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05- 日常系が良く似合う
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それからしばらくテドと行動を共にするうち、リスペディアは気づいていた。
テドの実力はかなり高い。
本人とリリー曰く、魔物と戦った経験はあまりないということだったが、そのレベルからは考えられないくらいに動ける。
この前だって、たまたま通った大通りの頭上からフライパンが降って来たのに反応して、当然のように片手で持ち手を掴んで受け止めていた。
どう多めに見積もっても養蜂家よりも戦闘力がなさそうなテドが、三階の窓から投げ出されたフライパンを華麗に受け止めたため、周囲の人々もかなり困惑していた。
もちろんリスペディアも困惑した。
ちなみに、そのとき、シエルは蹄を鳴らして大爆笑していた。
確かにフライパンをかっこよく受け止める絵面はすごく面白かったけども。
ちなみに、フライパンは夫婦喧嘩の末に息子さんが投げたらしい。リスペディアは余計なトラブルを避けるため、静かに頷き、すぐにその場を離れたため詳細は分からない。
さて、そんな楽しいイベントを堪能しながら三人と一匹で湖畔のギルド周辺の宿に泊まること数日。
シエルとテドも、かなり仲良くなっていた。テドは持ち前の人懐っこさがあったし、シエルもテドの変な行動を面白がっている。
「テド、シエルと相談したんだけどね。一度ギルドの依頼を受けてみない?」
「えっ、依頼を受けてもいいのっ!?」
テドは冒険者登録をした当初から、ギルドの依頼を受けたがっていた。
依頼なんて面倒だし、特にお金に困ってるわけでもないので今まで受けて来なかったのだが、シエルがリスペディアに言うには、旅を始める前に、一度チームワークを確かめる意味でも受注してみた方がいいという。
「そうだな。ワタシもだいぶテドのことを理解してきたし、この辺で一度互いの実力を確認しようじゃないか」
「……ねぇシエル、テドのことを本当に理解してる?」
「理解できないことを理解した。テドのことは考えても無駄だ」
「やったー! じゃあ受けて来るね! 僕が選んでいい!?」
「うむ。ちゃんとギルドの職員に相談するんだぞ?」
「はーい!!」
リスペディアは、テドのほっぺたをビンタした。
テドも慣れており、満面の笑みを浮かべる。
「行ってきます! 楽しみだなぁ!」
そして、テドは一人で飛び出して行った。
「……誰かとぶつかったりしないといいけど」
「大丈夫だろう。テドは他人に突撃するようなヘマはしないさ」
「クゥ」
リリーは、意思疎通ができずご飯ばかり食べさせてくれるテドから逃れるため、満腹のときはリスペディアの帽子の外か中かどちらかに張り付いている。
ここに残ったということは、そこそこ満腹だったのだろう。
「シエル、どんな依頼を受けるか、言わなくて良かったの?」
リスペディアはリリーの頭を指先で撫でながら尋ねた。
「あまり無理な依頼なら、ギルドも断るだろう。ワタシ達と一緒とはいえ、冒険者ランクからもビギナー冒険者だということは分かるはずだからな」
「クゥ」『ミルカラニ バカ ダカラナ』
「そうね、ギルドの職員を信じましょ」
テド自身の信用はさておき、テドは周囲の人をほっこりさせるというか、親切にしなきゃと思わせるというか、そういう雰囲気がある。
放っておけない。色んな意味で。
リスペディアもシエルも、テドの周囲の善意を信じて送り出したのだった。
「多少難しい依頼でもいいじゃないか。とりあえず、時間的な猶予はあるんだろう?」
「夏はまだ始まったばかりだし、時間は大丈夫よ。滝の洞窟で、雪山の天気のいいときを待つわ。あの洞窟も、今なら人は少ないはずだし」
「面倒だな、すぐに行きたいのに」
「仕方ないでしょ。下手な天気の時に出発したら、全員遭難よ」
「リディアは、相変わらずの慎重派だな」
「二人が楽観的過ぎるんじゃないの?」
「ハハハ。前向きなだけだよ」
「どうだか」
と、リスペディアは肩を竦める。
(でも、こういうところに救われるときもあるのよね……)
バンッ、と激しく扉が叩きつけられる音。
「ただいま戻りました! 僕です!!」
「逆にアンタじゃなかったら誰なのよ」
テドが帰宅したようだ。
初めてのお使いを済ませて来た子供のように、キラキラした笑顔を浮かべている。すごく満足そうだ。
「依頼、受けて来たよ! さっそく出発しよう!」
「どこに行くの?」
「砂漠!」
「……砂漠のどこ?」
てっきり近場の草原にでも行くのかと思ったら、意外と遠征を強いられるようだ。
そんなに遠くはないが、砂漠に行くと砂に構われることになる。リスペディアは少し嫌な予感がした。
「早く早く、すぐに行かないと日が暮れちゃうよ! ほら、おいでリリー!」
「クゥ」
呼ばれたリリーは、ぴょんとリスペディアの帽子のつばからテドの肩へと器用にジャンプし飛び移る。
「じゃあ、僕は行くからね! ぐずぐずしてると置いてっちゃうよ!」
「別に置いて行かれてもいいけど、死ぬのはアンタだからね?」
うきうきしすぎてやや自分を見失いつつあるテドに、若干には収まらないくらいの不安を抱えながらも、リスペディアは急いで準備を整えた。
「いいコンビだな!」
シエルは爽やかに笑った。
