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14 ハートマークのダンベル
しおりを挟む思いがけない要望に呆然としてしまうと、ソフィー様が慌てて言葉を続けた。
「すみません、失礼なことを言っているのは重々承知なんです!でも、わたし……本当に困っておりまして」
ソフィー様が泣きそうな表情で顔を伏せ、それを見て後ろにいる侍女さんがつられて目頭を押さえた。
「ご説明いただいても…?」
「もちろんですわ。…実はわたし、ここ最近ほとんどずっと眠っておりましたの」
「え」
「起きている時間は1日2時間ほどであとはずっと眠っていました…」
「えっ!」
「以前は習い事が多くて睡眠時間がほとんどなくてたくさん眠りたいと切に願っていたんですが、こんなの望んでなんかいなくて…」
「そうですよね…」
「最近になってようやく外に出られるほどには起きられるようになったのですが、急に寝落ちしてしまうことも珍しくありません」
「えっ!?」
「あ、でもそうなったら後ろにいるキーラが諸々対応しますし、専属騎士が運んでくれますからお気になさらないでください」
「はあ…」
後ろにいる2人が紹介されながら軽く会釈をした。
騎士さんは護衛だけでなくソフィー様を運ぶ役割も兼ねていたのか…。
「あの、お医者様に診てもらいましたか?」
「えぇ、もちろん。ですが問題はありませんでした。心の病気を疑われましたが身に覚えもありません。もうどうすればいいのかわからなくて…。そんなときアンナさんのお話を聞きまして、わたしのような者を救ってくれるのではと思ったのです。このままずっと1日の半分以上を眠っているだなんて恐ろしくてたまらないのです…」
事前にもらったプロフィールでソフィー様が19歳だということは知っている。これからますます女盛りとなる彼女が眠ったまま時を過ごすのは確かにあまりに残酷だ。
どうにかしてあげたい……けど……
「ソフィー様、正直に申し上げますと私の力でその過眠をどうにかすることはできないと思います」
「っ」
正直すぎる私の言葉にソフィー様のレモン色の瞳に涙が薄く膜を張った。
「私はただの枕屋です。できることはその方に合った枕を作るくらいで、あとは何もできません」
「そう…ですよね。すみません、アンナさんに変な負担をかけてしまって…」
ハンカチで目元をおさえるソフィー様の姿を見て、胸が締め付けられ膝の上に置く手に力がこもった。
睡眠で悩んでいる人は割と多い。だけどそのほとんどが不眠で悩むばかりで、過眠で悩んでいる人と会うのは初めてだし、況してや「眠りすぎない枕」のオーダーだって初めてだ。
何か力になれればいいんだけどな……。
そう思いながらハンカチで目頭を押さえるソフィー様を窺うように見たとき、――――そのハンカチを見て、私は目を見開いたまま固まってしまった。
「差し出がましいことを言って申し訳ございませんでした…」
「ダンベル……」
ハンカチの隅に描かれている両端の鉄アレイの部分が可愛らしいピンクのハートになっているダンベルの刺繍を見て思わず呟いた。
それをソフィー様は聞き洩らさず、恥ずかしそうにハンカチを隠した。
「あ、こ、これは、その……」
明らかに動揺している。
今の今までの悲愴さは消え失せ、恥ずかしそうに顔を赤くしている。可愛い。
「それ……もしかしてですけど……『ヌルムキ』……ですよね?」
「っ!ご、ご存知なのですか!?」
「大っファンです!!」
「わたしもです!!」
何故かお互い勢いよく同時に立ち上がり、固い固い握手をした。
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