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13 希むもの(後編)
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事の顛末はこうだ。
児童養護施設に勤めていた彼女は、日々子供たちの嘆きと絶望を聞き続けていた。
その中でも特に希死念慮が強かった8名を手にかけた。
彼らは誰といても満たされなかった。むしろ他人と生活することは、ただひたすらに苦痛だった。
集団生活の中、無条件の愛情など与えられるはずもなく、十分なケアも受けられず、ひたすら自律と自制を求められ、とにかく自分を押し殺すことだけを教え込まれ、その苦痛は、強い者から弱い者へと流れていた。
彼らは永遠に続く地獄に心を壊した。
そしてその眼は曇り、歪んで、思想すらも偏らせた。
自殺する勇気はない。でも死にたい。消えたい。いなくなりたい。
この苦痛から解放されたい。この場所から逃げ出したい。
確かに彼らは頻繁にこぼしていた。「死にたい」と。「誰か殺してくれればいいのに」と。
何度も何度も何度も繰り返した。
生きていることが辛い。
生きることに希望を見いだせない。
親も兄弟もいない。施設の中で親しい者もいない。
彼らは施設の中ですら孤立していた。
594は彼らを救いたいと願った。心の底から。
しかし、彼らは心を開かなかった。
彼らはいつもこう主張した。「僕らを助ける方法は、たった1つだ」
大人になって、ロクな職にもつけずに路頭を彷徨うの? やりたいこともないこの世に、やりたくないことばかりしてしがみつくの? どうせこの先希望なんて何もないのに、どうして生き続けなきゃいけないの?
幼い子供たちに、この公国は残酷過ぎた。
知れば知るほどに、彼らは絶望した。
学べば学ぶほどに、無力感に打ちひしがれた。
現実と理想の乖離、希望の矛盾とその嘘。
彼らは絶望していた。
その絶望は、彼女に伝染した。
彼女自身が、彼らの絶望に犯されていった。
彼女は、昔から人の役に立ちたいと思っていた。
可哀想な子供たちに奉仕することを望み、人の何倍も苦労して、就いた職だった。
それは、他人からすれば、それほど社会的地位の高い職ではなかった。
それでも彼女にとっては望んだ職だった。
だから彼女は自分の職業に誇りを持っていた。
彼女は立派な情熱を持っていた。家族を持たない彼らの家族になってあげたいと、心の底から彼女は願った。
しかし、彼女は仕事ができなかった。
それはすぐに周囲の知るところとなった。
それでも、彼女はその情熱から、どんなに侮辱されても、孤立しても、決して逃げ出さず、努力した。
何度でも教えを乞い、夜遅くまで勉強した。
誰よりも熱心だった。
精一杯頑張った。
一生懸命に努力した。
必死に頑張り、全力で努力した。
しかし、周囲はそんな彼女を、彼女ごと否定した。
彼女は強かった。
強かったが、弱いところもあった。
伝染する孤独と無力感は、猛毒のように彼女の精神を蝕んだ。
彼女すら、それには耐えられなかった。
悲鳴を聞き続けている内に、そして彼女自身も虐げられる内に、彼女の思想は徐々に歪んでいった。
死ぬことこそが幸福であり、それ以外に救われる道はない。
この世界は残酷で、互いに分かり合うことは決してできない。
どんなに手を差し伸べても、抱きしめても、その体は冷たく、体温は伝わらない。
全てはただの慰めで、それは傷の舐め合いでしかなく、救いにはならない。
世界はあまりにも冷たく残酷だ。
強い者をより強くするため、偽物の幸福に踊らされ、命より大事なものを目の前で捻り潰され、骨の髄まで搾取され、都合が悪くなれば指先で殺され、その恐怖から逃げることは決してできない。
無力な自分にできることはただ、可哀想なこの子たちを天国へと送ってやることだけ。
俺ですら思う。
この国に希望など、未来などあるのだろうかと。
