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 かたくなマッチョ!③

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「ごめんください。12時に予約した者ですが…」


開かれたドアの向こうに立っていた女性を見て思わず息を呑んだ。

『薄幸美人』というワードが頭の中ででかでかと掲げられたのだ。
青みを感じさせるほどの長い黒髪に、同色の長すぎるまつ毛に囲まれたレモン色の大きな瞳は少々気だるげで、鼻と口は飾りのように小さく少々近寄りがたい独特な雰囲気を醸し出している。
上質な生地の水色のデイドレスはフリルとレースがセンスよく使われているデザインだ。

薄幸美人のあとに続くように侍女と思わしき女性と護衛と思わしき男性も入ってきた。服装と雰囲気からも思ったがどうやらお金持ちのお嬢様のようだ。

「あれ?約束は13時からじゃ?」

頭に浮かんだ疑問はオリバーさんが代弁してくれた。

「あら?すみません!時間を間違えてしまいましたわ」
「いえいえ!今からで大丈夫ですよ!ね?アンナちゃん」
「はい。もちろん」

本当は満腹になったから約束の時間まで少し昼寝しようと思っていたが、オリバーさんが勢いよく私の肩を叩いてきたおかげでその軽い眠気も吹き飛んだ。

「では、あなたが枕屋さんの店主様でいらっしゃるのかしら?」
「はい。私が枕屋『みどりの羊』の店主のアンナ・レズリーです」
「ソフィー・ベルテンよ。よろしくね、店主様」

優しそうな微笑みにこっちも思わず笑んでしまう。
美人とはすばらしい。荒んだ心が浄化されるようだ。

「よろしければ私のことはアンナとお呼びください」

今はとある世話焼き褐色マッチョ騎士様を思い出してしまうため「店主」とあまり呼ばれたくない。

「わかったわ。アンナさん。ではわたしのこともソフィーと呼んで?」
「ありがとうございます。ソフィー様。では奥のお部屋にご案内します」

そう言ってオリバーさんの店の奥にある応接間へと案内した。



枕の新規発注の打ち合わせは毎回ここで行っているのため、枕の素材の手作りカタログやサンプルの枕もここに予め用意している。
それを見てもらって最終的に枕をオーダーするのかを今日、ないし後日決めてもらう予定だ。枕を作るにあたってサイズを測ったり好みのデザインを決めるのは打ち合わせの当日行うときもあれば後日にまわるときもある。


データだけもらって作ることだってできることはできるのだが、オーダーメイド枕の販売はメンテナンスも含まれるから長い付き合いになる。だからこそ直接会って話を聞くことを大事にしている。
顔を知っている相手のために作るほうが作り手としてもやりがいがあるのだ。

生地のサンプルや見本の枕を目の前に置いていると、ソフィー様が何か言いたげにしていることに気が付いた。

「先に何か要望などあればお伺いしますけどありますか?」
「その…枕屋のアンナさんにこんなことをお願いするのはとても失礼なのはわかっているのだけれど、わたしの要望を伝えてもよろしいかしら?」
「もちろん。お応えできない場合もありますけど可能な限り尽力しますよ」
「ありがとうございます…。その、わたし…」

ソフィー様が長いまつ毛を伏せながら、申し訳なさそうに呟いた。





「眠りすぎない枕が欲しいんです」



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