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しおりを挟むでは、そのアルガルド・ヴァートレット卿のことを説明しよう。
皇弟を父親に持つヴァートレット公爵家の次男で皇太子殿下とは従弟にあたる尊き血を持つ御方。数々の武勲を立て続けに上げ最年少で騎士として最高位である黒の騎士服を手にし、彼を知らぬ者は少なくとも帝都にはいないと言われている。
その厚く筋肉で盛りあがった胸には数が多すぎる褒章が重々しく所狭しと飾られている第一騎士団筆頭黒騎士様だ。
頑健頑強な体は厚手な騎士服を身に纏っていてもよくわかり、加えて通常の男性よりも高い上背と長すぎる脚も彼の屈強さを助長していた。
しかも、彼は素晴らしい家柄や体だけでなく美麗すぎるご尊顔をもお持ちだ。
首から下は屈強な大男であるのにその相貌は美しいと表現すべきもの。短く揃えられたまっすぐで艶やかな黒髪、黄金比率とでもいうべき完璧なバランスで目鼻口が配置された顔、さらには歴戦の騎士と思えぬ滑らかな白い肌。
―――そして何より目を惹くのはやはりその群青の瞳。
切れ長で綺麗な形の目の中にある鮮やかな青の瞳は、彼の冷淡で孤高な印象を際立たせている。
一見アンバランスな美麗なご尊顔と巨躯が見事なまでに合体している御方こそアルガルド・ヴァートレット卿だ。
そんなパーフェクトな家柄、職、体、顔をそろえた彼がどうして見合いの“練習”をせねばならないのかというと、殿下曰く「愛想がなさすぎる」からだそうだ。
既に御年25歳のヴァートレット卿は貴族としては結婚がやや遅い。騎士というのは婚期が多少遅れるため問題はないが、かといって公爵家次男が未婚のままでいいはずもなく、殿下の愛妻である皇太子妃のご友人のご令嬢方と見合いの場を設けたところ、彼が絶望的に愛想がないということがわかったのだ。
いくらとんでもなく良い男と言えど、見合いの席で会話が全く続かない男と生涯を共にしたいという女性はおるまい。
勿論中には地位と財力とその顔さえあればいい!という最早清々しい女性もいたらしいのだが、“いとコン”な殿下の御眼鏡には適わなかったそう。
「―――だから僕はアルガルドのために城に婚約者のいないご令嬢を一気に集めて来月見合いパーティーを開催するのだ!」
そう高らかに話す殿下が何故だかニヤついた目つきで私を見てきた。
お見合いパーティーがあることは担当ではないが企画書に目を通してあるから知ってはいたが、まさかそれがヴァートレット卿のために行われる催しだったとは…。
「だがいきなり見合いをしたとしても以前の二の舞になりかねない。アルガルドにはまず女性と接することに慣れてほしくてね。そこで君の出番だ」
「はぁ…」
「今日から1ヶ月間、パーティーの前日までここでアルガルドとお茶をしてくれ。そうすればアルガルドも女性に慣れて見合いも成功につながるだろう」
「ですが何故私だけなのです?女性に慣れるためなら複数人とすべきなのでは?」
「ハッハッハッハッ!簡単なことだよ!僕が信頼している人間でないとこの役は任せられないからさ!男と2人だけの密会をするということは未婚女性ではダメだし、かと言ってご夫人では夫の許可をとらねばならない。アルガルドがこのような練習をしていることは極力内密にしたいのだ。―――――つまり、当事者以外の許可がいらなく、アルガルドと年が近く、僕の信頼を勝ち得ている者でないとダメなのだ。そこで君に白羽の矢が立ったわけだ」
「ですが私が身分不相応にヴァートレット卿に求婚を迫るかもしれませんよ?」
「―――――ングゥッ」
それまで不自然なほど黙っていたヴァートレット卿が急に詰まったような声をあげたためにそちらを向いたが何もなかったように優雅に座っているだけだった。
…気のせいだったのだろうか?
「だがフェリシア君、君は独身主義なんだろう?」
「っ」
殿下の言葉に何故だか、ヴァートレット卿が反応した。
「まあ…そうですけど…」
「しかもその理由が初恋の男性が忘れられないからという健気な理由だ」
「え!?な、なんで殿下がそんな私の事情をご存知なのですか!?」
「ハッハッハッハッ!僕は皇太子だからね!」
それは答えになっていないのだが…。
「フェリシア君、僕は君にとても期待しているんだよ。――――此度の件も、君は僕の期待に大いに応えてくれると信じている」
「っ、はい…」
この尊き血筋の上司は基本的に親しみやすい御方だがやはり優位意識が体に染みついているとこういうときに感じるし、それが似合っている。
独身主義で貧乏男爵家の出である私が王家の血を引く公爵家の子息であり国の英雄に身の程も弁えず秋波を送るなんてこと、しないよな?という半ば脅しのような意を含んでいると理解した。
まぁもとよりそんなことする気さらさらないのだが。
「よろしい!今日はこのまま僕も同席するが明日からは2人で頼むよ」
「はい…」
「……」
「では始めてくれ!」
シーン……
おんもっ!!!空気重っ!!!
というより、ヴァートレット卿はこの状況をどう思っておられるのだろう…。
向こうは私のことなど露ほども覚えていないだろうし、仮に覚えていたとしたら自分が号泣したところを目撃した黒歴史を持つ女なわけだ。
なのに先程から文句一つ言わないというのは既に殿下に丸め込まれ納得されたということなのだろうか…?
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