解決すべき問題ばかりが山積みで、何1つ解決する間もないままに醜く互いを糾弾し合い、忘れることだけで日々を生きている。
理想だけは高く、より高く積み上がって行き、その希望で崩れていく現実を覆い隠している。
いつ崩壊するのだろう。たまに考える。
こうして天まで積みあがった問題の大きさに、罪の重さに、神が裁きを下すのはいつになるだろう。恐らくそう遠くはないだろう。
もう崩れ始めている。あとは落ちるだけだ。
必死で理想を語っても、希望に逃げても、この場所は確実に破滅の方向へと向かっている。
肌で感じる。神は既に公国を諦めている。
例えばそう、この呑気に鼻歌を歌っている427が生きている間くらいには、何もかも。
「看守さま?」
「あ?」
427の頭を洗う手が止まっていた。
不思議そうな顔をして振り向いている。
「どうしたの、看守さま」
594は考えたのだろう。
叱責されている間、責められている間、罵声と嘲笑を浴びている間。
少しでも力になりたい。助けてあげたい。できることなら何でもしてあげたい。可愛い可愛い子供達のために。
幼い子供たちの悲鳴を、叫びを、嘆きを、深く、真面目に、深刻に、真剣に、それはそれは熱心に、何度も、何度も、何度も、考え続けたのだろう。
苦しい、苦しい。
この先もずっと苦しい。
この先の未来。この先の世界。
幸せにはなれない。幸せにはなれない。
あぁ殺してあげたい。
可哀想なこの子たちを救ってあげたい。
まだ天国が存在するのなら、せめてその場所に送ってあげたい。
「……」
「看守さまー、お背中流します!」
「やめろ」
俺は引っ付いて来ようとする427を抱き上げて湯船に入れ、シャワーのコックを捻って水を止めた。
「どうしたんですか?」
「どうしたって?」
「ぼんやりしてるみたいでしたから」
「……」
「考え事ですか?」
ヴァンピールの発生原因は、未だ分かっていない。
発生時、これは連合国から流出した未知のウイルスによるものだとか、色々言われていた。
これは病気で、だからいつかは治るはずで、彼らの意思による殺戮ではないはずだと、そう、最初は言われていた。
患者は慎重に保護され、治療の方法が模索された。
だが、その数が増え、その犠牲者が増え始めると、手の平を返して保身を選んだ。
吸血鬼化した者は、もれなく射殺の対象とされた。
すると、彼らはまるで抵抗するように数を増やした。爆発的に。
殺せば殺すほどに吸血鬼は増えた。増えた分を殺し、殺した分を産み、それが間に合わなくなりつつある。
ヴァンピールになるのはほとんど子供で、稀に大人。
理由は分かっていない。感染経路も不明。
427は重要だ。史上初の、人間に協力的な吸血鬼。どうやら彼は人類を救う英雄になるのかもしれない。
しかし俺は思ってしまう。それは本当に正しいことなのだろうかと。
弱者にこそ負担を強いて、踏みつけ踏みつぶし間違い続ける。
こんな公国の人間が、こんな醜い肉塊が、一滴残らず穢れた血を吸いつくされることでしか健康になれないのなら。
「……なんでもない」
あるいはこの小さな子供は、この世界の敵なのではないかと。
「看守さん、石鹸を使っても構いませんか」
「ん、ああ。お前も洗ってやるよ」
「えっ、い、いいですよ自分でやりますから」
「座れ」
頭に液体のシャンプーをぶっかけ、一度全体に広げ、流し、再度泡立てる。
「んっ、ぐ……ゆ、揺らさないでください……」
「強くやった方が良いだろ」
「かんしゅさまー、僕がやりたいー!」
「……ならやれ」
「わーい!」
472は喜んで、594の頭を触り始めた。俺の真似をしているらしく、ガシャガシャやっている。
俺はそれを突っ立って眺める。
……そうしてから思い出したが、427は、思春期真っ只中の十三歳だったことを思い出した。
言動が子供じみてるから気にしてなかったが、十三といえば子供というよりもう立派に男なのでは?
