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9 ペンギンのラテアート

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「本当にすまないっ!!」


朝、いつもと違うベッドで1人で目が覚めて寝ぼけまなこでリビングへと行くと、すっかり見慣れたエプロン姿のレナード様から開口一番で謝られた。


どうやらレナード様は朝までぐっすりはできなかったらしく、目が覚めたら私を抱きしめたまま眠っていることに気が付き、私が起きないようにベッドからおりて今までずっとリビングのソファに座って朝を待っていたという。

ちなみに今までは治療を終えて眠れないと判断したら切り上げて、レナード様はそのまま自室で朝を待っていた。眠れなくても体を横にして、遅い起床の私に合わせるように朝食を作り始めていたらしい。

だが今朝は朝日が昇ると同時に朝食の支度を始め、ダイニングテーブルには朝食にそぐわない豪勢な食事が品数豊富に並んでいる。
顔を洗った後、いつもの自分の席についたやいなや、レナード様が淹れたカフェラテがすぐに置かれた。もはやお母さんというより執事さんのようだ。

カフェラテの表面には不格好なペンギンが描かれている。
レナード様は毎朝何かしらのラテアートを描いてくれるのだが正直言って絵心はないと思う。だけどなんだか味がある絵でだんだん可愛いなと思い始めている。
だけど何故だろう。心なしかこのペンギンは申し訳なさそうな顔をしているように見える。

「私こそベッド使っちゃってすみませんでした。私の部屋で横になってくれてもよかったのに」
「そんなことできるわけない!……とにかく本当に申し訳ない」
「気にしないでください。私が一緒に寝ようって言ったんですから」
「だが、俺が放さなかったから抜け出せず戸惑っただろ?俺は店主に無体を働いてなどいなかっただろうか?」
「っえ」

その言葉に思わず反応してしまい、フォークを刺そうと思っていたソーセージが逃げるように皿の上でクルリと回ってフォークと皿がガチャンと大きく音をたてた。

私のその様子からレナード様が何かを悟らないはずもなく、眠って血色の良くなった顔が一気に蒼白になった。

「す、すまないっ…!!俺はあなたに一体何をっ……いや、無理に言わなくていい。強制わいせつ罪で俺を騎士団につき出してくれ。自首よりあなたから言ってもらったほうが俺の罪が重くなるから…」
「いやいやいやいや!!違いますっ!ただビックリしちゃっただけです!何にもされてませんよ!ただずっと抱きしめられてただけです!」

レナード様の慌てようを見て改めて昨夜のことはレナード様に言わないでおこうと心に決めた。

「しかし…」
「そ、それに私もすぐ寝ちゃったし!だからレナード様が気に病むことなんてありませんから!」
「…だが」
「そ、それより!レナード様はどうでした!?ちょっとは眠れましたか!?」

レナード様が眠れていたことは知っているが、あえてここは知らないことにして聞いてみた。
するとレナード様が今日初めての笑みを見せてくれた。クマがいつもより薄くなっているからだろうか、はにかむ笑顔が一際可愛い。

「あぁ…。実は昨日は久々にきちんと眠れたんだ」
「そ、そうでしたか!よかった!嫌な夢とか見ませんでした?あ、夢は憶えていないのか」
「っ、あ、いや、昨日は、その……い、良い夢を見れた……」


私にめちゃくちゃキスして、めちゃくちゃお尻を揉んでいた間、レナード様は夢を見ていたんだ…。
いや、その後に見た夢かもしれないか。

どんな夢を見ていたのだろう。
誰かとキスをする夢……かな?
私と……ではないよね。だってあんな絶望した顔をされてしまったし。

良い夢を見てほしいと思ったのに、嫌な苦味のようなものを感じて深く考えることを止めた。


「店主、本当にありがとう。久々にたくさん眠れてすごくスッキリしたよ」

クマが少し薄くなり、より美麗さが引き立っているレナード様が微笑みながらそう言った。
胸を擽られるような嬉しさがあるけれど、どこか落ち着かない気持ちになってしまう。



とはいえ、まだこれでは改善したとは言えないだろう。
まだまだ治療は続けなければならない。

「あ、あの…、もし、レナード様が嫌じゃなかったら……も、もう少し続けませんか?」
「え?」
「一緒に寝るの…」


あくまでこれは治療。

レナード様とまた一緒に眠りたいとか
レナード様にまた抱きしめてほしいとか

―――…レナード様にまたキスしてほしいとか、

そんなこと思ってなどいな……いや、ちょっと思っている……かも。
いや、ガッツリ思っている…。



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