38 / 57
共闘
しおりを挟む
しかしだ。
『だってここ、うちの国じゃないし』とイゼルダは言うのだが、『うちの国』じゃないから、なおさら問題なのではないだろうか。イゼルダはグイーグ国の公爵夫人だ。それが他国で暴れまわって街を火の海にしている。
これって、普通に外交問題になるんじゃないか?
そんなことを、倫理観とは別の部分で考える俺。しかし、後で聞いたところによると、この襲撃は現地ハジマッタ国の了承を得た上で行われていたのだそうだ。
『スネイル』の市井への浸透はハジマッタ国上層部でも問題視されており、そこに訪れたグイーグ国からの共闘申し入れは、渡りに船だった。
大火事に見えて、実は燃えてるのは『スネイル』構成員と、その協力者の住居のみ。焼け跡は捜査の名目で国が占拠し、最低でも数年間は塩漬けにする予定だそうだ。『スネイル』への協力が割に合わないものだと知らしめるには、これくらいやらなきゃ駄目だということなのだろう。
そして――
「奥さま。こちらの御婦人が」
『スネイル』の幹部も、残り3人となったところで声をかけられた。アドニスだ。隣では、20代前半と思しき女性が口元を抑えている。不安げに、細い肩を震わせて。しかし彼女の目付きと立ち方は、まるで正反対だった。足元は軍人のごとく踵を合わせ、重心は、今すぐどこへでも駆け出せる位置に置かれている――彼女は言った。
「ハジマッタ王国法力軍第4師団『武装僧兵』筆頭、コレア=ベッピダーと申します。イゼルダ夫人。お目にかかれて光栄です!」
コレアの声と表情はいかめしいが、顔立ちは美しかった。
イゼルダが言った。
「私も光栄です。『赤滅のコレア』。いま貴女がここに在るということは――そういうことなのでしょうね」
と、小さく空を指差す。
コレアも、同じく空を指さして。
「はい。ト=ナリの法力殿で、127名の『武装僧兵』が術式を演廻させております。あとは、私がここから加われば……」
「了解です。私は後片付けをしますので、あなたは15分後に――ではクサリ、行きましょう」
つまり、あと15分で残りの幹部を全滅させるということか。
小走りで、その場を離れる。
数ブロック行ったところで、俺は言った。
「どうぞ――何か、あるんですよね」
イゼルダが、何か言いたくてしょうがないという表情だったのだ。
そうなのよ、クサリちゃん!――こちらを向いた顔は、プールで潜水した直後みたいに真っ赤だった。
「ああ、ヤバかった! 緊張した! なんぼなんでも、あの娘を寄越すことはないでしょうに!――絶対、分かってる! 分かってやってる!」
「コレアと、何かあったんですか?」
「彼女っていうか、彼女の父親とね。なんというか……あの娘、私が産んでたかもしれないっていうか。あれだけ種付けファックして孕まなかった自分が不思議っていうか」
それ以上は、訊かないことにした。どうやらハジマッタ王国は、イゼルダにとって縁のあるというか、若き日の黒歴史が詰まった土地だったらしい。
早朝の火事に騒然とする街路を、早足で進んでいく。
「ふん! ふん! ふん! ふん!」
歩く速度は落とさぬまま『肉壁のバンダル』を家ごと微塵切りに。
「しゃっ!」
『鉄骨のボルペン』は、『重圧』のイメージで俺が潰した。
そして最後の1人――
「ん?……ああ、ここだったか」
――『酔歩するドランカ』は、いったん通り過ぎた所を戻って、やはり家ごとイゼルダが叩き切った。
「最後だし、クサリちゃんもやっちゃいなさい」
「はい。奥さま」
じゃあ、あれかな。
『稲妻のベルクト』との戦いで会得した技だ。
「そーいそいそいそいそいそいそい」
割り箸でわた飴を回し取るイメージで、『雷撃』のイメージを木剣に纏わせていく。
そして、球状になった『雷撃』を――
「そいやっ!」
――瓦礫となった家へと、投げつける。炎で焼かれたのとは違った感じで瓦礫は炭化し、崩れて埃となった。
これにて『スネイル』幹部、全滅だ。
「ちょうど、15分?」
「いえ、ちょっと早いです」
「やっぱり、そうよねえ」
体内時計では、アドニスとコレアと別れてから、13分27秒。
『鎖』で調べてみると、コレアはまだ何もやってない。
「これは、コレアではないようです」
「じゃあ、自然に?」
「もしかしたら、この火事のせいかもしれませんね」
コレアが何をやるはずだったのか、俺は聞いてない。
だが、話の流れで分かった。
きっと、これだろう。
雨が降っていた。
きっとコレアは、『武装僧兵』とやらを使って、雨を降らす予定だったのだ。そうして火事を消す予定だったのだろうが、その前に自然の雨が降り出したというわけだ。
『スネイル』も、残るはボスだけとなった。
『だってここ、うちの国じゃないし』とイゼルダは言うのだが、『うちの国』じゃないから、なおさら問題なのではないだろうか。イゼルダはグイーグ国の公爵夫人だ。それが他国で暴れまわって街を火の海にしている。
これって、普通に外交問題になるんじゃないか?
