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しおりを挟む職場である殿下の秘書室へと戻ると誰もいなかった。自席に座り書類仕事を始めようとすると奥にある殿下の執務室へと続く扉が開き殿下が来た。
「おかえりー!フェリシア君」
「ただいま戻りました」
「最後のお茶会どうだった?まったく、ちょっと長めに時間を設けたがまさか最終日まで進展なしとは思わなかったよ!遅くても10日くらいで済むと思ったのに!でも2人共奥手そうだしね!それで?最後ってことで気持ちぶつけあってあっついハグでもしたんでしょ?なんならキスとか………」
「? 何をずっと意味不明なことを仰ってるんですか?そんなことするわけないでしょ。ヴァートレット卿は明日お見合いなんですよ?」
「は?」
「それよりも殿下、確認していただきたい書類がありまして…」
「――――いやいやいやいや!ちょ、ちょ、ちょっと待って」
妙に焦った殿下の声に驚き仕事の話に戻ってから書類に移していた目線を上げた。
「どうされました?」
「あいつ……何か君に言ったりしてないのか……?」
「私と一緒にいて楽しかったと仰ってくださいました」
「いやそうじゃなくて寂しいとか、もっと一緒にいたい的な…?」
「言葉にはしてませんが、寂しそうにしてくださいましたよ。そう思ってくださって嬉しかったです」
「え?は??あいつもあいつだけど、き、君さ……なんでそんな普通な感じなの?」
「普通?」
「だってアルガルドと会うの今日が最後なんだよ!?君こそもっと一緒にいたい!とか見合いなんて行かないで私を好きになって!とか思わないの!?」
「あはは、思いませんよ。確かに私も寂しいですけど、なんというか自分が1ヶ月間育てた仔犬に里親が見つかって離れ離れになって寂しいって感じですかね」
「アルガルドが仔犬!!?」
「例えですよ、例え」
「え!?ちょ、ちょっ!このままだとアルガルドは明日お見合いしちゃうよ?」
「そんなの初めから知ってますけど……。どうなされたんですか?それよりも書類を」
「書類なんてど―――――だっていいんだよ!!」
「!?」
普段温厚な殿下が激昂された。
「なんで僕がここまでお膳立てしたのになんも進展がないんだよ!!いつまで経っても吉報はこないし!アルガルドはヘタレだし!君にいたってはあっさりしてるし!僕にこんなむずむずじれじれさせて楽しいか!?誰だ!!むずむずじれじれが好きなんて言った奴!!」
私をアルガルド様の見合い練習相手にしたのは他でもない殿下なのに、さっきからまるで私にその見合いを止めてほしいかのような言い草だ。
「殿下、落ち着いてください」
「君が落ち着きすぎなんだ!!だってアルガルドは君の初恋相手で思い人だろう!?いいのかよ見合いしちゃって!他の女性と結婚しちゃっても!」
「な、なんで私の初恋がヴァートレット卿だってことまで知ってるんですか?」
「先月部署の飲み会で酔った君が自分で言ってたよ!アルガルドのことが好きだから誰とも結婚しないで一生想い続けるんだって!僕があれを聞いてどんなに嬉しかったか……うぅ、泣けてきた…」
「なんで殿下がそれ聞いて嬉しいんですか。というより酔ってそんなこと言っちゃったんだ…。そういえばあの飲み会の後すぐに今回のお見合いパーティーを企画されてましたね」
「そうだよ!企画したよ!無理矢理にでも背中押してやろうとしたんだよ!なのに君らときたら! とにかく!君はアルガルドが誰かのものになっていいの!?」
「いいですけど」
私のあっさりとした言葉に殿下が呆然としている。
「え……?なんで?ほんとになんで?アルガルドのこと好きなんでしょ?」
「好きですよ。でも今のヴァートレット卿への思いは尊敬とか憧れのようなものなんです。だからあの御方が幸せになってくれるならそれだけでいいです。あ、でも憧れの人と話すという貴重な機会をいただけたのは嬉しかったです。ありがとうございました」
「え?初恋の人と久々に会って憧れがまた恋愛に変わらないの?」
「変わりませんねぇ…。あ、でも尊敬具合は高まりましたよ」
「ちっがうの!そっちが高まっても意味ないの!!ラブなのラブ!リスペクトじゃないの!!」
「殿下が仰ってたじゃないですか。期待している、と。私はヴァートレット卿に邪心を抱くことなく接し無事にあの御方は女性に慣れたように思います。殿下の期待に応えられるよう責務を全うしたと思ったのですが私の読み間違いでしたでしょうか?」
「あ゛あ゛あ゛っ!!くっそ!なんで君は普段優秀なのにこういうときだけ!!…あ、でもロマンス小説でも主人公は仕事は優秀なのに恋愛となる鈍感というのは定番だな……。というかアルガルドがバチッと決めないから……あのヘタレ意気地なしめ……」
途中から殿下がブツブツと何かを呟いたと思ったら「――――ちょっと出てくる!!」と言って部屋を飛び出していったが15分程で帰ってきた。
「おかえりなさい、殿下。それでさっきの書類の件なんですけど…」
「フェリシア君。今から言うことは皇太子命令だ」
「はい!」
「今夜8時、皇宮庭園に行きなさい。そこで改めて考えなさい。以上」
「考えるって何を…」
「以上!!」
「しょ、承知致しました……」
殿下に圧倒されたのと普段から承知する癖がついているからか、思わずいつものように頷いてしまった。
「じゃあ僕は帰る!もう絶対じれじれモノなんか読まないからなっ!じゃ!!」
吐き捨てるようにそう言った殿下がバタン!と大きな音を立てて扉を閉めて帰っていってしまった。
「あ、書類………」
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