(やっぱり、ただ楽観してるだけに見えるけど)
リスペディアはそんなシエルを、訝しげに眺めている。
テドの実力はかなり高い。
本人とリリー曰く、魔物と戦った経験はあまりないということだったが、そのレベルからは考えられないくらいに動ける。
この前だって、たまたま通った大通りの頭上からフライパンが降って来たのに反応して、当然のように片手で持ち手を掴んで受け止めていた。
どう多めに見積もっても養蜂家よりも戦闘力がなさそうなテドが、三階の窓から投げ出されたフライパンを華麗に受け止めたため、周囲の人々もかなり困惑していた。
もちろんリスペディアも困惑した。
ちなみに、そのとき、シエルは蹄を鳴らして大爆笑していた。
確かにフライパンをかっこよく受け止める絵面はすごく面白かったけども。
ちなみに、フライパンは夫婦喧嘩の末に息子さんが投げたらしい。リスペディアは余計なトラブルを避けるため、静かに頷き、すぐにその場を離れたため詳細は分からない。
さて、そんな楽しいイベントを堪能しながら三人と一匹で湖畔のギルド周辺の宿に泊まること数日。
シエルとテドも、かなり仲良くなっていた。テドは持ち前の人懐っこさがあったし、シエルもテドの変な行動を面白がっている。
「テド、シエルと相談したんだけどね。一度ギルドの依頼を受けてみない?」
「えっ、依頼を受けてもいいのっ!?」
テドは冒険者登録をした当初から、ギルドの依頼を受けたがっていた。
依頼なんて面倒だし、特にお金に困ってるわけでもないので今まで受けて来なかったのだが、シエルがリスペディアに言うには、旅を始める前に、一度チームワークを確かめる意味でも受注してみた方がいいという。
「そうだな。ワタシもだいぶテドのことを理解してきたし、この辺で一度互いの実力を確認しようじゃないか」
「……ねぇシエル、テドのことを本当に理解してる?」
「理解できないことを理解した。テドのことは考えても無駄だ」
「やったー! じゃあ受けて来るね! 僕が選んでいい!?」
「うむ。ちゃんとギルドの職員に相談するんだぞ?」
「はーい!!」
リスペディアは、テドのほっぺたをビンタした。
テドも慣れており、満面の笑みを浮かべる。
「行ってきます! 楽しみだなぁ!」
そして、テドは一人で飛び出して行った。
「……誰かとぶつかったりしないといいけど」
「大丈夫だろう。テドは他人に突撃するようなヘマはしないさ」
「クゥ」
リリーは、意思疎通ができずご飯ばかり食べさせてくれるテドから逃れるため、満腹のときはリスペディアの帽子の外か中かどちらかに張り付いている。
ここに残ったということは、そこそこ満腹だったのだろう。
「シエル、どんな依頼を受けるか、言わなくて良かったの?」
リスペディアはリリーの頭を指先で撫でながら尋ねた。
「あまり無理な依頼なら、ギルドも断るだろう。ワタシ達と一緒とはいえ、冒険者ランクからもビギナー冒険者だということは分かるはずだからな」
「クゥ」『ミルカラニ バカ ダカラナ』
「そうね、ギルドの職員を信じましょ」
テド自身の信用はさておき、テドは周囲の人をほっこりさせるというか、親切にしなきゃと思わせるというか、そういう雰囲気がある。
放っておけない。色んな意味で。
リスペディアもシエルも、テドの周囲の善意を信じて送り出したのだった。
「多少難しい依頼でもいいじゃないか。とりあえず、時間的な猶予はあるんだろう?」
「夏はまだ始まったばかりだし、時間は大丈夫よ。滝の洞窟で、雪山の天気のいいときを待つわ。あの洞窟も、今なら人は少ないはずだし」
「面倒だな、すぐに行きたいのに」
「仕方ないでしょ。下手な天気の時に出発したら、全員遭難よ」
「リディアは、相変わらずの慎重派だな」
「二人が楽観的過ぎるんじゃないの?」
「ハハハ。前向きなだけだよ」
「どうだか」
と、リスペディアは肩を竦める。
(でも、こういうところに救われるときもあるのよね……)
バンッ、と激しく扉が叩きつけられる音。
「ただいま戻りました! 僕です!!」
「逆にアンタじゃなかったら誰なのよ」
テドが帰宅したようだ。
初めてのお使いを済ませて来た子供のように、キラキラした笑顔を浮かべている。すごく満足そうだ。
「依頼、受けて来たよ! さっそく出発しよう!」
「どこに行くの?」
「砂漠!」
「……砂漠のどこ?」
てっきり近場の草原にでも行くのかと思ったら、意外と遠征を強いられるようだ。
そんなに遠くはないが、砂漠に行くと砂に構われることになる。リスペディアは少し嫌な予感がした。
「早く早く、すぐに行かないと日が暮れちゃうよ! ほら、おいでリリー!」
「クゥ」
呼ばれたリリーは、ぴょんとリスペディアの帽子のつばからテドの肩へと器用にジャンプし飛び移る。
「じゃあ、僕は行くからね! ぐずぐずしてると置いてっちゃうよ!」
「別に置いて行かれてもいいけど、死ぬのはアンタだからね?」
うきうきしすぎてやや自分を見失いつつあるテドに、若干には収まらないくらいの不安を抱えながらも、リスペディアは急いで準備を整えた。
「いいコンビだな!」
シエルは爽やかに笑った。
(やっぱり、ただ楽観してるだけに見えるけど)
リスペディアはそんなシエルを、訝しげに眺めている。
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