そんなことを、倫理観とは別の部分で考える俺。しかし、後で聞いたところによると、この襲撃は現地ハジマッタ国の了承を得た上で行われていたのだそうだ。
『スネイル』の市井への浸透はハジマッタ国上層部でも問題視されており、そこに訪れたグイーグ国からの共闘申し入れは、渡りに船だった。
大火事に見えて、実は燃えてるのは『スネイル』構成員と、その協力者の住居のみ。焼け跡は捜査の名目で国が占拠し、最低でも数年間は塩漬けにする予定だそうだ。『スネイル』への協力が割に合わないものだと知らしめるには、これくらいやらなきゃ駄目だということなのだろう。
そして――
「奥さま。こちらの御婦人が」
『スネイル』の幹部も、残り3人となったところで声をかけられた。アドニスだ。隣では、20代前半と思しき女性が口元を抑えている。不安げに、細い肩を震わせて。しかし彼女の目付きと立ち方は、まるで正反対だった。足元は軍人のごとく踵を合わせ、重心は、今すぐどこへでも駆け出せる位置に置かれている――彼女は言った。
「ハジマッタ王国法力軍第4師団『武装僧兵』筆頭、コレア=ベッピダーと申します。イゼルダ夫人。お目にかかれて光栄です!」
コレアの声と表情はいかめしいが、顔立ちは美しかった。
イゼルダが言った。
「私も光栄です。『赤滅のコレア』。いま貴女がここに在るということは――そういうことなのでしょうね」
と、小さく空を指差す。
コレアも、同じく空を指さして。
「はい。ト=ナリの法力殿で、127名の『武装僧兵』が術式を演廻させております。あとは、私がここから加われば……」
「了解です。私は後片付けをしますので、あなたは15分後に――ではクサリ、行きましょう」
つまり、あと15分で残りの幹部を全滅させるということか。
小走りで、その場を離れる。
数ブロック行ったところで、俺は言った。
「どうぞ――何か、あるんですよね」
イゼルダが、何か言いたくてしょうがないという表情だったのだ。
そうなのよ、クサリちゃん!――こちらを向いた顔は、プールで潜水した直後みたいに真っ赤だった。
「ああ、ヤバかった! 緊張した! なんぼなんでも、あの娘を寄越すことはないでしょうに!――絶対、分かってる! 分かってやってる!」
「コレアと、何かあったんですか?」
「彼女っていうか、彼女の父親とね。なんというか……あの娘、私が産んでたかもしれないっていうか。あれだけ種付けファックして孕まなかった自分が不思議っていうか」
それ以上は、訊かないことにした。どうやらハジマッタ王国は、イゼルダにとって縁のあるというか、若き日の黒歴史が詰まった土地だったらしい。
早朝の火事に騒然とする街路を、早足で進んでいく。
「ふん! ふん! ふん! ふん!」
歩く速度は落とさぬまま『肉壁のバンダル』を家ごと微塵切りに。
「しゃっ!」
『鉄骨のボルペン』は、『重圧』のイメージで俺が潰した。
そして最後の1人――
「ん?……ああ、ここだったか」
――『酔歩するドランカ』は、いったん通り過ぎた所を戻って、やはり家ごとイゼルダが叩き切った。
「最後だし、クサリちゃんもやっちゃいなさい」
「はい。奥さま」
じゃあ、あれかな。
『稲妻のベルクト』との戦いで会得した技だ。
「そーいそいそいそいそいそいそい」
割り箸でわた飴を回し取るイメージで、『雷撃』のイメージを木剣に纏わせていく。
そして、球状になった『雷撃』を――
「そいやっ!」
――瓦礫となった家へと、投げつける。炎で焼かれたのとは違った感じで瓦礫は炭化し、崩れて埃となった。
これにて『スネイル』幹部、全滅だ。
「ちょうど、15分?」
「いえ、ちょっと早いです」
「やっぱり、そうよねえ」
体内時計では、アドニスとコレアと別れてから、13分27秒。
『鎖』で調べてみると、コレアはまだ何もやってない。
「これは、コレアではないようです」
「じゃあ、自然に?」
「もしかしたら、この火事のせいかもしれませんね」
コレアが何をやるはずだったのか、俺は聞いてない。
だが、話の流れで分かった。
きっと、これだろう。
雨が降っていた。
きっとコレアは、『武装僧兵』とやらを使って、雨を降らす予定だったのだ。そうして火事を消す予定だったのだろうが、その前に自然の雨が降り出したというわけだ。
『スネイル』も、残るはボスだけとなった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
RESET WORLD
ききょう
ファンタジー
このサイト初投稿です!
よろしくお願いします(*ˊ˘ˋ*)♡
毎日更新予定!(大学受かってたら)
雷に打たれて亡くなった涙。
その原因は雷神だった。
お詫びに異世界に転生した涙は一体どうなるのか。
ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~
雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。
異世界転生したので俺TUEEEを期待してたら戦闘向きの能力じゃなかったので頭を捻ろうと思います。
滝永ひろ
ファンタジー
神隠しにあった少年、新呑陸(にいのみりく)。踏み入れた先は異世界だった。
俺TUEEEEを期待したら、能力は万能の力でも最強の攻撃能力でもなく...!?
毎日21:10更新
前回が一応のSFだったので、とりあえずファンタジーにしてみました。1回描いてみたかったんです。異世界転生。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
伯爵家の三男は冒険者を目指す!
おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる