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「落ちるんじゃないぞ、怪我するからな!」
「もちろんだよー!」
シエルが駆け抜け、テドは速度と高所有利を生かして剣を踊るように激しく動かしコボルトを屠っていく。
「ねえシエル、体の一部に銃が入ってるコボルトもいるけど、撃って来ないの?」
「コボルトは銃を使うほど賢くないから、大丈夫だ」
「そうなんだぁ」
「そういう君は銃を使わないのか?」
「僕は銃を使えるほど賢くないから、無理だよ」
「確かに、テドはある程度複雑な物体を触ると、もれなく爆発させそうだな」
「もちろん。触ろうものならすごい勢いでガチギレされるよ」
「ハハハ! ワタシが持ち主でもすっごい怒るだろうなぁ! テドには大事なもの触らせたくないからな!!」
「ねぇ、それちょっとどういう意味?」
コボルトはカラカラと金属の軋む音を立てながら、枝のような手を振り回している。
テドはそんなコボルトを容赦なく切り捨てる。
「まあ、テドじゃなくても、銃を使える者は少ないけどな」
「あ、やっぱりそうなんだ。持ってる人、全然いないよね」
銃はロスト・テクノロジーより開発されたと言われる武器だ。
魔力を弾にし、引き金を引いて爆発させるようにしてそれを発射して高威力の衝撃を与える。
魔法や弓矢に対して高速で長距離の攻撃が可能で、その威力も高いのだが、当てるのが難しく、物理的にも魔法的にも反動が激しい。
またなにより装填が難しく、焦ると暴発して事故になる上に、どんなに急いでも弓を引くより時間がかかるというのも、その使い勝手の悪さに拍車をかけている。
後ろからやって来たコボルトを、シエルは後ろ足で蹴り上げる。
テドは器用に体を浮かせて衝撃を逃がして、熱を帯びた剣をくるりと手の中で回転させた。
「さすがリスペディアだね。この剣、すごく強いよ。向こうにまだ残党がいるし、あっちに走ってくれない?」
「そうだな、向こうに巣の出入口がありそうだ。もっと腿を締めた方がいい。落ちたらただじゃ済まないぞ」
砂を巻き上げながら、高速で走るシエルの上でテドは剣を振る。
一振りで数体のコボルトが焼き切れる。
「よいっ、しょー!」
思いっきり薙ぎ払うと、熱波が広がり無力なコボルトはカラカラと音を立てて崩れていく。
もうほとんど向かってくる個体はいない。戦える個体も、こちらに背を向けている。
「いいぞテド!」
シエルは、地団駄を踏み巣の入り口を崩して塞ぐ。
「このまま全滅させよう!」
「うん!」
しかし不利を悟ったのか、コボルトは少しずつ集まり始めていた。
集まったコボルトはお互いに重なり合い、個を失い、熱を持ち、徐々に大きくなっていく。
「テド、気をつけろ! 奴ら集合してる!」
「集合?」
「コボルトは合体するんだ、早く分断するぞ!」
「合体?」
集まったコボルトは、瞬く間に山のようになり、無数の機械の腕が飛び出した。
それは砂漠の砂を巻き込み、見上げるくらいに大きくなる。
「わぁ、すっごい」
テドは気の抜けたような声を上げて、シエルの背中から降りた。
「お、おいテド! 何しているんだ!」
「倒しちゃえばいいんでしょ? 僕一人で行ってくるよ!」
「いや待て、無茶だ!」
シエルの止める声も聞かず、テドはそのまま走り出す。
砂粒が靴の裏で爆ぜている。テドはスキップするように笑っていた。
「クゥ」『テド、オレモ テツダウ』
リリーがテドの首元に、小さな爪を立てて張り付く。魔力を分けてくれるらしい。
テドは思わず「ふふっ」と笑った。
「なぁに、リリー。可愛いなぁ、あとでいっぱいなでなでしてあげるからね」
属性付与の維持や増幅には、そこまで魔力を消費しないが、【魔力】方面の努力値はあまり振っていないので、正直結構助かる。
リリーは、頼みもしていないのに手伝ってくれる。
テドは、口は悪いがなんだかんだで可愛いリリーが大好きだ。
(ホント、リリーは可愛いなぁ……)
「さてと、魔力を溜めて……こんな感じかなぁ」
テドは少ない魔力をかき集め、剣へと集中させる。
増幅した属性付与で、刃は熱を増している。
コボルトは既に合体し、見上げるくらいの大きさになっていた。
恐らく死んだ仲間すらも取り込んだ彼らは、手足が無茶苦茶に飛び出て、ゆっくりゆっくり脈動している。外から見るとこの世のものとも思えない、化け物にしか見えない。
個々が積み重なりカタカタと音を立てながら、意識は全体に統合されていく。それらは明確にテドを認識する。
「テド! 私がやるわ!! 下がって!!」
リスペディアが叫ぶのを、テドは聞こえないフリをする。
こんなに面白そうな仕事を、みすみす逃すなんてあり得ない。
「おっきーねー」
コボルトの集合体は、無数の腕を振り上げ、振り下ろした。
テドはそれを軽々と避け、追撃を跳ね除けて、カウンター気味に強く踏み込み、剣を振り上げた。
「よっ、っと」
縦に炎が散った。
激しい衝撃と共に、砂は大きく抉れ、同時に集合したコボルトが飛散し、炎に包まれて溶けていく。
「……あーあ、壊れちゃった」
属性付与を解除すると、剣は力尽きたように刃がボロボロと砕けて崩れた。
テドは、そんな剣をポイッと放り投げた。
「討伐完了だよ、二人とも!」
「もちろんだよー!」
シエルが駆け抜け、テドは速度と高所有利を生かして剣を踊るように激しく動かしコボルトを屠っていく。
「ねえシエル、体の一部に銃が入ってるコボルトもいるけど、撃って来ないの?」
「コボルトは銃を使うほど賢くないから、大丈夫だ」
「そうなんだぁ」
「そういう君は銃を使わないのか?」
「僕は銃を使えるほど賢くないから、無理だよ」
「確かに、テドはある程度複雑な物体を触ると、もれなく爆発させそうだな」
「もちろん。触ろうものならすごい勢いでガチギレされるよ」
「ハハハ! ワタシが持ち主でもすっごい怒るだろうなぁ! テドには大事なもの触らせたくないからな!!」
「ねぇ、それちょっとどういう意味?」
コボルトはカラカラと金属の軋む音を立てながら、枝のような手を振り回している。
テドはそんなコボルトを容赦なく切り捨てる。
「まあ、テドじゃなくても、銃を使える者は少ないけどな」
「あ、やっぱりそうなんだ。持ってる人、全然いないよね」
銃はロスト・テクノロジーより開発されたと言われる武器だ。
魔力を弾にし、引き金を引いて爆発させるようにしてそれを発射して高威力の衝撃を与える。
魔法や弓矢に対して高速で長距離の攻撃が可能で、その威力も高いのだが、当てるのが難しく、物理的にも魔法的にも反動が激しい。
またなにより装填が難しく、焦ると暴発して事故になる上に、どんなに急いでも弓を引くより時間がかかるというのも、その使い勝手の悪さに拍車をかけている。
後ろからやって来たコボルトを、シエルは後ろ足で蹴り上げる。
テドは器用に体を浮かせて衝撃を逃がして、熱を帯びた剣をくるりと手の中で回転させた。
「さすがリスペディアだね。この剣、すごく強いよ。向こうにまだ残党がいるし、あっちに走ってくれない?」
「そうだな、向こうに巣の出入口がありそうだ。もっと腿を締めた方がいい。落ちたらただじゃ済まないぞ」
砂を巻き上げながら、高速で走るシエルの上でテドは剣を振る。
一振りで数体のコボルトが焼き切れる。
「よいっ、しょー!」
思いっきり薙ぎ払うと、熱波が広がり無力なコボルトはカラカラと音を立てて崩れていく。
もうほとんど向かってくる個体はいない。戦える個体も、こちらに背を向けている。
「いいぞテド!」
シエルは、地団駄を踏み巣の入り口を崩して塞ぐ。
「このまま全滅させよう!」
「うん!」
しかし不利を悟ったのか、コボルトは少しずつ集まり始めていた。
集まったコボルトはお互いに重なり合い、個を失い、熱を持ち、徐々に大きくなっていく。
「テド、気をつけろ! 奴ら集合してる!」
「集合?」
「コボルトは合体するんだ、早く分断するぞ!」
「合体?」
集まったコボルトは、瞬く間に山のようになり、無数の機械の腕が飛び出した。
それは砂漠の砂を巻き込み、見上げるくらいに大きくなる。
「わぁ、すっごい」
テドは気の抜けたような声を上げて、シエルの背中から降りた。
「お、おいテド! 何しているんだ!」
「倒しちゃえばいいんでしょ? 僕一人で行ってくるよ!」
「いや待て、無茶だ!」
シエルの止める声も聞かず、テドはそのまま走り出す。
砂粒が靴の裏で爆ぜている。テドはスキップするように笑っていた。
「クゥ」『テド、オレモ テツダウ』
リリーがテドの首元に、小さな爪を立てて張り付く。魔力を分けてくれるらしい。
テドは思わず「ふふっ」と笑った。
「なぁに、リリー。可愛いなぁ、あとでいっぱいなでなでしてあげるからね」
属性付与の維持や増幅には、そこまで魔力を消費しないが、【魔力】方面の努力値はあまり振っていないので、正直結構助かる。
リリーは、頼みもしていないのに手伝ってくれる。
テドは、口は悪いがなんだかんだで可愛いリリーが大好きだ。
(ホント、リリーは可愛いなぁ……)
「さてと、魔力を溜めて……こんな感じかなぁ」
テドは少ない魔力をかき集め、剣へと集中させる。
増幅した属性付与で、刃は熱を増している。
コボルトは既に合体し、見上げるくらいの大きさになっていた。
恐らく死んだ仲間すらも取り込んだ彼らは、手足が無茶苦茶に飛び出て、ゆっくりゆっくり脈動している。外から見るとこの世のものとも思えない、化け物にしか見えない。
個々が積み重なりカタカタと音を立てながら、意識は全体に統合されていく。それらは明確にテドを認識する。
「テド! 私がやるわ!! 下がって!!」
リスペディアが叫ぶのを、テドは聞こえないフリをする。
こんなに面白そうな仕事を、みすみす逃すなんてあり得ない。
「おっきーねー」
コボルトの集合体は、無数の腕を振り上げ、振り下ろした。
テドはそれを軽々と避け、追撃を跳ね除けて、カウンター気味に強く踏み込み、剣を振り上げた。
「よっ、っと」
縦に炎が散った。
激しい衝撃と共に、砂は大きく抉れ、同時に集合したコボルトが飛散し、炎に包まれて溶けていく。
「……あーあ、壊れちゃった」
属性付与を解除すると、剣は力尽きたように刃がボロボロと砕けて崩れた。
テドは、そんな剣をポイッと放り投げた。
「討伐完了だよ、二人とも!」
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