そして俺はおもむろに下半身を確認したが、特に反応はしていなかった。キレそう。
いや、よく考えなくても勃ってた方が嫌だ。問答無用で殺してたかもしれないからこれは僥倖。
「ゼノさーん、きもちいですかー?」
「ええ、はい。ありがとうございます」
「えへへ、お背中お流ししまーす!」
精神が子供なだけだろう。気にするほどのことではない。退行している風だし、そっちの方が好都合だ。
「えへへ、すべすべー」
427は嬉しそうに、594に後ろから抱きついた。こいつ、本当に下心ないんだろうな?
「もう……ふふっ、くすぐったいですよ」
子供だと伝えたせいか、594の反応が優しい。
彼女は心の底から楽しそうにクスクス笑いながら、身を捩っている。
なんとも微笑ましい光景だが、俺は427の背中の古傷が気になっていた。
「……」
治っていないところを見ると、ヴァンピール化するより前に受けた傷だろうが、それはそれは凄まじい。
拷問具の件で、「こんなことは死ぬかもしれないからしない」などと何度か言ったが、この傷は死んでもおかしくないような傷に見える。
そして俺には分かる。これは折檻の痕だ。
抵抗を許されない、耐えるしかない一方的な暴力。抵抗を許されない苦痛。その痛みがありありと刻まれている。
鞭の種類を推察するに、2mの一本鞭だ。家畜用にしても長く、太い。子供に当てるには危険すぎる。一発で背中の皮膚が弾け飛んで、肉が裂けただろう。
火傷の跡もある。焼けた暖炉の火消し棒で叩かれたのだろう、醜い焼け跡が臀部に残っている。
そういえば肋骨あたりに骨折の痕もあった気がする。焼けた首に視線が向かったが。
「594、427の体を洗ってやれ」
いい加減に体が冷えそうだ。俺は突っ立って監視することをやめて、湯船に体を沈めた。
「きゃっ、きゃっ!」
「逃げてはいけませんよ。ちゃんと洗いましょうね」
「んへっ、ごしゅごしゅやっ、ぎゅーがいい!」
「遊んでいると風邪を引きますよ」
427は嬉しそうに身を捩って喜んでいる。594も楽しそうだ。
「……寒いな」
小さく呟いて、俺は湯船をかき混ぜた。
いつまでも二人が笑っていれば良いのになんて、思ってしまった。
児童養護施設に勤めていた彼女は、日々子供たちの嘆きと絶望を聞き続けていた。
その中でも特に希死念慮が強かった8名を手にかけた。
彼らは誰といても満たされなかった。むしろ他人と生活することは、ただひたすらに苦痛だった。
集団生活の中、無条件の愛情など与えられるはずもなく、十分なケアも受けられず、ひたすら自律と自制を求められ、とにかく自分を押し殺すことだけを教え込まれ、その苦痛は、強い者から弱い者へと流れていた。
彼らは永遠に続く地獄に心を壊した。
そしてその眼は曇り、歪んで、思想すらも偏らせた。
自殺する勇気はない。でも死にたい。消えたい。いなくなりたい。
この苦痛から解放されたい。この場所から逃げ出したい。
確かに彼らは頻繁にこぼしていた。「死にたい」と。「誰か殺してくれればいいのに」と。
何度も何度も何度も繰り返した。
生きていることが辛い。
生きることに希望を見いだせない。
親も兄弟もいない。施設の中で親しい者もいない。
彼らは施設の中ですら孤立していた。
594は彼らを救いたいと願った。心の底から。
しかし、彼らは心を開かなかった。
彼らはいつもこう主張した。「僕らを助ける方法は、たった1つだ」
大人になって、ロクな職にもつけずに路頭を彷徨うの? やりたいこともないこの世に、やりたくないことばかりしてしがみつくの? どうせこの先希望なんて何もないのに、どうして生き続けなきゃいけないの?
