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15 かげろう

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 翌日の朝、朝日が昇るころ。

 ルルは遺跡全部を囲う、巨大な魔法陣を完成させていた。

「夜の間に書いたのか?」
「ん。てつや」


 空の目を持つワタゲたちと共に、設計しながら描いた。

 コムギ遺跡のあぜ道と放棄された広大な畑を利用した魔法陣は、全ての外敵から彼らを守ってくれるに違いない。


「さすが、昨日昼間から寝ただけあるな。夜のためだったのか」

 確かに夜の方が魔力の流れがいいので、魔法陣を描くには調子が出る。

 別に、昼間寝たのはそのためではなかったが、褒められたのでちょっと嬉しくなり、ルルは適当に「ん」と頷いた。


「かんせいさせる」
「めぇ!!」

 ジャックの鳴き声を聞いた綿毛たちが、一斉にぶわっと上昇し、遺跡を離れる。

『サヨナラ! サヨナラ!』
『マタアオウネ!』
『モドッテクルヨ!』
『マタネ! マタネ!』

 クスクス笑いながら舞い上がるワタゲの数は凄まじく、朝日に輝く紫の空を一瞬で真っ白に染め上げる。


「おー」
「うぉっ、あんなにいたのかよ」
「壮観だな」

 見上げるルルも、思わずため息を漏らす。
 
 それは、本当に美しい光景だった。


『マッテルヨ!』
『イッテラッシャイ!』
『ゲンキデネ!』

 跳ね回るスライムたちは、水路の水や周囲の仲間を取り込んで、体をめいいっぱい膨らませた上、空に向かってジャンプしている。


「よし、オレたちも行くか!」

 ケケは翼を広げ、白い竜へと姿を変えた。
 獰猛に輝く瞳と、鋭い牙が朝日に輝く。

「ん」
「めぇ」

 ルルはジャックに乗せられて、ケケによじ登る。
 ジャックもそのヒヅメを使って、背中を登攀する。

「ポポ、いく」

 ルルは手を伸ばした。


『ぽぽ、ゲンキデネ』
『ウン!』

 ポポは飛んで跳ねて、ルルに向かってジャンプする。

 ケケの上に乗ったルルは、それを受け止め、足の間にそっと置いた。

「ニコ、いる?」
「いるぞ」
「ん」


「んじゃあ、しっかり捕まってろよ! あと、誰か落ちたらすぐに言うんだぞ!」
「……」

 ケケは大きな翼をはためかせ、大空へと飛び立った。

 上空の綿毛たちが、その風にあおられるようにして、方々へと散っていく。

『ワタシタチ、タビスルヒカリ、ケセラ・セラ!』
『タビダツヒカリ、ケセラ・セラ!』


 ルルは両手を動かし、布を編む。
 最後の一列を編み終わったとき、結界は完成する。


 遺跡の地面は輝き始め、その境界はかすかに歪み始めた。

「ケケ、もっとたかくとぶの」
「了解!」

 ケケがさらに高く舞い上がる。


『ゲンキデネ!』
『カエッテキテネ!』

 真下に広がる遺跡に残ったスライムたちの、べちょべちょ跳ねる音は、どんどん小さくなっていく。


 歪みは広がり、空へと延び、やがてその頂上で、閉じる。

「……かんせい」

 ぷつん、音が唐突に途切れる。

 空を埋め尽くさんばかりに舞っていたワタゲすら、どこかに飛んで行ってしまったらしい。


 ケケの翼の風切り音が、澄んだ空に満ちた。

 ルルは足元に置いたポポを、ぎゅっと抱きしめた。

「ポポ、こわい?」

『ゼンゼン、コワクナイヨ! るるガイルカラ、ダイジョウブ!』
「すごく怖いようだ」
『!?』

 思考を読まれたポポは、ニコに内心をバラされてプルプルしている。

「んふふ」

 ルルは目を細めて、クスクス笑う。


「るる、ねむいから、ねる」

 新しい仲間、まだ見ぬ世界。
 きっと、最高に楽しい旅になりそうだ。
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