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 おやすみなさい③

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舌を吸われるどころかキスすら初めてでその得も言われぬ感覚に思わず腰が動いてしまうと、それを咎めるように腰を抱いていた腕が艶めかしく動き、大きな手がお尻を掴んだ。

「っふにゃっ!」

パジャマ越しに掴まれるその手の力強さに恐怖するよりただただ恥ずかしい。
レナード様はお尻を揉むことに集中したいのかキスが止み、頭を押さえていた手すらもお尻に伸ばし両手で尻肉を楽しみ始めた。

「も、もう止めてくださっ…!」
「……」
「レナード様ってばぁ…!」
「………スゥ………スゥ」
「え?」

現在進行形で確かにお尻を揉まれている。
なのに私の下にあるレナード様の顔は美麗に目を瞑ったまま微かな寝息が聞こえている。なんとも穏やかな寝顔で、今の今、私のお尻をモニュモニュと揉んでいるとは思えないほどだ。


――――え、待って。

これ、寝てるの?寝たふりとかじゃなく、ほんとに寝てるの?
だって今だってこんなにがっちりお尻揉んでるし、さっきのキスだってすごかったんだけど…。そして私のファーストキスだったんだけど…。

あれ?ちょっと待って。

いつから寝ているか正確にはわからないけど結構時間経ってるよね?
それなのにレナード様がちゃんと寝てる。いつもの赤ちゃんプレイ悪夢を見ていないみたいで穏やかに寝ている。
え、待って。
待って待って待って。


混乱が留まるところを知らない。
とにかく起こそう。今すぐ起こそう。
それにレナード様の上に寝そべっているのだ。絶対に重いはず。
そしてお尻揉んでる手を止めてもらわねば。



――――……いや、ちょっと待って。
このまま起こしていいのだろうか。



せっかく久々に悪夢に魘されることなく眠れているというのに今この安眠を邪魔していいのだろうか。
抱きしめることも一緒に眠ることも私が提案したんだ。レナード様を咎められる立場でない。
それに、レナード様が寝たふりをしているようにも見えないし、それならばこの行為は故意で行っているわけではない。

そもそも、私はこの状況を心から嫌がっているわけではない。なんならとても幸福に思っている。お尻を揉まれるのはちょっと恥ずかしいけど…。


もう少し……もう少しだけ、このままでいよう。


レナード様にきちんと睡眠をとってほしいと思ってはじめたことだ。
私の唇一つ、お尻一つでちゃんと眠ってくれるのなら多少の羞恥など我慢できる。
こんなかっこいい人と、ましてや好きな人とキスができてお尻を揉んでもらったなんてむしろお礼を言ってもいいことだ。それにこのことを言ったらきっと真面目で実直なレナード様は自分を責めてしまうだろうし。


言わなくていい。言う必要がない。


そう心に決めると、お尻を揉んでいたレナード様の手の動きがだんだんと弱まりやがてピタリと止まった。
そしてまた腰に腕を回すとゴロンと横向きとなって身を屈め、また最初と同じように私の胸に顔を埋める体勢となった。
耳心地の良い寝息がずっと聞こえていて、思わず笑ってしまう。



また、頭撫でてあげてもいいかな…?
撫でてほしいって言ってたしいいよね。
もう私の好きに触らせてもらっちゃお。
好きなように触られたのは私もだし。

穏やかに眠れていてよかった。
今はどんな夢を見ているのかな。
こんなに穏やかに寝てるんだもん。
きっと良い夢だよね?


良い夢だったら、いいな。



「おやすみなさい、レナード様。……良い夢を」



フワリと黒い髪に指をさし込み、その頭を胸に抱きしめ静かに頭にキスをすると、レナード様の腕の力も強まったように感じた。


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