【R18】犬猿の仲なもので

冬見 六花

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「適当に過ごしてくれ。冷蔵庫にあるもん適当に食っていいし、あっ風呂入るだろ?着替えはこれな」



てっきり自警団の寮に住んでいると思っていたが、ヤマトの家は自警団からほど近いアパートに一人暮らしにしていた。リビングダイニングに寝室がある家は広い上に綺麗に片付いていた。
スウェットを渡されリビングに突っ立ってる私に対してキビキビと新品の歯ブラシだのタオルだのを次々と渡してくる。


「あ、ありがと」
「俺今日夜勤で帰りは朝になっから先寝とけ。ベッド使っていいから。鍵は1個しかねぇから持ってく。俺が帰ってくるまでお前はここにいろ。いいな?」
「っ、……わかった。ちゃんといる」

子どもじゃないんだから!と言ってしまいそうになったがそれよりもヤマトの親切心が今は有難いし嬉しかった。久々に会えた高揚感もジワジワと芽生え、それが先程まで感じていた恐怖をどんどん薄くしてくれている。

「じゃあ、俺は職場戻るから」
「あ、うん!いってらっしゃい」
「っ」

獣人には珍しい顔の横についている耳が赤くなっていることに背を向かられている私は気づかず、なんで一瞬動きが止まったんだ?と疑念に思っているとヤマトが小さく「いってきます」と言った。

なんだか結婚してるみたい……と、パタンと閉まったドアを見つめて身悶えるような思いに駆られ、借りた着替えやタオルを持って急いでお風呂場へと向かった。





  ◆ ◇ ◆




――――……またもや体がフワフワと浮遊している気がする。


フワリと香ったのは、石鹸の良い香りだった。



「ん…………?」
「あ、悪い。起こしたか?」


気づくとまた先程のようにヤマトに横抱きにされていた。
お風呂上がりなのか髪が少し湿っていて、まだ頭が起ききっていない私気遣ってくれているような囁いた声を落とされ不覚にも胸がキュウと苦しくなった。

閉まっているカーテンの隙間から陽の光がこぼれている。
ヤマトが仕事に戻ってから私はお風呂に入ってその後すぐにソファで眠りについていた。結構な時間が経っていたのだろう、ヤマトが仕事を終えて帰ってきて入浴も済ませたのだと分かった。

「おかえり……ヤマト……」
「お、おぉ。ただいま。ちゃんとベッドで寝ろっつったのになんでソファで寝てたんだよ。帰ってきて風呂直行したから気づくの遅れたわ」

ふわっと体が何かの上に沈んだ。ヤマトがベッドへ運んでくれたらしい。未だに微睡む頭で少し起き上がろうとしたが、力強く大きな手が私の肩を押して再び体がベッドに沈んだ。

「寝てろって」
「ヤマトが……疲れて帰って……くると思って……ベッド使うの……悪いな、って……」
「バカめ。ベッド使えって言ったろうが。俺に気ぃ使うな」

バカって言うなって言おうと思ったが、ヤマトの顔を見た安堵感が沈む意識に拍車をかけ、目を閉じた私は額に何か柔らかいものを感じながらまた眠りについた……――――


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