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「リュカ! 今日もお疲れ様! はい、いっぱい食べてね!」
「……ありがと」

 他の人よりも少しだけ多めに装ってあるシチューをリュカが持つトレーに乗せながら言うと、照れているのか目線を外しながらお礼を言ってくれた。
 照れているところも可愛くて素敵だ。もっとシチューをあげたくなってしまう。

「おいおい、ラーラちゃん。毎度のことだがリュカの分だけ多いんじゃねぇか?」

 リュカの後ろで順番待ちをしているクマ獣人さんが呆れ半分、からかい半分で声をかけた。

「ご心配なく! 私が食べきれない分をあげてるだけなので他の方のシチューが減っているわけじゃないですよ」
「いやいやそうじゃなくて」
「だってほら、リュカってば今日も世界で1番素敵だから、たくさん食べて欲しいと思ってしまうんです」
「ッハハ、本当に愛されてんなぁ、リュカは」
「そうなんです! 愛してるんです! 私、とっても愛しちゃってるんです!」
「お、おぉ……」

 からかい調子だったクマ獣人さんに向かって、常時溢れ出して困ってしまうほどのリュカへの想いを伝えると、何故だか少し頬を赤らめて俯いた。
 どうしたのだろうと思っていると、その横からじとっとした視線を感じた。

「ラーラ……」
「ん? どうしたの?」

 リュカに顔を向けてみると、これまた何故だが不機嫌そうな顔をしている。

 さっきまで照れていたのにどうして急に不機嫌になったのだろう? でもそんな顔もやっぱり素敵。どうしてそんな表情も素敵なんだろう。リュカって不思議。不思議で大好き。

「えへへ~、リュカが今日も素敵ぃ……」

 口角が上がることを抑えられない私を見て、リュカはハァ……と大きくため息を吐きながらも嬉しそうに長い耳を揺らしながら微笑みを向けた。

「今日も仕事終わるまで待ってるから。終わったら声掛けてね」
「うん! いつもありがとう! リュカ、大好き!」
「ったく、ラーラは……」

 ちょっと呆れたような言葉を言いながらも優しい笑みを向けてくれたリュカを見て、胸に穴が開いてしまったのかと思うほど撃ち抜かれてしまう。
 大好きな彼に恍惚としていると、シチューの配膳待ちをしている隊員にせっつかれてしまい、急いで配膳の仕事へと戻った。




 ――――ここは獣人の国。

 多種多様な獣人が住むこの国の国境警備隊の中にある、隊員専用食堂で働く人間が私だ。
 人間が住むのは珍しいことだが前例がないわけではない。現に自分以外の人間の住人を何人も知っていて、その住人のほとんどが獣人と結婚をして幸せに暮らしている。

 何を隠そう、私の大大大好きな人だって獣人だ。

 私からの猛アプローチが実を結び、晴れてお付き合いすることとなったリュカは、灰色の長い耳が特徴的なうさぎ獣人だ。
 国境警備隊は体の強い獣人の中でも特に屈強な獣人たちが揃っている。その中でうさぎ獣人のリュカは異色の存在だ。リュカは持ち前の素早さを活かして、国境警備の他にも街の治安を守る仕事も行なっている。

 以前、私が1人森の中を散歩している際に怪我をして動けなくなっていたところを、警備隊であるリュカが見つけてくれて、その姿に一瞬にして恋に落ちてしまった。


 お付き合いを始めて半年ほど経つが、日に日に想いが強くなっているのがわかる。
 だから大好きな彼の姿を見た瞬間に想いを伝えてしまうのは、至極当然のことだろう。




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