷を捨て、居を移して十数年。
気の置けない友人に囲まれて、やりがいのある仕事をしながら平和に暮らしていた。
ただただ粛々と、仕事をする日々。
どこかなにかが満たされない。だけど不満を覚えるわけでもない。
だがある日突然、本当に突然、深刻な不眠症となってしまった。
「レナード、お前顔色やばくね?」
声をかけてきたのは同期で親しくしているディラン。騎士として腕が立つ男だが突拍子もないところがある。
「どうしてか最近眠れないんだ。眠っても夢見が悪いのかすぐ起きてしまう」
「え、じゃあここ最近お前がバカみてぇに夜中も仕事してたのって眠れねぇから?」
「眠れないで鬱々としているよりも何かしていたほうが気が紛れるからな」
眠れないまま何もせず朝を待つよりも仕事をしていたほうが早く朝が来る。
今や他の者の仕事を奪っているほどだ。
「お前が仕事しすぎで苦情がきたから俺からガツンと言ってやろうと思ったんだけど、そんなんなってたとはなぁ」
「医者にも診てもらったんだが原因がわからなくてな…」
処方してもらった様々な種類の睡眠薬はもらったがどれもダメだった。
そもそも正確に言うと眠れないのではなくて夢見が最悪なのだ。だがその夢がわからない。起きたら綺麗さっぱり忘れてしまっている。
「なるほどなー。よし!俺が一肌脱いでやろう!文字通り脱いでもいいぞ!俺の筋肉美をとくと見るがいい!なに、親友の頼みとあらば礼なんていらねぇよ!俺と嫁の惚気を聞いてくれるだけでいい!とりあえず休職届出してこい!」
「ツッコミが追いつかない」
半ば強制的に休職届を出すと、俺が仕事を奪いすぎて新人が仕事を覚えないことに困っていたらしくそれが瞬時に受理されてしまった。
そうして家で退屈な日々を過ごすこととなり、体と頭を動かさないからなのか益々不眠は加速していった。
休暇を取り始めて数日。
身重な奥方の様子を見た帰りに職場の近くに住む俺の様子を見にきたディランが、俺の目の下にあるクマを見た途端、うんうん、と頷いた。
「よし!俺はもうできることねぇわ!」
「お前…、俺に任せろとか豪語したくせにやったの休職届出しただけじゃないか…」
「十分だろ?俺が出さなかったら誰が出すんだよ。それより出かける準備しろ。今から俺の妹んとこにお前を連れてくから」
「は?」
「アンナは俺に似て美人だからチェリーなお前が惚れるかもしれねぇぞ!つってもあいつ中身はクッソだらしねぇけどな!ハッハッハッ!」
「ディランの妹って睡眠屋を営んでいるっていう…?」
俺は見たことがないが、騎士の間でディランの妹は美人だと評判なことは知っている。
それにディラン自身がよく妹と奥方の自慢をしているから周囲でディランに妹がいることを知らない者などいない。
だが何故そのディランの妹に今から会いに行くとなったんだ。
とはいえこいつに問いただしてもまともな答えが返ってこないことを長年の付き合いで十分わかっていた。
「アンナならどうにかしてくれると思うからよ。それに俺、いいことを思いついたんだ!」
「お前、俺が女性と近づかないようにしているわかっているだろ。その事情も…」
「あぁ!なんだっけ?リィタってやつだろ?すげぇよな!ヤカグの男は全員一目見たときから死ぬまでずっと一途なんてよ!」
“一途”と言えば聞こえはいい。
だけどそんなものじゃない。そんなお綺麗なものじゃない。
あの執着心を、俺もうちに秘めているかもしれないと思うと吐き気すら催す。
「何についてひよってんのか大体わかっけどまぁ安心しろ。だから俺が同伴すんだよ。お前がアンナを襲おうとしたら俺が止めてやっからよ。さすがに寛大な俺も妹とお前がヤッてるとこなんか見たかねぇしな!」
「そんなことするか!変なこと考えるなよ!」
「いや別にヤるなって言ってるわけじゃねぇよ?でもさすがに俺の目の前ではなぁ」
「だからしないって言ってるだろ!」
「まぁまぁまぁまぁ。とりあえずアンナがお前のリィタってやつでも俺は構わないってことよ。あいつ男っ気ゼロだからむしろお前が無理矢理にでも嫁にもらってくれたら兄貴としては喜ばしいことだ!」
「そんなお気楽なものじゃないんだ……!」
「むしろお前はもっとお気楽に考えろよ。ジャンだってヤカグの人間で嫁さんいっけど別におかしいって俺は思ってねぇけど。嫁が好きすぎて他の男に見せたくないなんて普通だろ。まあ俺はロザリーを自慢しまくりたいけどな!!!」
気楽に、など考えられるはずがない。
忘れることなどできない棺の中で寄り添う両親の姿が脳裏に浮かんだ。
あんな禍々しさすら感じる想いを、ディランのように喜々として思えない。……こんなふうに思う俺自身がおかしいのだろうか。
睡眠不足のせいなのかいつもより思考が暗くなりやすい。
そんな自分が嫌になってもっと暗くなっていくように感じた。
「一目惚れなんて別に普通じゃね?そっからめっちゃ好きになっても別にいいだろ。だって何を隠そうこの俺こそ嫁に一目惚れしたからな!!ドン引かれるくらい押しまくって結婚したからな!!しかも妹の友達だからな!!!」
「でも、それとこれとは…」
「んなビビんなよ。お前ってほんと地元コンプレックスつえーよな。あ!俺が急に行くとアンナのやつめっちゃ怒るからお前が俺に相談して急遽家に行くことにしたって言ってくれな!あいつイマイチ俺のこと下に見てっから兄が頼られてるってとこを見せてぇんだ!よっし!じゃあ行くぞ!」
「せめて着替えさせてくれ!」
ディランが言い出したら聞かないのは長い付き合いでわかっている。
それにここまで過ごしてきてリィタに出会わないのならもう一生会わないか、そもそもヤカグの血が薄い自分にはリィタなどいないのだろうと思い始めていたこともあって、件の睡眠屋にディランと共に赴くことにした。
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