幼い子供たちに、この公国は残酷過ぎた。
知れば知るほどに、彼らは絶望した。
学べば学ぶほどに、無力感に打ちひしがれた。
現実と理想の乖離、希望の矛盾とその嘘。
彼らは絶望していた。
その絶望は、彼女に伝染した。
彼女自身が、彼らの絶望に犯されていった。
彼女は、昔から人の役に立ちたいと思っていた。
可哀想な子供たちに奉仕することを望み、人の何倍も苦労して、就いた職だった。
それは、他人からすれば、それほど社会的地位の高い職ではなかった。
それでも彼女にとっては望んだ職だった。
だから彼女は自分の職業に誇りを持っていた。
彼女は立派な情熱を持っていた。家族を持たない彼らの家族になってあげたいと、心の底から彼女は願った。
しかし、彼女は仕事ができなかった。
それはすぐに周囲の知るところとなった。
それでも、彼女はその情熱から、どんなに侮辱されても、孤立しても、決して逃げ出さず、努力した。
何度でも教えを乞い、夜遅くまで勉強した。
誰よりも熱心だった。
精一杯頑張った。
一生懸命に努力した。
必死に頑張り、全力で努力した。
しかし、周囲はそんな彼女を、彼女ごと否定した。
彼女は強かった。
強かったが、弱いところもあった。
伝染する孤独と無力感は、猛毒のように彼女の精神を蝕んだ。
彼女すら、それには耐えられなかった。
悲鳴を聞き続けている内に、そして彼女自身も虐げられる内に、彼女の思想は徐々に歪んでいった。
死ぬことこそが幸福であり、それ以外に救われる道はない。
この世界は残酷で、互いに分かり合うことは決してできない。
どんなに手を差し伸べても、抱きしめても、その体は冷たく、体温は伝わらない。
全てはただの慰めで、それは傷の舐め合いでしかなく、救いにはならない。
世界はあまりにも冷たく残酷だ。
強い者をより強くするため、偽物の幸福に踊らされ、命より大事なものを目の前で捻り潰され、骨の髄まで搾取され、都合が悪くなれば指先で殺され、その恐怖から逃げることは決してできない。
無力な自分にできることはただ、可哀想なこの子たちを天国へと送ってやることだけ。
俺ですら思う。
この国に希望など、未来などあるのだろうかと。
解決すべき問題ばかりが山積みで、何1つ解決する間もないままに醜く互いを糾弾し合い、忘れることだけで日々を生きている。
理想だけは高く、より高く積み上がって行き、その希望で崩れていく現実を覆い隠している。
いつ崩壊するのだろう。たまに考える。
こうして天まで積みあがった問題の大きさに、罪の重さに、神が裁きを下すのはいつになるだろう。恐らくそう遠くはないだろう。
もう崩れ始めている。あとは落ちるだけだ。
必死で理想を語っても、希望に逃げても、この場所は確実に破滅の方向へと向かっている。
肌で感じる。神は既に公国を諦めている。
例えばそう、この呑気に鼻歌を歌っている427が生きている間くらいには、何もかも。
「看守さま?」
「あ?」
427の頭を洗う手が止まっていた。
不思議そうな顔をして振り向いている。
「どうしたの、看守さま」
594は考えたのだろう。
叱責されている間、責められている間、罵声と嘲笑を浴びている間。
少しでも力になりたい。助けてあげたい。できることなら何でもしてあげたい。可愛い可愛い子供達のために。
幼い子供たちの悲鳴を、叫びを、嘆きを、深く、真面目に、深刻に、真剣に、それはそれは熱心に、何度も、何度も、何度も、考え続けたのだろう。
苦しい、苦しい。
この先もずっと苦しい。
この先の未来。この先の世界。
幸せにはなれない。幸せにはなれない。
あぁ殺してあげたい。
可哀想なこの子たちを救ってあげたい。
まだ天国が存在するのなら、せめてその場所に送ってあげたい。
「……」
「看守さまー、お背中流します!」
「やめろ」
俺は引っ付いて来ようとする427を抱き上げて湯船に入れ、シャワーのコックを捻って水を止めた。
「どうしたんですか?」
「どうしたって?」
「ぼんやりしてるみたいでしたから」
「……」
「考え事ですか?」
ヴァンピールの発生原因は、未だ分かっていない。
発生時、これは連合国から流出した未知のウイルスによるものだとか、色々言われていた。
