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3 え、それで?
しおりを挟む「はぁ、わかりました。とりあえず今日は泊まってってください」
「いや、しかし…」
「ご存知かと思うのですがこのバカは一度言ったことを引っ込めるなんて大人な対応できないんです」
「確かに。でも、いいのか…?」
「私は大丈夫です。レナード様もよかったら兄に従ってあげてください。たぶん受け入れないと後からうるさく言ってきますよ。それが本当の本当にうるさいんです」
「……確かに」
どうやらレナード様は兄のことをよくわかってくれているらしい。
兄の言うこと全部を聞いてあげるわけではないが、今回のこの頑固さは言う通りにしないと自分の周りを反復横跳びし続けてくるぐらいのうるささとなるだろう。
それは断固として避けたい。
「2人は俺のことよくわかってんじゃん!愛されてるな!俺!」
「はいはい、愛してるからレナード様の着替えなりなんなりは兄さんが買ってね。もちろんうちの品物から」
「なんで!?」
「男物のパジャマなんて品物以外うちにないもん。言い出しっぺが買え。値段もふっかけるからよろしく」
「アンナが男を作らないのが悪いんだろ!」
「さらに値段ふっかけるよ」
「あの、妹君。俺が一度自宅に帰って準備を持ってくれば…」
「いえ、レナード様はお気になさらず。どうしても必要なものがあるのなら別ですが、基本的なものならこの愚兄に買わせてください。この、愚かな、兄に」
「まったく~アンナったらほんとお兄ちゃんっ子だなぁ!だがアンナ!俺は別にシスコンじゃねぇから!ごめんな!ハッハッハッ!」
「…」
なにがどうして私がお兄ちゃんっ子になって、そしてフラれたみたいになってんだ。というツッコミする気すら失せた。
結局、無事に兄に色々買わせることに成功し、レナード様が今日泊まるにはまったく問題なくなった。
自分の金で買った部屋着兼パジャマを身に纏うレナード様を見て満足気な顔をした兄は、「んじゃ、俺帰る!愛する奥さんが待ってっからな!」と言ってすたこらと去って行った。
残された私達は当然だがまだ少々気まずい。
ひとまず2階の居住スペースに移動してレナード様の症状をダイニングで詳しく聞くことにした。
いつもは家の中は汚いが昨日マダムシャロンの雑誌で部屋を片付けろとあったからある程度片付けていたのが功を奏した。
「これ、私が作ってるリラックスハーブティーなんです。お口に合えばいいのですが」
「あぁ、ありがとう。いい香りだな。…ラベンダーか?」
「当たり!人気商品なんです」
レナード様の向かいに腰掛けて私もカップを傾けた。
思えばこの居住スペースに人を上げたのは兄のディランとその妻であり私の親友のロザリーだけだ。今日初めて会った人を家に上げるなど、インドアで彼氏の1人もいたことがない私にとって今日はかなりの非日常だ。
そういえば今日のラッキーアイテムはラベンダーだったな。意図せず人気商品であるラベンダーティーを出してしまった。
占い雑誌には“今日は人から頼られる”と書いてあったがまさにこのことだろう。
部屋の片付けのことといい、やっぱすごいな、あの雑誌。
「…」
お茶を飲みながらチラリとレナード様をカップ越しに見つめた。
やっぱり全方位から見てもかっこいい。クマのひどさが逆にアンニュイさを感じさせていて最近読んだ恋愛小説にでてきたヤンデレヒーローっぽいのもいい。さっきはキッチリとした騎士服を着ていたのに今はラフな部屋着を着ていて可愛らしい。…だけどやっぱりなんかエロい。
「なんだか落ち着く家だな」
「そうですか?」
「あぁ。気持ちが安らぐよ」
やわらかく細まる目が嘘もお世辞も言っていないことを伝えている。
そのクマがひどい優しい目が気まずさも緊張も解いていくように感じた。
「あの…、不眠症の原因をお伺いしても…?」
不眠症の原因はほとんどがストレスだ。
クマ以外見た目は健康そうに見えるレナード様だが、精神が健康とは限らない。こういうナイーブな話題は遠回しに聞くべきなのだろうが、あいにく私にそういった芸当はないため直球で聞いた。
「それが…、まったくわからないんだ…」
「まったく…?」
「まったく」
「わからない?」
「わからない…」
「いやいや、不眠症になるほどの何かがあったのでしょう?詳細は言わなくてもいいですから、素直にどうぞ」
「ほんとにわからないんだ…!わからないからこそ、気持ち悪い…」
特段隠しているとは思っていなかったが、茶化すように聞いてしまったことを反省するほどレナード様が苛立ったように答えた。
少し話しただけでもレナード様が真面目な方だということがわかる。
そんな方が長期休暇を取らざるをえないほどの深刻な事態なのだ。―――そう思って今一度気を引き締めた。
「何か持病はお持ちですか?」
「いや、ない」
「睡眠薬以外で何かお薬の常服は?」
「ない。今は睡眠薬も飲んでいない」
「大体1日の睡眠時間は今どのくらいですか?」
「長くて1時間くらい。短いときは10分も無理だ」
「っ、それだけ!?」
「あぁ…。ある日突然不眠症となってしまって本当に参っているんだ…」
「――――ある日突然…?」
そこが妙に気になった。
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