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どうしようもなく、つらい④
しおりを挟む中に何をいれたかなんてわからないバッグを乱暴に持ち上げ、勢いよく扉を開けた。扉がレナード様にぶつかってもいいと思って開けたのに彼はきれいにそれを避けたらしく、その器用さをかっこいいと思いながらもまた苛立ちが増す。
「ま、待ってくれ、なんだその荷物は…」
「家出します!」
「家出って……待ってくれ!落ち着いて話を…」
「レナード様の話なんか聞きたくない!」
必死に説得しようとするレナード様は、私を物理的に止めようとしない。
引きこもりな私がレナード様のような屈強な男性に引き止められればすぐに動けなくなるというのに。
――――…夜は私を優しくも強く押さえつけて、甘美な快感を与えているくせに………。
怒りと、怒りに近い悔しさが綯い交ぜとなってさらに泣きそうになる。
それを悟られたくなくて玄関へと進む足をより速くさせた。
「っ、ま、待ってくれっ!!それなら俺が出て行くから!!」
「――――…っ」
「ここは君の家で、俺は居候だから、……だから」
「…居候?」
玄関の前まで来てピタリと足を止めた。
レナード様は私の後ろにぴったりとくっついてきているくせに私の肩も腕も掴まない。
もう苛立ちすぎて何に腹を立てているのかさえわからない。
レナード様の一言一句に腹を立てている気がする。
怒りとはこんなにも涙腺を緩ませるものなのか…。泣いてしまうしかできない自分にさらに苛立った。
「居候……って、なに」
「え?」
「レナード様は、ずっと……今の今まで、自分の事、居候って……そう思ってたの?」
「だって実際に……そう、だから……」
困惑しきった声に舌打ちしそうな思いになって勢いよく振り返った。
すぐそこにいたレナード様の表情はやはり困惑していて、何故だかその表情を見て涙がまた溢れた。
「私はレナード様を居候なんてまるで厄介者みたいに思ったこと、1回だってない!!」
叫んだ自分の声が震えていた。
「ずっとレナード様と一緒にいて楽しかったのに!!嫌だって思ったことだって、つらいって思ったことだって一度だってない!むしろ私がいっぱいいっぱいお世話してもらって、甘えてばっかで……。そりゃあ初めは無理って思ったし、治療のことだって恥ずかしくて戸惑ったし、というより今も戸惑いまくってるけど………でもこの生活が楽しいって思ってたのに………」
「………っ」
「レナード様がもうすぐ出て行っちゃうこと、寂しいな…って、思ってたのに……」
目が合ったのはほんの数秒。
あとは声と共に目線も落ちていった。
だけどそれはレナード様も同じだった。
「でもレナード様は違ったんですね……私といることが、嫌だったんですね…」
「ち、違うっ!嫌なんて、そういうわけでなくて…」
「じゃあ、さっき私と一緒にいるのがつらいって言っていたのは私の聞き間違いなの…?」
「そ、れは………っ」
言い淀む、というのはときに肯定なのだと痛いほどに実感する。
色んな暗い色のクレヨンを一気に持ってグチャグチャに描き殴っているような、そんな思いが胸の奥に苦く広がっていく。
例えばこれが恋愛小説だったなら、たまたま都合が悪いところを聞いてしまっただけで本当はすごく嬉しいことを言ってくれていたりする。
だけど、私は今確かに聞いた。
『私と一緒にいることがつらいのか』と。
そしてレナード様は言い淀み、なによりその表情が私の問いを肯定していた。
…すれ違いでも、誤解でもない。
言葉そのままに、レナード様は私といて「つらい」んだ。
――――でもレナード様を責める資格なんて私にはない。
何の関係でもない2人が同居して、1人がその生活に不満を感じ友人に愚痴ることの何が悪い。
たくさんたくさん甘えてきた私が、いったいどうして彼をここまで詰る資格があるというのだろうか。
でも自分があまりに憐れで、情けなくて、惨めで、嗤えてくる。
「――――っ!?」
次の瞬間、驚いたのはレナード様のほう。
断固として私に触れてくれない太い腕を掴んで強く引き寄せ、いつも私の唇や体を貪るその唇に噛みつくようなキスをした。
「っな!?」
余韻すら味わわせずに顔を離し、困惑しきった顔を睨むように見上げた。
「嫌いな女からのキスでせいぜい困りまくれ!このイケメンオカン色情魔!!」
そう吐き捨てて荷物を持って私は家を飛び出した。
家が見えなくなった頃、息を切らしながら振り返ったけれど、レナード様は追いかけてきてなどいなかった……――――
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