これは病気で、だからいつかは治るはずで、彼らの意思による殺戮ではないはずだと、そう、最初は言われていた。
患者は慎重に保護され、治療の方法が模索された。
だが、その数が増え、その犠牲者が増え始めると、手の平を返して保身を選んだ。
吸血鬼化した者は、もれなく射殺の対象とされた。
すると、彼らはまるで抵抗するように数を増やした。爆発的に。
殺せば殺すほどに吸血鬼は増えた。増えた分を殺し、殺した分を産み、それが間に合わなくなりつつある。
ヴァンピールになるのはほとんど子供で、稀に大人。
理由は分かっていない。感染経路も不明。
427は重要だ。史上初の、人間に協力的な吸血鬼。どうやら彼は人類を救う英雄になるのかもしれない。
しかし俺は思ってしまう。それは本当に正しいことなのだろうかと。
弱者にこそ負担を強いて、踏みつけ踏みつぶし間違い続ける。
こんな公国の人間が、こんな醜い肉塊が、一滴残らず穢れた血を吸いつくされることでしか健康になれないのなら。
「……なんでもない」
あるいはこの小さな子供は、この世界の敵なのではないかと。
「看守さん、石鹸を使っても構いませんか」
「ん、ああ。お前も洗ってやるよ」
「えっ、い、いいですよ自分でやりますから」
「座れ」
頭に液体のシャンプーをぶっかけ、一度全体に広げ、流し、再度泡立てる。
「んっ、ぐ……ゆ、揺らさないでください……」
「強くやった方が良いだろ」
「かんしゅさまー、僕がやりたいー!」
「……ならやれ」
「わーい!」
472は喜んで、594の頭を触り始めた。俺の真似をしているらしく、ガシャガシャやっている。
俺はそれを突っ立って眺める。
……そうしてから思い出したが、427は、思春期真っ只中の十三歳だったことを思い出した。
言動が子供じみてるから気にしてなかったが、十三といえば子供というよりもう立派に男なのでは?
そして俺はおもむろに下半身を確認したが、特に反応はしていなかった。キレそう。
いや、よく考えなくても勃ってた方が嫌だ。問答無用で殺してたかもしれないからこれは僥倖。
「ゼノさーん、きもちいですかー?」
「ええ、はい。ありがとうございます」
「えへへ、お背中お流ししまーす!」
精神が子供なだけだろう。気にするほどのことではない。退行している風だし、そっちの方が好都合だ。
「えへへ、すべすべー」
427は嬉しそうに、594に後ろから抱きついた。こいつ、本当に下心ないんだろうな?
「もう……ふふっ、くすぐったいですよ」
子供だと伝えたせいか、594の反応が優しい。
彼女は心の底から楽しそうにクスクス笑いながら、身を捩っている。
なんとも微笑ましい光景だが、俺は427の背中の古傷が気になっていた。
「……」
治っていないところを見ると、ヴァンピール化するより前に受けた傷だろうが、それはそれは凄まじい。
拷問具の件で、「こんなことは死ぬかもしれないからしない」などと何度か言ったが、この傷は死んでもおかしくないような傷に見える。
そして俺には分かる。これは折檻の痕だ。
抵抗を許されない、耐えるしかない一方的な暴力。抵抗を許されない苦痛。その痛みがありありと刻まれている。
鞭の種類を推察するに、2mの一本鞭だ。家畜用にしても長く、太い。子供に当てるには危険すぎる。一発で背中の皮膚が弾け飛んで、肉が裂けただろう。
火傷の跡もある。焼けた暖炉の火消し棒で叩かれたのだろう、醜い焼け跡が臀部に残っている。
そういえば肋骨あたりに骨折の痕もあった気がする。焼けた首に視線が向かったが。
「594、427の体を洗ってやれ」
いい加減に体が冷えそうだ。俺は突っ立って監視することをやめて、湯船に体を沈めた。
「きゃっ、きゃっ!」
「逃げてはいけませんよ。ちゃんと洗いましょうね」
「んへっ、ごしゅごしゅやっ、ぎゅーがいい!」
「遊んでいると風邪を引きますよ」
427は嬉しそうに身を捩って喜んでいる。594も楽しそうだ。
「……寒いな」
小さく呟いて、俺は湯船をかき混ぜた。
いつまでも二人が笑っていれば良いのになんて、思ってしまった。
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