2 / 12
2
しおりを挟む「リュカ、お待たせ!」
仕事を終え、食堂の片隅で本を読んでいるリュカに声をかけると、優しい笑みを返しながら本を閉じた。
「無理に走らなくていいよ」
「これくらい平気よ。ちょっと長引いちゃったからリュカが待ってると思って。ごめんね、待たせて」
「気にしなくていいよ。仕事お疲れ様」
「~~~~っ! リュカ、大好き!」
「なに? 急に。……まぁ、俺もラーラのこと、好きだよ」
人がいる前では照れてしまうリュカは、2人きりのときはこうして言葉を伝えてくれる。照れてはいるけれど。
そんな姿を見て、飽きることなく胸がときめいてしまう。
「疲れてない? 家までは歩けそう?」
「まだ平気よ。仕事中も座らせてもらっているしね」
「そう。でも無理はしないでね。じゃあ帰ろっか」
いつも当たり前のように差し出された手を見て、私はいつも心が温かくなる。
その手に自分を重ねると、かわいらしい見た目にそぐわない剣だこがざらりと私の手の平を撫でてくる。リュカはそれを申し訳ないと思っているらしいのだが、私はこの感触が大好きだ。
リュカに助けてもらった時、道に迷いながら足に怪我を負った私は、それ以来長時間立っていたり歩くことができなくなってしまった。
足を引きずったりはしないのだが、足の疲れが早く訪れてしまったり、時折痛みで歩けなくなってしまうため、こまめに休憩を取らなければならない。職場である警備隊食堂では、そこを考慮しながらお仕事をさせてもらっている。
もちろんリュカもそれを知っていて、仕事中は誰よりも俊敏に動いているというのに、私と一緒に歩く時はとてもゆっくり歩いてくれる。
お付き合いを始めてすぐの頃、それを申し訳なく思っていると素直に伝えた時に「ラーラと歩いていると、時間がゆっくり動いているように感じられてすごく落ち着けるんだ。だからそんなふうに思わないでよ」と言われ、私は一生この人が好きだと確信した。
隣を歩くリュカを見て、心の中で「大好き」と思っていると、ズキッとした痛みを右足に感じ、思わず歩みを止めた。
手を繋いでいたために私につられてリュカも足を止め、心配そうに顔を覗き込んできた。
「ごめん、歩くの速かった?」
「あ、違うの。今日は少し冷えるからちょっと痛みがでちゃったみたい。さっきは平気だったのにごめん。すぐに収まると思うから少しだけ待ってくれる?」
「家までまだ少しあるからおぶるよ。ほら、背中に乗って」
「でも、最近お菓子ばっか食べちゃってたから太ったかも……」
「幽霊じゃないんだから重くて当然だよ」
「ひどい! そこは重くない、むしろ軽いよ。って言うところよ!」
「ハハッ、ほら、乗って?」
私の前に来てしゃがんだリュカが優しい声で急かした。
一緒に歩いているとき、私が足を痛めるとリュカはいつもこうして私をおぶってくれる。いつもは恥ずかしがり屋なのに街中であろうとこうして抱えてくれることが、私にとってどんなに嬉しいことかわかっているのだろうか。そして幾度となくリュカを好きになっていることに気付いているのだろうか。
背中から感じる温もりが心地よくて、首に回している腕に力を込め意図せず胸を押し付けると、急にリュカの体が強張ったように感じた。
「リュカ? どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない……」
「もしかして、やっぱり重い……?」
「いや! 重くない! ……けど、まぁ確かに大きいよね、ラーラって」
「や、やっぱり下りる!」
「いや、違う! ごめん! そうじゃなくて、むしろ良いというか……とにかくこのままでいて!」
少し焦ったような口ぶりでリュカは足を速めた。
心なしか首元が赤いように見える。
「ほんとに平気……?」
「平気だよ。むしろラーラは心配になるほど軽いよ」
「むぅ……その台詞さっき言ってほしかった。でもありがと」
遠慮なく体を預けるが、リュカはまったく体がぶれることない。こうしておぶってくれるときに香る、草木のような爽やかな香りを嗅ぐのが私は密かに好きだ。そしてリュカの長い耳が歩くたびに僅かにピョンピョン跳ねるのを見るのもたまらなく大好きだ。
国境警備隊を勤める獣人たちは皆体が大きい人達ばかりで、うさぎ獣人のリュカは一際小さい。だけど私からすれば見上げるほど背が高いし、こうして軽々と私をおぶってくれるほど体を鍛えているのが背中越しでもわかる。
他の警備隊の人達だってかっこいいと思っているけれど、やっぱりリュカは特別だ。私にとってリュカだけが光って見える。
「リュカ、大好き」
「俺も大好きだよ。……でもあんまり他の人の前でそれ言わないでね」
「どうして? みんな私がリュカのこと大好きなことを知っているのだからいいじゃない。恥ずかしいの? かわいい!」
「かっ、かわいいとか言うなよ。恥ずかしいのもあるけど……ラーラが俺のこと好きって言う顔を、あんまり見られたくないんだよ」
「え、もしかして私、変な顔してた?」
「そうじゃなくて」
気付けば家の前。
リュカはゆっくりと私を下してくれ、向かい合って立ってみると私の視線から逃げるように顔を赤らめながら横を向くリュカに胸がキュンとしてしまう。
「ラーラが俺のこと好きっていうとき、ほんと、可愛いから……あんま人に見せないでほしい……」
「~~~~っ!」
たまらなくなってリュカに抱きついた。
どうして私の大好きな人は、こんなにも可愛くて、すでに天元突破している私の「好き」をさらに増大させてくるのだ。
「リュカのばかぁ! 大好きぃ! このイケメンうさぎさんめ!」
「ハハッ、なにそれ。ったく、ラーラは。ほら、寒くなってきたからもう中に入りな?」
目を細めて笑いながら私を優し気に見下ろす目は、リュカの背後にある満月と同じ色をしていてたまらなく綺麗だ。
「おやすみなさい、リュカ。明日もあなたが大好きよ」
「おやすみ、ラーラ。今夜も君を想って眠りにつくよ」
25
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる