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夕食を食べ終え、言われた通り皇宮庭園へと行くと、仄かな照明に照らされた草花が綺麗で夜の幻想的な空間となっていた。
人が誰もいないことや月が煌々としていることもその神秘さに拍車をかけているのかもしれない。


殿下はここに来て改めて考えろと仰っていた。それがアルガルド様のことだということはわかっているけど彼のことで何を改めて考えればいいのかがよくわからない。
自分に課せられた任務は恙なく終えたと思うし、それが失敗だったのか成功したのかは明日を迎えないことにはわからない。
だけど考えろと言われたのだから、庭園を歩きながらこの1ヶ月間の事でも振り返るかな。

そう思って纏めていた髪を解きながらゆっくりと歩き始めた。



アルガルド様はとても素敵な人だった。
ぶっきらぼうだし、言葉も柔らかくないから初めはイライラさせているとか怒らせたとか思ったけど彼は一度だってそういった感情を持っていないということがだんだんとわかった。
不器用で無愛想だけど、優しい人。

好きな食べ物はエビグラタン。
苦手な食べ物はきのこ。でも食べられはするらしい。
好きな色はシャンパン色。なのにお酒のシャンパンは好きじゃない。
好きな季節は春。
動物は犬が好き。
体を動かすのも好きだけどゆっくり本を読むのも好き。
照れ隠しで眉間に皺を寄せてしまうのが癖。

好きな女性のタイプは、笑顔が綺麗で明るい人。



1ヶ月間で知ったことを思い出して笑ってしまう。
楽しかったなぁ。…本当に楽しかった。

明日、そうでなくても近い未来、あの人の隣にはきっと笑顔が綺麗な女性が立っているだろう。
不器用なあの人を優しく受け止めてくれる尊き身分の御方がいるだろう。
これからますます素敵な男性となる彼をその女性は隣で見ていくことになるだろう。

私はもうあの群青に映ることも見ることも叶わず、ごく稀に遠目からその御姿を拝見することしか叶わなくなるだろう。



それで構わない。



だって私は、あの日の彼を持っている。
幼さ残る相貌で、群青を涙で濡れに濡らした誰も知らない彼を持っている。


彼はこの先、あの日のような号泣などきっとしない。
するとしても絶対に人には見せないはず。

だから私が持つ、私だけが持つ彼がいることは、幸せだ。

殿下にはきっとわからない。
相手を欲しない恋もあるということを。


十分だ。本当に心の底から十分なのだ。


―――――十分過ぎるほどに、私は幸せだ。











「フェリシアッ……」






切羽詰まったような、でも婀娜めく声に振り向くと、数時間前にお別れをしたアルガルド様が立っていた。



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