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 レナード様は知らない③

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――――時は少しだけ遡る。




ピクニックを終えてそろそろ帰ろうかと切り出されたが、せっかく隣町まで来たんだから有名な図書館に行かないかと誘うと、レナード様は快く受け入れてくれた。

待ち合わせ時間だけ決めてロビーで一度解散をした。


目当ての本がどこに置かれているのかわからないため手っ取り早く司書さんに聞いてみようと思ったとき、目の前をプレートを下げた男性が通りかかったため反射的に「あの」と声を掛けた。

「はい?」
「っ」

声をかける前は職員の印である首からかけているプレートしか見ておらず、話しかけた後に司書さんの顔を見て思わず慄いた。

なんてとんでもなくダサい眼鏡をかけた人なんだ…。
その瓶底眼鏡どこに売ってるんだろう…。
しかも髪はボサボサで服はヨレヨレだし…。
でもレナード様と同じくらい背が高いな。あれ、なんか体つきも結構いいぞ…。

「どうかされました?」
「あ、えと…外国に関する本を読みたいんですけど……」
「歴史書でしょうか?」
「歴史……というかその国の文化が知れるような本、というか…」
「でしたら2階ですね。あちらに階段があるのでそこから上がってから右奥にあるかと。良ければ目当ての本を一緒にお探ししますけど」
「いえ!そこまで教えてくださればあとは1人で探します。ありがとうございます」

司書さんにお礼を言って言われた通り2階の右奥へと行くと様々な国の「文化と歴史」と書かれた本が綺麗に並べられていた。

「ヤ……ヤ……あ、これかな。“ヤカグの歴史と文化”」

手に取ったのは他の国と比べて随分と薄い本だった。
他にも何冊か似たような本を見繕った後、近くにあった席に腰を落ち着かせ、知りたい部分がありそうなページをパラパラとめくっていった。





――――“ヤカグ”とはこの国の近くにある小国だ。

私が知るのはヤカグの人は肌が褐色ということだけ。だけど褐色の肌なのはヤカグの人だけではなくその存在も特に珍しいものではないため、いちいち褐色の人と出会ってもどこの国の人なのかを聞くようなことはしない。

だからレナード様が異国の人だとわかっていたけどどこの出身なのか聞いたことはなかった。
だけどさっきの同僚さんとの会話から察するに、彼はヤカグの出身なのだと推測した。



(あ…!あった。“リィタ”だ)

知りたかった項目を見つけ、内容を黙読する。



―――リィタとはヤカグの独自の言葉で“運命の相手”を指す。
ヤカグの男性は非常に独占欲が強く、自分の伴侶の名前を他人に知られることを嫌うため“リィタ”と総称する習わしがある。
これは自分の伴侶に限らず、人の伴侶のこともリィタと呼ぶ。

ヤカグの男性は他人の目にリィタがさらされることすら嫌い、女性は死ぬまで自宅からほぼ出ることなく一生を終える。



「…っ」

逸る思いで違う本に手を伸ばし、“リィタ”に関する記述を目で追った。



―――リィタだとわかる方法には個人差がある。
一目見てわかる者もいれば、香りでわかる者、声を聞いてわかる者、手を触れてわかる者と多少の差異があれど、常人の“一目惚れ”に近いとされている。

他国で自分のリィタを見つけた者はリィタを誘拐し一生自分の手元に置いたという事例も珍しくない。

心離れも気移りもせず、生涯でリィタ以外の女性の名を呼ぶこともしない。――――それがヤカグの男の血に刻まれた特性なのである。




リィタについて書かれていたのは、それだけだった。


でも、それだけで十分だった。









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